フィリピンの法制度の概要
https://www.bizlawjapan.com/wp-content/uploads/philippines_houseido_01.pdf
※ スペイン法+米国法であることは、予想どおりだが、「イスラム法」、「慣習法」も法源であるところは、凄いな…。
※ たぶん、島嶼国家なので、その地域地域の特色が、未だ色濃く残っているんだろう…。
※ 土地制度にも、特色があるようだ…。
※ こういう法制だと、到底、「法務の専門家」の助力が無いと、M&Aは、おろか、「土地の取得」「訴訟」自体無理だな…。
『遠藤誠1
! はじめに
フィリピン共和国(以下「フィリピン」という)2は、ルソン島、ビサヤ諸島、ミンダナ
オ島等を中心に、大小合わせて7100以上の島々から構成される共和制国家である。
1521年にマゼランがフィリピンに到着した後、スペインは続々と遠征隊をフィリピンに
派遣した。1571年のマニラ陥落以降、約300年間にわたりスペインの植民地となった。1898
年に独立戦争が起こり一旦独立を宣言したが、米西戦争の結果、フィリピンは米国の統治
下に置かれることとなった。第2次世界大戦中の日本による占領の後は再び米国の統治下
に置かれたが、1946年に再独立を果たした3。
フィリピンの人口は1億1000万人弱であり、マレー系、中国系、スペイン系及びそれら
の混血と少数民族から構成される。気候は、高温多雨の熱帯気候に属する。首都はマニラ、
通貨はペソ、公用語はフィリピノ語及び英語である(法律の正文は、英語である)。
国民の
約93%はキリスト教(そのうちの大部分はカトリックである)、約5%はイスラム教を信仰
している。
フィリピンの法体系は、大陸法系のスペイン法とコモン・ ロー系の米国法4の混清•に特徴
があり、その他、固有法、イスラム法、慣習法等から構成される「混合法系」に属する。
フィリピンは、長くスペインの植民地であったことから、スペイン法の法体系を多く導入
し、いわゆる成文法主義の法体系を採用した。しかし、宗主国が米国に交代した後は、米
国法の影響が強くなっている。また、フィリピン南部の一部の地域では、イスラム法がイ
スラム教徒に対して適用されることがあるほか、地域によっては慣習法も重要な役割を果
たしている。
1えんどう まこと、弁護士 •博士(法学)。BL J法律事務所
(https://www.bizlawiapan.com/ ) 代表。
2 「フィリピン」という国名は、旧宗主国であるスペインの皇太子フェリペ(後のフェリペ
2世国王)にちなむ。
3本稿におけるフィリピンの概要及び歴史については、『データブック オブ・ザ・ワール
ド2021年版』(二宮書店、2021年)235頁等を参照した。
4 一口に「コモン・ロー系」又は「英米法」と言っても、大きく分けて、英国法系と米国法
系の2種類がある。英国法系と米国法系とでは、類似している点も多いが、さまざまな相
違点もある。フィリピンに大きな影響を及ぼしているのは、米国法系であり、英国法系で
はない点に注意が必要である。ちなみに、英国法系の影響が強い東南アジアの国としては、
シンガポール及びマレーシアを挙げることができる。
1
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フィリピンの主要産業は農林水産業であるが、電子•電気機器の輸出も多い。近時は、
ビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)等のサービス業が発達している。また、
海外の出稼ぎ労働者からの送金が2018年には約289億ドルに達し、重要な外貨獲得源とな
っている。近年のGDP成長率は、2018年が6.2%、2019年が5.7%となっており、比較的
高い経済成長率を維持している5。
フィリピンにとって、日本は最大の援助国であり、製造業を中心とする多くの日本企業
が、フィリピン企業との貿易を行い、またフィリピンに対する投資を行ってきたことから、
フィリピンは、日本企業にとって経済的な結び付きが強い国となった。豊富な資源と労働
カ及び潜在的な巨大市場を有するフィリピンは、急速な発展を続ける東南アジアの一角を
占める国として、今後も、日本企業にとって最重要投資先の一つであり続けるであろう。
このようなフィリピンの重要性に鑑みると、フィリピンの法制度、実務運用及び改正動
向等について知ることは、非常に重要であるといえる。そこで、本稿では、フィリピンの
法制度の概要を紹介することとしたい。
π憲法
1総説
フィリピンでは、1935年に、米国憲法の強い影響を受けた憲法が制定された。1973年に
は、マルコス大統領による独裁体制の下、新たな憲法が公布された。その後、ベニグノ ・
