ウクライナの「冷徹な新総司令官」を、露メディアはどう分析しているか

ウクライナの「冷徹な新総司令官」を、露メディアはどう分析しているか
https://news.yahoo.co.jp/articles/7b6780e487b511e62171cb9c28c75493cbc35321?page=1

『ロシアによるウクライナ侵攻から、間もなく2年となる。そんななか、ウクライナのゼレンスキー大統領は2月8日、国民から人気の高いヴァレリー・ザルジニー総司令官を解任し、新たにオレクサンドル・シルスキーを指名した。

人員不足のウクライナ軍 兵士の平均年齢がついに40歳を超える

なぜこのタイミングで解任したの?

ザルジニーの解任が正式発表される直前、ゼレンスキーはテレグラムに「軍にどのような刷新が必要かを(ザルジニーと)協議した」と投稿している。そして指揮官を交代させる決断を下したのは、「国防の基礎を効果的に変える」必要があったからだと説明した。

米メディア「ヴォックス」によれば、ゼレンスキーとザルジニーは、徴兵制を巡る議論や「戦争の進展のなさをどのように国民に説明するか」で意見が食い違っていたという。

ウクライナメディア「キーウ・インディペンデント」によると、大統領府顧問のミハイロ・ポドリャクは、ザルジニーの解任を決定した理由を次のように述べている。

「2023年に充分な結果を出せなかった戦術を見直し、最前線の停滞という、国民感情に悪影響を及ぼす状況を防ぐ必要がある。また、イニシアチブを維持・発展させるために、機能的でハイテクな解決策を新たに見出さなければならない」

一方で、ウクライナ国民から非常に人気の高いザルジニーを、ゼレンスキーは「政治的脅威とみなしている」と考える専門家もいる。

「戦時下において、大統領と軍の最高責任者は手を取り合っていたいものだが、2人はそうではなかったようだ」と、米外交問題評議会のチャールズ・クプチャン上級研究員はヴォックスに語っている。

ヴァレリー・ザルジニーって誰?

新たな総司令官となったオレクサンドル・シルスキーは、経験豊富な指導者であると同時に「軍隊を危険にさらすことをいとわない姿勢から批判されている」とヴォックスは報じる。

欧州ラジオ局「ラジオ・フリー・ヨーロッパ」によれば、現在58歳のシルスキーはロシア生まれだ。多くのウクライナ軍幹部がそうであるように、ソ連時代のロシアで訓練を受け、モスクワ高等軍事指揮学校で学び、ソ連の砲兵将校として働いた。

ソビエト崩壊後、シルスキーはウクライナに移住する。そして2014年、ロシアから最初の侵攻を受けたとき、シルスキーはウクライナ軍として「対テロ作戦の最高司令官に任命され、ロシアの支援を受けた戦闘員と戦った」。

2022年2月に始まったロシアによる侵攻でも、彼はキーウ周辺の防衛作戦で中心人物となった。ハリコフ州の奪還でも大きな功績をあげている。

一方でドネツク州バフムトの戦闘では多数の死傷者を出した。9ヵ月以上続いた戦いのすえ、数千人の兵士が命を落とし、最終的にはロシアに占領され、兵士たちの不満を招いた。

「伝えられるところによれば、シルシキーは、ウクライナがバフムトの戦いで失った兵士よりもはるかに多くのロシア人を殺害したため、損失は許容範囲内だと主張した」とヴォックスは報じる。』

『どんな変化が起きる?

そんなシルシキーが総司令官になったことで、ウクライナとロシアの戦況は変わるのだろうか。

ロシアメディア「メドゥーザ」は、前任のザルジニーと新たな司令官となったシルスキーを比較し、前者はリーダーとして「兵士の父親的存在」であることを重要視するが、後者は「作戦を綿密に計画し、戦争を数学のように捉えている」としている。

それでも二人の考えかたはよく似ているとして、次のように指摘している。

「両者とも『ソ連の遺産』から脱却するために指揮系統を分散させ、下級指揮官を信頼し、政治家ではなく軍人が戦闘作戦を指揮するNATO型の指揮系統をとることを提唱している」

「2023年夏、二人はウクライナの反転攻勢の見通しについて楽観的だったが、AFU(ウクライナ軍)はいま、堅固な守りを固めなければならないと考えている」

「退任する少し前、ザルジニーはCNNの取材に対し、AFUは大砲の代わりに国産可能なカミカゼ・ドローン(自爆型ドローン)に頼るべきだと語った。総司令官に任命された際、シルスキーも同じことを述べている」

軍人として似通った意見を持つ二人だが、メドゥーザが致命的に違うと指摘するのはやはり「評判」だ。ザルジニーはその人柄から人望を集めているが、シルシキーは統治者に忠実で「部下のことをほとんど顧みない冷酷な者」と見なされている。

なんにせよ、そもそも「欧米の持続的な支援なしには、大きな勝利を収めることは難しいだろう」とヴォックスは報じている。欧州連合(EU)はウクライナに500億ユーロの支援をすると決定した。だが、米国の議会共和党もウクライナへの軍事支援を承認しない限り、充分な額にはならない。

戦争が3年目に突入しつつあるいま、膠着状態が打開されることはあるのだろうか。

COURRiER Japon 』