マクロンのフランス最年少首相任命は起死回生となるか 人気と実力を備えるも立ちはだかる壁
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/32810
『マクロンが、34歳のアタル教育相を首相に任命したことについて、2024年1月9日付の英Economist誌は、困難な政局を転換し将来の可能性を模索する大胆ではあるが、リスクを伴う選択であると解説している。
ガブリエル・アタル仏首相(ロイター/アフロ)
マクロン大統領が、就任から1年半余りのエリザベト・ボルヌ首相を退任させ、その後任に34歳のガブリエル・アタル教育相をあてたことは驚くべきことであった。彼は、現代フランスで最も若い首相となる。
アタルの場合、若さは経験不足を意味しない。短期間予算相も務め、公開討論会での手際の良さで有名になったのは、内閣広報官の時であった。2022年には下院議員に再選された。
アタルはまた、同性愛者であることを18年に公表している。アタルは政治的にはミニ・マクロンで、穏健な社会民主主義左派の出身で、フランソワ・オランド元大統領の保健相時代に顧問を務めたこともある。また、アタルは、右派へのアピールも兼ね備え、教育相としてフランスの世俗的なルールに基づき、イスラム教徒の長い衣であるアバヤの学校での着用を禁止したことで称賛を得た。
とりわけアタルは、マクロン政権に欠けている国民の人気をもたらす。アタルの首相指名直後に行われた世論調査で、彼の支持率は56%に跳ね上がった。大統領は、欧州議会選挙を前にして活を入れ、現在世論調査でかなりリードされている「国民連合」に対する巻き返しの一助となることを期待するであろう。選挙戦は、次世代の政治家を代表するアタルとバルデラの一騎打ちになるかもしれない。
しかし、マクロンにとって厄介なのは、いくら若いエネルギーと大衆に魅力あふれた人物であっても、根本的な問題、すなわち、少数政権を運営しながらいかにしてフランスの改革を続け、難しい決断を下すかという状況を変えることはできないということだ。アタルが指名されたからといって、野党との連立の可能性が高まるわけでもない。
手に負えない野党に直面し、勤勉なボルヌ前首相はできる限りのことをした。しかし大統領は、抗議デモや夏の暴動、移民法案をめぐる議会の混乱に見舞われた困難な1年を転換したいと考えている。
憲法上、27年の3期目出馬が禁じられているマクロンは、初めて後継者について考えているようだ。中道派の政治運動の将来を確保するために、新しい世代を登用しようとしているのだ。アタルが大統領候補としての脚光を浴びる可能性がある以上、これは賭けである。
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この記事は、社会党出身のベテラン政治家のボルヌ首相を退任させ、34歳のアタル教育相を任命したマクロンの選択につき、短期的には6月に予定される欧州議会選挙での劣勢を挽回するため国民に人気がある若い首相を抜擢し、長期的には、3年後に行われる大統領選挙に自らの分身のようなアタルを中道派の有力候補に押し上げようとの意図があると分析している。
そして、これは大胆な選択ではあるが、少数政権を率いて政策を実現していく困難さには変わりはなく、政権内のチームワーク含めリスクがあることを指摘している。』
『昨年3月の年金改革法案では、ボルヌ首相は、右派の共和党の支持を得ることに苦労し、憲法上の大統領特権に訴えざるを得なくなり国民の強い反発を招き、その後もその特権に頼った。また、7月の警察官によるモロッコ人少年射殺事件で移民コミュニティの怒りが各地で暴動となって吹き荒れたことも記憶に新しい。
その後の政権にとっての最重要課題は移民法の改正であり、マクロンとしては、秩序ある移民政策と適切な移民への支援によるバランスを取った改正を意図したが、反移民強硬派の共和党右派の賛成を得られず難航した。
最終的には、外国人について一定の罪を犯した二重国籍者の仏国籍剥奪、社会給付要件の厳格化、仏国内で生まれた子どもの国籍取得要件の厳格化等の修正を施して先月19日改正法案は成立した。
しかし、下院では与党連合の議員27人が反対し、22人が棄権し、他方、宿敵ルペンの極右「国民連合」が予想外の賛成に回って可決されたもので、保健相が辞任し一部与党議員が離党を示唆するなど、マクロン政権の基盤が揺らぐ事態となった。
移民問題が焦点となる欧州政治において、中道派が移民対策強化をせざるを得ず、結局極右派の主張に歩み寄ってしまうことはオランダ等でも見られた現象である。
ルペンは、これを「国民連合」のイデオロギー的勝利と主張し、世論調査では、6月の欧州議会選挙で極右派の圧勝が予想されている。
他方、この記事指摘の通り、アタルの抜擢は、ピンチをチャンスに変えようというマクロンらしい大胆な選択であるともいえる。教育相として学校におけるイスラム風の衣服の着用を禁じたことが共和党右派から評価された実績もある。
アタルが直面する2つの課題
問題は、アタルが如何に有能で国民に人気があるとしても、同人にはボルヌのようなベテラン政治家としての野党との間の調整の経験や人脈があるわけではなく、ボルヌが直面した少数政権としての困難な状況を引き継ぐわけである。
また、その後、発表された改造内閣では、次期大統領候補とも言われるル・メール財務相やダルマナン内相等の重鎮の多くは留任しており、どこまでアタルが独自の指導力を発揮できるのかも疑問とされる。
アタルには、当面2つの課題をこなす必要があろう。
まず、新内閣の発足に際して今後の課題である経済の活性化と社会的サービスの拡充についてマクロンが提示する具体的な改革アジェンダを実行する指揮官の役割が務まることを示さねばならない。その重要なカギは、与党連合内の再結束と共和党の取り込みである。
2つ目は、6月に行われる欧州議会選挙のキャンペーンの先頭に立つことであろう。
特に、「国民連合」の党首である28歳のバルデラとの論戦は国民の注目を浴びることとなる。
アタルにとってはその弁論能力と国民の人気を背景に中道派の劣勢を挽回することができれば、内閣内での重みも増し、求心力を得ることもできるかもしれない。』