アキノの暗殺、「黄色い革命」という政治的大激動を経た後、コラソン•アキノ政権の下で、
1987年2月2日の国民投票により、現行のフィリピン憲法が成立した。
フィリピン憲法には、①厳格な三権分立制が採用されていること、②国の安全保障政策
に関する規定が多く含まれていること(例えば、国策の手段としての戦争の放棄、軍隊の
文民支配、国民の国防の責任、核兵器からの自由、基地問題、防衛目的での公用収用、国
軍の構成•管理、兵役義務等)、③大統領の権限に対する多くの制約が規定されていること
(例えば、人身保護令状の特権の停止や戒厳令の発布の制限に関して詳細な規定があるこ
と、政治的王朝の禁止に関する明文規定があること)、④外国人による投資に対する多くの
制約が規定されていること(例えば、外国人及び40%以上の出資割合を外国人が所有する
法人は、土地等の天然資源を所有することができないこと)等の特徴がある。
現行のフィリピン憲法の体系は、表1のとおりである6。
5前掲『データブック オブ・ザ・ワールド2021年版』234頁。
6本稿におけるフィリピン憲法の日本語訳は、①萩野芳夫著「フィリピン共和国」(畑博行・
小森田秋夫編『世界の憲法集[第五版]』(有信堂、2018年)所収)363〜397頁、②安田
信之•知花いずみ•三好史子•菌巳晴訳「1987年フィリピン共和国憲法(全訳)」(『フィリ
ピン共和国憲法一概要及び翻訳ー』(衆議院憲法調査会事務局、2003年)所収)29〜69
頁を主に参照した。
2
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表1:フィリピン憲法の体系
前文
第1条国土
第2条諸原理と国策の宣言 諸原理 第1節〜第6節
国策 第7節〜第28節
第3条権利章典 第1節〜第22節
第4条市民権 第!節〜第5節
第5条選挙権 第1節〜第2節
第6条立法府 第1節〜第32節
第7条行政府 第1節〜第23節
第8条司法府 第!節〜第!6節
第9条憲法委員会 A 一般規定 第!節〜第8節
B公務員委員会 第1節〜第8節
C選挙管理委員会 第1節〜第11節
D会計検査委員会 第1節〜第4節
第10条地方政府 一般規定 第1節〜第!4節
自治区 第15節〜第21節
第11条公務員の責任 第1節〜第!8節
第12条国家経済と国有財産 第1節〜第22節
第13条社会的正義と人権 第1節〜第2節
労働 第3節
農地改革と資源改革 第4節〜第8節
都市部土地改革及び住宅計画 第9節〜第!0節
健康 第11節〜第13節
女性 第14節
市民団体の権利と役割 第15節〜第16節
人権 第17節〜第19節
第14条教育•科学技術•芸術・ 文化•スポーツ 教育 第1節〜第5節
言語 第6節〜第9節
科学技術 第10節〜第13節
芸術・文化 第14節〜第18節
スポーツ 第19節
第15条家族 第!節〜第4節
第16条一般規定 第1節〜第12節
第17条憲法の修正又は改正 第1節〜第4節
3
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第18条経過規定
第1節〜第27節
2統治機構
(1) 立法府
フィリピンの立法府は、二院制を採用している。上院は、全国区で選出された24名の議
員で構成される。下院は、選挙区制と政党名簿方式で選出された250名以下の議員で構成
される。議会の解散制度は無い。
上院議員の任期は6年であるが、連続2期まで、また、下院議員の任期は3年であるが、
連続3期までという選出制限がある。また、上院及び下院の議員は、政府等の役職を兼任
してはならず、政府等の契約に介入して金銭上の利益を追求してはならない。これらは、
政治権力の集中の防止を図るための規定である。
国会の権限としては、①立法権、②戦争状態を宣言すること、②戦時又は国家緊急事態
に際して、大統領に対し、国策遂行のための必要適切な権限を付与すること等がある。上
院及び下院は、立法の補助となる国政調査権を有する。
(2) 行政府
執行権は、大統領に属する。大統領は、国民による直接選挙により選出される。大統領
の任期は6年であるが、大統領職に4年以上在職した後は、再選が禁止される。
大統領の権限は、マルコス政権における独裁の経験をふまえ、さまざまな形で制限され
ている。例えば、マルコス大統領が多用した大統領令による立法権限は、廃止された。大
統領は、侵略又は内乱が発生し、公共の安全のため必要があるときは、60日以内の間、人
身保護令状の特権を停止し、戒厳令を発することができるが、48時間以内に国会に報告し
なければならない等、国会によるチェック及び最高裁判所による審査の制度が、現行憲法
には用意されている7〇
