【抵抗派VS包摂派】ウクライナとガザの戦争を見る視点 新たな地政学的闘争の進行と気になる中国の動き

【抵抗派VS包摂派】ウクライナとガザの戦争を見る視点 新たな地政学的闘争の進行と気になる中国の動き
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/32933

『ニューヨークタイムズ紙コラムニストのフリードマンが、1月25日付の論説‘A Titanic Geopolitical Struggle Is Underway’で、ウクライナとガザの戦争は、ポスト「冷戦後」の世界の性格を決める2つのネットワーク間の地政学的闘争の反映である、と分析している。要旨は次の通り。
(XiXinXing/SIphotography/gettyimages)

 現在の世界で最大の2つの紛争(ウクライナとガザ)は、国家・非国家主体からなる対立する2つのネットワークのどちらの価値観や利益がポスト「冷戦後」の世界を支配するかをめぐる壮大な地政学的な闘争の反映のように見える。

 一方は、過去を重視し閉鎖的で独裁的な体制の維持に専心する「抵抗派ネットワーク」(ロシア、イラン等)であり、他方は、未来を志向しより開放的で連結した多元的システムを構築しようとする「包摂派ネットワーク」(米国中心)である。なお、中国は、グローバル・サウスとともに、心と財布は抵抗派寄りだが、頭は包摂派寄りだ。

 ウクライナやガザでの戦争は、まさにわれわれの問題である。包摂派ネットワークのリーダーとしての米国が肝に銘ずるべきは、ウクライナ戦争の条件は我々が定めているが、中東での戦争はイランの条件の下で行われていることだ。

 ウクライナは西側からの先端的な武器と資金の援助だけで、西側への危険を大幅に減らす深刻な打撃をロシア軍に与えた。ウクライナ全土を占領して北大西洋条約機構(NATO)に守られた欧州連合(EU)を脅かす根拠地とするというプーチンの夢は実現困難となった。

 1979年のホメイニ革命に端を発する抵抗派ネットワークは、今日イラン、イスラム主義者およびジハード主義者によって構成されており、民兵、拒絶派、各宗派や宗派指導者の間の橋渡しをして、ガザ、西岸、レバノン国境でイスラエルに対し、紅海、シリア、イラクおよびサウジで米国に対し同時に圧力をかけることができる反イスラエル、反米、反西側の枢軸を形成している。』

『イスラエル・エジプト和平条約に起源を持つ包摂派ネットワークは、2015年、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子がサウジの実権を掌握し強力な後ろ盾を得た。サウジは、このネットワークを通じて、国境を越える経済的・技術的相互依存の網を構築し、権力構造を再定義し地域安定の新たなパラダイムを生み出す可能性を秘めている。

 つまり今日、米国がウクライナを代理人として間接的にロシアの能力を低下させた一方で、中東では、イランが、ハマス、フーシ派、ヒズボラ等の代理人を通じてイスラエルや米国、時にはサウジに対して間接的に戦争を仕掛けている。イランは、利益を享受するが何の犠牲も払っておらず、米国、イスラエルおよびアラブの暗黙の同盟国は、イランに対抗する意志も方法もまだ示していない。

 イスラエルが2国家建設のために変革されたパレスチナ自治政府との長期的なプロセスに合意することができれば、2つのネットワーク間のバランスを決定的に変えることができるだろう。抵抗派ネットワークは、自国民を抑え込み権力を維持するための無駄な戦争を正当化することができなくなる。一方、包摂派ネットワークは、拡大し、結束し、勝利することがより容易になる。

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同盟ではない新たな国際的つながり

 ウクライナ戦争とガザ・イスラエル戦争の帰趨が今後の国際秩序に大きな影響を与える可能性があるとの認識は、広く共有されていると考えられるが、この論説が、この2つの危機を2つの対立するネットワークの間のポスト「冷戦後」時代の支配的価値観をめぐる闘争であると踏み込んだ見方をしていることはユニークで興味深い。

 同盟とまでは言えない緩やかな国家・非国家主体の連合を「ネットワーク」と名付けることは、確かに現状を把握する上で便利な概念である。ウクライナについては、2つのネットワークを代表するロシアとウクライナの戦争であるが、中東に関してはイスラエルの包摂派ネットワークへの参加を妨害することがハマスの目的でありイランの利益であり、紛争の原因であったといえるのであろう。

 それぞれのネットワークのメンバーが2つの紛争に関して同一という訳ではないが、共通の要素があり、抵抗派については、「閉鎖的で独裁的な体制の維持に専心する」グループであり、包摂派は、「未来を志向するよりオープンで連結した多元的なシステムを構築しようとする」グループとされ、抵抗派のリーダーはウクライナについてはロシア、ガザについてはイランであり、包摂派は米国をリーダーとするとされる。

 そしてフリードマンは、ウクライナ戦争もガザ戦争もその帰趨がポスト「冷戦後」時代の世界を支配する価値観をめぐる2つのネットワークの地政学的闘争を反映したものとみている。ロシアが撤退すれば良いが、あからさまに国連憲章を踏みにじったロシアの勝利を認めなければならなくなれば、これは核兵器国と核の傘の下にない非核兵器国との間の紛争は、ジャングルの掟で解決する世界となることを意味する。』

『これに対して、ガザ戦争は、イスラエルが包摂派ネットワークに参加できるのか否かを含めて収束の展望が見えず、イランの代理勢力の対米攻撃が続けば紛争拡大の危険もある。ポスト「冷戦後」時代を通じて解決の見通しのない紛争として続く可能性がある。

 包摂派勝利のシナリオは、論説末尾にフリードマンが記したようにイスラエルが二国家解決に再度コミットし、パレスチナ暫定政府が再編され当事者能力を回復することであろうが、そのためにはネタニヤフの退陣とハマスが前面から身を引くことが必要で、これらは容易ではなくまたいずれにせよ時間がかかろう。

中国が第3のネットワークとなる可能性

 また、フリードマンは、中国とグローバル・サウスは、抵抗派と包摂派の双方とつながりを持っている旨記しているが、2つのネットワークのいずれにも属さないという共通点で結びつく第3のネットワークを構成する可能性もあるのではなかろうか。また、万が一台湾有事とでもなれば、東アジアに中国をリーダーとする抵抗派ネットワークが生まれることになるであろう。

 台湾有事は何としても避けなければならない事態であるが、進行中のいずれの紛争についても、いずれかのネットワークが明確な勝利を収めることは難しいのではないか。結局、長期にわたり現在の不安定な状況が継続することが常態となることがポスト「冷戦後」時代の特徴となってしまうようにも思える。』