東南アに迫る「日本並み」高齢化 年金など備え脆弱
チャートは語る
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCA245VE0U4A120C2000000/
『【この記事のポイント】
・東南アジアの生産年齢人口が減少に転じる
・高齢化率はこれからどこまで高まるのか
・備えとなる年金精制度などの整備状況は
東南アジアに老いが迫っている。生産年齢人口(15〜64歳)が全体に占める割合は2024年に低下に転じる見通し。今後、高度成長期以降の日本のような高齢化の波が押し寄せる。若さで回ってきた国々だけに備えは乏しい。一般的な定年が早いうえに、公的年金のカバー率は4分の…
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『人手不足は一過性ではなく構造問題として続く公算が大きい。国連の推計では東南アジア11カ国の生産年齢人口比率は23年の68%で頭打ちとなり、下り坂に入る。タイは13年、ベトナムは14年に既にピークを迎えた。30年には域内最大で世界4位の2億7000万人の人口を抱えるインドネシアが峠を越す。豊富な労働力が経済を押し上げる人口ボーナス期の終幕だ。』
『全体で65歳以上の割合は19年に「高齢化」の節目の7%を超えた。43年には「高齢社会」の区分に入る14%に達する。24年間での移行は、かつての日本(1970〜94年)と同じ急速なペースだ。
もちろん国によってばらつきはある。平均年齢をみるとシンガポールは41.5歳と日本や欧州の主要国と同じ40代に上昇している。フィリピンは29.3歳とまだ若い。
いずれにせよ遅かれ早かれ高齢化が待つことは変わらない。働き手としても消費者としても経済を支えてきた層が順次、支えられる側に回る。現状の備えは心もとない。
経済協力開発機構(OECD)の21年のデータによると年金カバー率はインドネシアやベトナムで2割台にとどまる。比較的高いシンガポールでも5割台で、OECD平均(87%)との差は大きい。』
『年を取っても働くという意識も薄い。タイやマレーシアの一般的な定年は55歳だ。
日本総合研究所の熊谷章太郎氏は「東南アジアは介護保険制度などの対応も遅れている。将来、政府や家計の負担が急激に増えかねない」と危惧する。
定年を官民で段階的に引き上げてきた日本でさえ高齢化の重荷に苦しむ。生産年齢人口比率がピークの1992年に国内総生産(GDP)比で11%だった政府の社会保障支出は、その後30年間で25%まで膨らんだ。
東南アジア各国のこの比率はまだ1桁の水準。これからどんどん増える高齢者を支えるために社会保障を厚くするなら、財源の確保をはじめ難しい議論を迫られる。』
『東南アジアの変化に日本も無縁ではいられない。とりわけ労働力は深く依存してきただけに影響が大きい。23年10月時点の外国人労働者は初めて200万人を超え、国別ではベトナムが約52万人で最も多かった。フィリピンも約23万人で3位。明治大学の加藤久和・副学長は「自国が人手不足になれば日本に労働者を送り出しにくくなる」とみる。
それぞれが自国の社会を回すのに精いっぱいとなれば、中国やインドに並ぶ新興地域として世界をけん引する期待はしぼむ。既に65歳以上が人口の16%と域内でも目立って高齢化が進むタイについて、国際通貨基金(IMF)は今後5年の平均成長率を3%と予測する。00年代前半の5〜6%からの減速は鮮明だ。
成長の下り坂に入りながら迫り来る老いに備えるという難題に向き合う東南アジア。「軟着陸」の成否は世界や日本の先行きも左右する。』