大統領、副大統領、閣僚等は、いかなる役職を兼任してはならず、政府等の契約に介入
して金銭上の利益を追求してはならない。また、大統領の配偶者及び四親等内の親族は、
憲法委員会の委員、オンブズマン、大臣、次官、その他の政府等の長の職に就いてはなら
ない。これらは、政治権力の集中の防止を図るための規定である。
(3) 司法府
フィリピンの司法府は、最高裁判所及び下級裁判所から構成される。司法権の独立を図
るため、司法府の財政の自律性が明文で規定されており、裁判官の報酬•身分も保障され
ている。但し、裁判官は、準司法機関又は行政機関の職を兼任してはならないとされてい
る。
最高裁判所は1名の長官及び14名の判事により構成される。最高裁判所大法廷は、条約、
7安田信之著『東南アジア法』(日本評論社、2000年)126〜127頁。
4
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法令等の違憲審査権を有する(裁判官の過半数の合意により、違憲審査権を行使すること
が可能である)。
下級裁判所には、控訴裁判所(主に上訴審を管轄する裁判所)、管区事実審裁判所(原則
的な第一審裁判所)等がある。また、シャリア裁判所は、イスラム教の法典により処罰さ
れる犯罪及び家族問題について専属的に管轄する。
裁判の迅速を図るため、最高裁判所における審理は24か月、下級裁判所の合議体審理は
12か月、下級裁判所の単独体審理は3か月という審理期間の上限が規定されている。
3 人権
フィリピン憲法の「第2条 諸原理と国策の宣言」、「第3条 権利章典」、「第4条 市
民権」、「第5条 選挙権」等には、各種人権カタログが規定されている。また、「第12条
国家経済と国有財産」では、土地、天然資源、先住民の権利等についての人権関連規定が
含まれている。さらに、「第13条 社会的正義と人権」には、国家の義務という形で社会
権的規定が含まれている。
フィリピン憲法の中で、人権に関する特徴的な規定としては、例えば、以下の点が挙げ
られる。
① 環境権に関する明文規定がある(2条16節)。
② 契約上の義務を害する法律(モラトリアム)は禁止されている(3条10節)。
③ 人身保護令状を請求する権利は、侵略•反乱等のように公共の安全にとって必要な場合
以外、停止されてはならないと規定されている(3条15節)。
④ 債務又は人頭税の滞納のために投獄されないことが明文で規定されている(3条20節)。
⑤ オンブズマン及び国政監察庁について詳細に規定されている(11条5節〜14節)
⑥ 外国人及び40%以上の出資割合を外国人が所有する法人は、土地等の天然資源を所有す
ることができないと規定されている(12条2節)。
⑦ 人権委員会(政府等による人権侵害を監視する機関)の権限等について規定されている
(13 条18 節)。
in民法
スペイン法の影響を受けたフィリピンでは、「民法典」が施行されている。民法典は、「人」、
「所有権及びその変更」、「異なる所有権取得の方法」、「債務及び契約」の4つの部分から
なる8。
民法典には、rstatute of Frauds」(詐欺防止法)に関する規定がある。これによると、
500ペソ以上の動産の売買契約、不動産の売買契約、1年超の賃貸借契約等、一定の類型の
8岡崎友子著「法曹有資格者による日本企業及び邦人の支援の方策等を検討するための調査
研究(フィリピン共和国)」(2016年)10頁。
5
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契約の締結にあたっては、契約当事者が署名した書面によらなければ、強制力が認められ
ない(1403条2項)。但し、当事者が口頭による証拠に異議を述べなかった場合、又は契
約に基づく履行を受けた場合には、書面によらなくても、契約に強制力が認められる(1405
条)9。
フィリピンにおける土地は、本来、国家に属するが、各人の所有権は国家から授与され
たものであると考えられている。フィリピンの土地については、トレンスシステム(Torrens
System)が採用されている。
トレンスシステムとは、本来であれば最初の権利者から自分
までの途切れない権利移転の連鎖を証明しなければならないところ、不動産登記上の権利
者が真正な権利者であることを国が保障する制度である。
フィリピンでは、建物と土地は
別個のものであると考えられており、独立して取引対象とすることができる1〇。
(※ この点は、日本も同じ)
不動産に
かかる権利の創設、移転、変更又は消滅に関する契約等、一定の類型の契約は、公証人に
よる公証を受けた公的文書により作成されなければならない(1358条)。
公的文書により作
成されていない場合、契約当事者間では強制力が認められるものの、第三者に対抗するこ
