キングメーカー不在の大統領選
変わる米政治マネー
経営者の献金8割、非主流派に
https://www.nikkei.com/telling/DGXZTS00008970Q4A130C2000000/
『米大統領選を巡る政治マネーの流れに異変が起きている。焦点は大物経営者や著名投資家らの動きだ。有力候補に多額の資金を支援し、歴代の大統領を生み出す「キングメーカー」として影響力を振るってきた。しかし2024年の選挙戦では、そうした富裕層の「推し候補」がことごとく劣勢に追い込まれている。データから地殻変動を追った。』
『FECのデータを解析すると、2023年に総額100万ドル(約1億5000万円)以上を献金した富裕層は90人だった。このうち明確に特定候補を支援するのは56人で、献金額は計1億8000万ドルにのぼる。
この1億8000万ドルの実に8割が、共和の候補でトランプ氏に対抗するヘイリー氏、撤退を決めたデサンティス・フロリダ州知事、無所属のケネディ氏ら非主流派に流れていた。
トランプ氏が獲得したのは全体の6%、バイデン氏は17%どまりと、ともに富裕層の間で不人気は甚だしい。
経営者らが有力2氏の資金支援に二の足を踏むのは理由がある。どちらも中低所得者を主な支持層としており、保護主義的な経済政策を優先しているためだ。』
『ヘイリー氏やデサンティス氏は富裕層からの集金額で他候補を圧倒するが、選挙戦は振るわない
象徴的なのが、長らく共和党を支援してきた富豪のチャールズ・コーク氏だ。非公開の複合企業コーク・インダストリーズのオーナー一族で、同氏が資金を投じるスーパーPAC「AFPアクション」は23年11月、ヘイリー氏支持を決めた。
トランプ政権が保護主義的な政策を推進したことに反発しており「トランプ氏の大統領就任を阻止する」と公言する。
米国の選挙制度では個人で候補者に献金できる額に上限がある。このため富裕層は「スーパーPAC」という独立した政治団体を通して推し陣営を支援することが多い。
民主側も事情は似通う。過去に多額の献金をしてきた著名投資家のジョージ・ソロス氏や大手メディア経営者のマイケル・ブルームバーグ氏がこれまでのところ大きく献金額を減らしている。バイデン氏に大口献金を寄せる富豪も大きく減った。
テレビやネットを使った激しい広告合戦が繰り広げられる米国の選挙では資金力が物を言う。金権政治の弊害も指摘されるが、巨大な財力を持つ富裕層を味方につけた陣営はこれまで選挙戦を有利に運べた。
16年の選挙では、コーク兄弟やペイパル創業者のピーター・ティール氏らがトランプ氏を強く推し、同氏を大統領に押し上げる原動力となった。しかし今回は打って変わって、富豪らが推す候補はそろって支持率が振るわない。
キングメーカーが不在となる一方で、代わって本命2氏が得票率にも直結しやすい一般有権者の支持を奪い合う。24年の大統領選は従来と様相を大きく変えている。』
『選挙は最終的に党派性が重要だが、1万人程度の僅差になった場合にスーパーPACが仕掛ける広告戦などの影響力は大きい」。政治資金の分析を続ける非営利団体、オープン・シークレッツのサラ・ブライナー氏は指摘する。
実際、今後の趨勢を慎重に見極めている富豪も多い。
22年に3000万ドル以上を共和党に献金した投資ファンドのブラックストーン・グループ創業者スティーブン・シュワルツマン氏は、友人関係でもあったトランプ氏を支持しない方針を示した。「新世代の指導者に目を向けるべきだ」としており、今後は同氏の「支援宣言」が選挙戦の流れを大きく変えるかもしれない。
政治とカネで揺れる日本と違って、米国の選挙資金の透明性は比較的高い。その分、大統領の座を巡って、まるでゲームのように各陣営が駆け引きを繰り返す姿がくっきりと浮かぶ。』