インドネシア大統領選、若者取り込み競う 大衆迎合の影

インドネシア大統領選、若者取り込み競う 大衆迎合の影
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB09BVM0Z00C24A2000000/

『14日投開票のインドネシア大統領選で、各陣営が若年層の取り込みを競っている。同国の有権者は2割強を27歳以下が占める。選挙集会では有名歌手やコメディアンのパフォーマンスが目玉となり、SNSを使ったアピールも活発だ。若者の政治参加へのハードルを下げる一方、大衆迎合主義(ポピュリズム)の影も見える。

音楽フェスさながらの選挙集会

選挙活動が最終日を迎えた10日、世論調査でトップを走るプラボウォ国防相…

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『音楽フェスさながらの選挙集会

選挙活動が最終日を迎えた10日、世論調査でトップを走るプラボウォ国防相(72)はジャカルタ市内中心部のブンカルノ競技場で大規模集会を開いた。午前11時ごろには収容人数約8万人の会場がほぼ満員となった。

選挙集会で支持を訴えるプラボウォ国防相(10日、ジャカルタ)=小林健撮影
地元の有名歌手やコメディアンが場を温め、来場者が踊り出す様子は、さながら「音楽フェス」のようだ。午後2時にプラボウォ氏が登場すると、「繁栄をもたらすよう努力する」と呼びかけ、会場からは大きな歓声が巻き起こった。』

『約2億人の有権者が参加する大統領選は原則17歳から投票可能だ。有権者のうち「Z世代」に当たる27歳までは23%、これより年上で「ミレニアル世代」に当たる43歳までは34%に達する。全体の過半を占める両世代が勝敗のカギを握るため、各陣営は取り込みに工夫を凝らす。』

『別の候補であるガンジャル前中部ジャワ州知事(55)の選挙集会では、人気ロックバンド「SLANK」のライブが目玉となった。往年のヒット曲を歌い、支持者が大合唱する中、ステージ下からガンジャル氏が登場。会場のボルテージは最高潮に達した。』

『若者向け政策、各候補がアピール

各候補の政策も若者に照準を定めたものが多い。全体の失業率は5%だが、20〜24歳では17%前後に上り、若者の間には経済成長の恩恵が十分に得られていないという不満が根強いためだ。』

『プラボウォ陣営は1900万人の新たな雇用を生み出す計画を掲げる。鉱業や漁業で付加価値の高い加工産業を生み出すほか、人工知能(AI)やロボットなどハイテク産業も育成する方針だ。』

『これに対してガンジャル氏は一般家庭の出身である自身の経験を生かし「若者がより教育を重視すれば、この国はもっと良くなる」と主張。貧しい家庭を対象に、家族から1人は大学進学を促す奨学金制度の導入や、職業訓練校などの無償化を訴える。

もう一人の候補のアニス前ジャカルタ特別州知事(54)も「若者が仕事を見つけるのに苦労はさせない」と語り、若者の起業やビジネスの支援に向け国家予算の5%を配分する計画を打ち出す。』

『優勢のプラボウォ国防相、「かわいらしさ」前面に
選挙戦をリードするのがプラボウォ氏だ。調査機関インディカトルによれば、同氏の支持率は51%で、アニス氏(24%)、ガンジャル氏(19%)を引き離す。プラボウォ氏の支持率は特に若年層で高く、26歳以下で65%、42歳以下で50%に上る。

選挙集会を終え、会場を去るジョコ大統領長男で副大統領候補のギブラン氏(10日、ジャカルタ)=小林健撮影
プラボウォ氏は国民の人気が高いジョコ大統領の威光を支持拡大につなげた。長男ギブラン氏(36)を副大統領候補に擁立。さらに新興政党党首で登録者が200万人を超える人気ユーチューバーでもあるジョコ氏の次男(29)からも支持を得た。

イメージ戦略も奏功した。プラボウォ氏は2014年、19年の大統領選にも出馬。元国軍幹部という経歴を生かし「強い指導者」を打ち出してきた。

今回はイメージチェンジを図り「かわいいおじいちゃん」像を売り込む。動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」などでは、プラボウォ氏が音楽に合わせて踊る姿が拡散。集会では支持者らが着ているシャツにインドネシア語で「かわいらしい」を意味する「Gemoy(グモイ)」と書かれたデザインが目立った。

画像共有アプリ「インスタグラム」のフォロワー数はプラボウォ氏が約980万人と、アニス氏(約715万人)とガンジャル氏(約670万人)を大きく上回る。

プラボウォ氏、薄れる「強権」の記憶

プラボウォ氏はスハルト独裁政権時代の国軍幹部で、過去には指揮する部隊が民主活動家の誘拐など人権侵害に関わった疑いも指摘されている。しかし、若者の多くはスハルト政権が崩壊した1998年以降に生まれ、当時を詳しく知らない人も多い。

インドネシア大統領選で、プラボウォ氏の集会に参加した支持者ら(10日、ジャカルタ)=小林健撮影

プラボウォ氏を支持するシェラさん(19)は「当時のインドネシアはどこでも混乱があったと両親から聞いた」と話す。プラボウォ氏が大統領になることに抵抗はなく、「かわいらしくて、かっこいい。威厳のなかにもクールさがある」と評する。

ガンジャル氏を支持する男性会社員(55)は「人権を尊重しない人々によって国が導かれるのはよくない。民主主義が後退する可能性がある」と、プラボウォ氏のリードに懸念を示す。』