塹壕と地雷だらけの大草原。その全てが敵の火砲の射程内。こんなところで歩兵が…。

塹壕と地雷だらけの大草原。その全てが敵の火砲の射程内。こんなところで歩兵が…。
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『Jakub Jajcay 記者による2024-2-14記事「My Lessons Learned From the Ukraine War」。
   記者は2022-8にウクライナ軍に志願し、歩兵大隊の小銃手になった。
 それから10ヵ月間、記者はハルキウ、ドネツク、ルハンスクを転戦した。
 入隊時に、記者は政治学の博士号を持っていた。その前はスロバキア陸軍の将校だった。

 ウクライナから帰郷後、記者はNATOの本職たちを相手にセミナーを何度か開いた。そこで討論を重ねるうちに、このような記事をまとめて公表することが有益だと思った。

 記者は塹壕の中で、ウクライナ人のへこたれない根性を見た。これが侵略者を食い止めている原動力である。

 1000kmの対峙線のうち、バフムトのような市街戦は例外である。ほとんどすべての前線は、非市街地での野戦である。それゆえNATO軍の教官どもが、ウクライナ兵に市街戦のやり方を時間をかけて教えているのは、無駄もいいところである。

 ウクライナの大原野&耕地は、見通しが良い。このような土地では、そもそも、敵に接近することが容易ではないのである。これがNATO軍の教官どもに、さっぱり把握されていない。

 塹壕と地雷だらけの大草原。その全てが敵の火砲の射程内。こんなところで歩兵が気の利いた機動戦など組み立てられるものではない。

 ここでは歩兵の仕事は単純化される。「敵歩兵の籠もる塹壕をいかに襲撃してやるか」を考えることだ。

 2年間で、ウクライナ軍の歩兵戦術は進化したか? ぜんぜん進化してねえ。
 前線に送られてくる補充兵は、「歩兵戦術」のカケラも教練されてねえ。

 中隊が交替で最前線に赴くとき、このド素人兵どもにてめえの命を預けなくてはならねえ。

 最前線の配置につく段取りはこうだ。

 最多のときは30人もの兵が、1両のBTRもしくはMT-LBの天蓋に跨乗して行く。

 下車点に到着。われわれは10分間をかけて、装甲車の中から需品を引っ張り出す。とにかくノロい。てれんこてれんこやる。

 そこから1名~数名のランダム・グループに分かれ、持ち場の塹壕に、ゆっくり歩いて行く。たいがいそこは潅木林帯だ。敵の塹壕は500m先で、敵の物音が聞こえてくる距離だ。しかるに、こっちは平気でLED懐中電灯を使う。

 みんな露軍の塹壕を舐めている。露軍の塹壕は「地下都市」なのだ。それは単純な塹壕ではない。交通壕のネットワークもできている。そこを攻めるには、無知ではダメだ。システマチックに敵の塹壕を掃討して行く、歩兵部隊の手順がある。その教育が必要だ。

 記者は数ヵ月、小隊内のドローン操縦士を相棒にしていた。そこから得られたインサイダーの知見は以下の如し。

 まず確かなこと。いかなる将来の戦争も、もはやドローン無しで勝つなどということは、思いもよらない。

 しかし、まず「勝つ」ことは忘れろ。何を措いても、ドローン戦場で生き残る術を確保せよ。そうでなければ、そもそもサバイバルができないのだ。

 今日の戦場では、部隊のいかなる動きも、秘匿遮蔽されていない限りは、即座に敵にみつかり、そこへドローンが突っ込んで来る。

 安物の市販ドローンの監視から逃れるには、とにかく、昼間は動かないこと。動けば見つかるが、止まっている限り、安物ドローンのISRは、気付けないので。もちろん、これは「遠目」の話だ。至近距離ではみつかる。

 SNSに上がっている無数のビデオを視ればわかるだろうが、ドローンは高度100m以下では偵察しない。また、真下も監視してはいないものである。

 遠くにドローンの気配を感じたら、動きを止めて地面に伏せろ。それで大概のドローンの凝視からは免れるのである。

 敵ドローンの俯瞰視野を少しでも邪魔する地物はすべて利用しろ。たとえば樹幹に身を寄せて立つこと。これは有効である。

 超高性能なISRを搭載したプロ用ドローンはあるが、戦場を埋め尽くすほどの数を用意できる軍隊はほとんど無い。近い将来の戦場で、そんなドローンが頭上をすっかり覆ってしまうことはない。

 記者が従軍していたとき、所属大隊は、ドローンは最前線の小隊で1個、運用していなくてはダメだという結論に達していた。最前線から運用するほど、善いという考えだ。
 その結論に即して、すべての小隊内で数名ずつのドローン係が指名されていた。

 歩兵小隊がドローンを持っていなかったらどういうことになるか? 前方に何か気になるモノが見えたときに、その確認をしてもらうためには、無線で上級部隊に頼まなくてはならない。この無駄手間を省けるのだ。

 ※敵がESMを持っている場合、無線交信をやたらにしないことは、とても大事である。

 最前線では、露軍のECMは強烈だった。こっちの無線は常時ジャミングがかけられていて、交話不可能だった。

 だから、最前線小隊が、独自のドローンを飛ばして、前面の敵情を把握することに至大の価値があるのだ。

 ※ますます確信したこと。超小型のテーザーのクォッドコプターを小隊は常用するべきだ。それは下士官の班長が持つ「他撮り棒」の上端から離昇するようにしたらいい。有線式なら無線エミッションもゼロ。よってESMに探知されないしジャミングも無効だ。

 ドローンを露軍の塹壕上空でうろつかせることは困難である。こっちのリモコン電波よりも敵のジャミング電波の方が強く、制御信号が途切れて墜落してしまうのだ。

 この電界強度の対抗がしやすいという点からも、最前線の小隊みずから、ドローンを操ることには利点が大きいのである。

 記者は推奨する。中型無人機や大型無人機も、できるだけ、最前線からリモコンした方がよい。万事、その方が有利になる。シチュエーションアウェアネスで敵を圧倒できるだろう。

 ドローンは、消耗品として扱われるのが正しい。記者の所属小隊は、おおむね、月に1機のペースで、偵察ドローンを喪失した。

 エバキュエーションの問題。
 2022秋のLymanでわれわれは50人中隊だったが、8時間連続の砲撃を受けて、20人を死傷させられた。

 最初に負傷した数人はラッキーだった。装甲車で後送してもらえたから。

 ところがそれに続く十数人は不幸だった。後送する手段がないのだ。

 これから戦争に行く中隊長は、あらかじめ CASEVACプラン=負傷者救急計画 を、特定の車両について言い含めておかないといけない。特に大事なこと。最初の負傷者を後送した軽装甲車が、患者を卸した先で、別な任務を与えられてしまうこと。それをさせるな。患者を卸したらすぐにまた元の前線までもどれ。これを徹底しないと、地獄を見るぜ。

 ※そもそも宇軍には車両のドライバーに与える「ディスパッチ」の慣習も無いという驚くべき後進性が語られているが、長いので略す。』