マルチステージのリカレント教育という幻想

マルチステージのリカレント教育という幻想
https://www.tachibana-akira.com/2024/02/14725

『アンドリュー・スコット、リンダ・グラットンの『LIFE SHIFT2(ライフシフト2) 100年時代の行動戦略』( 池村千秋訳、東洋経済新報社)は「人生100年時代」が現実のものになることを説いて日本でもベストセラーになった『LIFE SHIFT(ライフシフト)』の続編で、著者の一人グラットンは安倍元首相から「人生100年時代構想会議」のメンバーに任命された。』

『著者たちの主張は前作から一貫しており、それをひと言でまとめるなら、「人類史上未曾有の「超長寿社会」とテクノロジーの指数関数的進歩がもたらす激変に備えなければならない」になるだろう。

本作では、「技術的発明」は新たな可能性を生み出すが、それがひとびとに恩恵をもたらすには「社会的発明」が必要になることが論じられる。それにもかかわらず、いまは「技術的発明」だけが先行し、「社会的発明」が大きく出遅れていると著者たちは危惧している。

とはいえ私は、本書の提案に完全に納得しているわけではない。そのことも含めて感想を書いておきたい。』

『本書には書かれていないが、日本では2040年に国民の3人に1人が年金受給年齢の65歳を超え、内閣府の試算では年金や医療・介護保険などの社会保障費の総計が200兆円に達する。20代から65歳までの現役世代を5000万人とするならば、単純計算で1人年400万円の負担だ。

こんな制度が持続可能だとは誰も思わないだろう。その結果、コロナ禍で政府が現金を給付しても、貧困層以外のほとんどが貯蓄に回し、国の借金と個人(家計)の金融資産が増えるだけになった。』

『もう1つは、「いまの20代は80代まで働かなくてはならない可能性がある」こと。』

『私はずっと「日本は生涯現役社会になる」といいつづけてきたが、以前は中高年のサラリーマンから、「懲役10年でようやく出所できると思っていたのに、無期懲役だというのか」とのお叱りをずいぶん受けた。あらゆる国際比較で、日本のサラリーマンは世界でもっとも仕事が嫌いで会社を憎んでいることが明らかになっており、だとしたらこうした反応も仕方がないとあきらめていたのだが、安倍政権の「人生100年時代構想会議」以降、生涯現役への批判はほぼなくなった。

「超高齢社会での最強の人生設計は“生涯共働き”以外にない」の主張も、最近は「空理空論」と怒られることはなくなった。「専業主婦は2億円損をする」と、当たり前のことをいっただけで炎上したことを思えば隔世の感がある。

日本人に現実を直視させたという意味で、著者たちの貢献は間違いなく大きい。』