大型SUVの方、駐車料金3倍です…

大型SUVの方、駐車料金3倍です…理由は「環境汚染源だから」 花の都で沸騰する議論の行方は
https://www.tokyo-np.co.jp/article/297871

『2023年12月24日 12時00分

パリで来年2月4日、スポーツタイプ多目的車(SUV)の駐車料金を「3倍」に値上げする規制の是非を問う住民投票が行われる。世界的に人気の高いSUVだが、「車体が重くて場所を取り、環境の汚染源になる」とパリのアンヌ・イダルゴ市長は主張する。一体どういうことなのか。(岸本拓也)

◆「多すぎて歩道や自転車専用道をふさいでいる」

 「環境を汚染する大型車が多すぎて、歩道や自転車専用道をふさいでいるという声がたくさん寄せられている。SUVに規制をかけ、駐車料金の値上げをすることでこうした状況にストップをかけたい」
 イダルゴ氏は11月中旬、駐車料金値上げの是非を問う住民投票を行う考えを明らかにし、SNSに投稿した動画でこう力説した。

SUV規制の狙いについて説明するパリのアンヌ・イダルゴ市長(本人のフェイスブックから)

 12月8日に発表した規制案によると、重量1.6トン以上のエンジン車やハイブリッド車に加え、2トン以上の大型電気自動車も規制対象とし、パリ中心部では1時間あたりの駐車料金を18ユーロ(約2800円)と、従来の3倍にする方針を掲げた。

 住民投票で賛成多数となれば、来春にも導入する予定だ。仏紙レゼコーによると、国内で約90万台が値上げの影響を受けるという。

◆自動車メーカーにとってはドル箱

 規制の狙いは、パリ市内への大型車の流入を減らすだけではない。イダルゴ氏はSNSで「多くの原材料を消費し、公害を引き起こす大型で高価なSUVの購入を勧める自動車メーカーの行きすぎた行為にも歯止めをかけたい」とも訴え、地球環境の観点から昨今のSUV人気に一石を投じたい思いをにじませた。
 荷室が広く、車高が高くて視認性が良いといった特徴があるSUVは、日本を含めて世界的に人気で、近年販売が伸びている。1台あたりの利益率が高いこともあり、各メーカーがこぞって新車を投入している。

中国で発売された新型SUV=中国浙江省で(石井宏樹撮影)

 フランスでもSUV新車販売はこの10年で7倍に増え、新車販売の4割近くを占める。仏紙ル・パリジャンによると、パリ市内に乗り入れるSUVの数が4年前より6割増えたという。
 人気の裏でSUVは全体的に大型化する傾向にあり、環境保護団体は地球温暖化を加速させると問題視している。

 世界自然保護基金(WWF)フランスは「SUVは普通車と比べて、重さが200キロ、全長が25センチ、全幅が10センチも広い」と指摘。車が重いほど、移動にはより多くの燃料が必要なため、「SUVは普通車より約15%多くエネルギーを消費する」との試算を示し、「SUVが二酸化炭素排出量を増やす原因になっている」と主張する。

パリのエッフェル塔(資料写真)

 グリーンピース・東アジアも11月の報告書で「SUVはセダン車より平均で12%多くの二酸化炭素を排出する」との分析を公表。担当したエリン・チョイ氏は「電気自動車で炭素排出を削減させても、SUVから出る炭素で帳消しになる。自動車会社は、車両サイズを小さくしていくべきだ」と訴える。

◆「自由を制限する」という不満も…住民投票は2024年2月

 一方でSUV規制については、フランスのドライバーらでつくる団体などから「不当な取り締まりで、自由を制限するものだ」と反対の声も上がる。

 気候ネットワークの田浦健朗事務局長は「車が大きくなると、道路に与えるダメージが増え、街中のスペースも占有され、社会的コストは増える。抑制したいという思いは理解できる」とし、こう続ける。
 「ロンドンでは車で市内に入るのに混雑税が課されるようになって交通量が減った。パリでも規制によって、公共交通やパークアンドライドにシフトする可能性がある。気候変動対策に加えて、混雑が減って町の魅力がアップする方向で、住民投票の議論が進むことが望ましい」

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