とができないU。
代理人により不動産売買を行うための代理人への授権は、書面によらな
ければ無効とされる(1874条)。
外国人及び40%以上の出資割合を外国人が所有する法人
は、フィリピンにおける土地を所有することができないが、①一定の条件を満たす場合に、
25年間又は50年間の土地の賃借•賃貸を行うこと、及び②建物を所有することはできる。
フィリピンの家族法は、1987年に制定され、1988年8月4日から施行された。フィリ
ピンでは、カトリックの影響が強いため、フィリピン人同士の離婚が認められていないが、
法定別居制度がある。これは、形式的には婚姻状態が継続する(従って、いずれの配偶者
も再婚することができない)が、事実上、夫婦は別居することとなり、夫婦共有財産は清
算され、未成年者の親権は無責配偶者に認められるものである。他方、フィリピン人と外
国人の離婚は、フィリピンの家族法によっても認められている。また、フィリピンの家族
法には、認知の制度が存在しないため、日本人とフィリピン人を当事者とする認知は、日
本の民法によってのみ可能であるとされている12。なお、家族法に関しては、フィリピン
全土で統一的な家族法制度が存在しているわけではなく、ムスリムを対象とする家族法制
度も併存している状況にある。
IV会社法
スペイン統治下で制定された商法には、会社に関する規定が存在しなかった。そのため、
9アンダーソン•毛利・友常法律事務所編『実務で役立つ世界各国の英文契約ガイドブック』
(商事法務、2019年)232〜233頁。
1〇川村隆太郎•璃晋編著『アジア不動産法制』116〜117頁。
口前掲『実務で役立つ世界各国の英文契約ガイドブック』234頁。
山木村三男監修『全訂新版 渉外戸籍のための各国法律と要件 V各論』(日本加除出版、
2017 年)416〜418 頁、428 頁。
6
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米国統治下において、米国会社法をベースとした会社法が制定された。これにより、フィ
リピン会社法は、米国会社法の影響を強く受けたものとなっている13。
フィリピンに投資しようとする外国企業は、フィリピンに子会社たる現地法人を設立す
るか、外国企業の支店を設置するか、又は駐在員事務所を設置することができる。子会社
は、外国企業から独立した法人格を有するフィリピン法人である改これに対し、外国企
業の支店及び駐在員事務所は、独立した法人格を有しない。駐在員事務所は、販売促進及
び連絡等の業務を行うことができるが、フィリピン国内での所得を生じさせることはでき
ない。
フィリピンの会社法 竟によると、フィリピンで設立が認められている会社には、①株式
会社(株式の形に分割された資本を有し、株主に対し、保有株式の割合に応じて、剰余金
が分配される会社)、及び②非株式会社 源則として剰余金の分配が認められず、慈善・宗
教・教育等の公益目的のために設立される法人)がある。また、「株式が証券取引所に上場
されていること」、又は「資産が5000万ペソを越え、かつ発行済み株式100単位以上を保
有する株主が200名以上存在すること」という要件を満たす株式会社は、「公開会社」(public
company)であるとされ、証券取引法等の規制に服する。基本定款において、「株主数が20
名以下の一定人数に限定されていること」、「株式の譲渡が制限されていること」及び「上
場及び株式の公募を行わないこと」という要件を満たす株式会社は、「閉鎖会社」(close
corporation)であるとされ、会社法上、特別の取扱が規定されている(例えば、定款にょ
り、①会社の業務運営を取締役会ではなく株主総会が行うことができるようにすること、
②会社設立前の株主間合意と定款が抵触する場合、株主間合意が優先するものとされる)険
V民事訴訟法
13阿部道明著「フィリピンの外国投資関連法⑵」(『国際商事法務V〇L45,N〇•1』(国際商
事法研究所、2017年)所収)31頁。
14フィリピンでは、内資外資を問わず、法人所得税(Corporate Income Tax, CIT)の税率
は、従来、30%とされてきた。フィリピン財務省は、2020年5月26日、「会社の復興及び
企業に対するインセンティブ法案(CREATE)」を議会に提出したと発表した。CREATE
によると、現行の法人所得税率30%を即時に25%に引き下げ、その後、2023年から5年
間は毎年1%ずつ引き下げ、2027年には20%とされる。また、既存のPEZAの税制優遇措
置は、CITIRAでは、2年〜7年の間は特別税率が適用されるものとされていたが、CREATE
では、4年〜9年の間は特別税率が適用されるものとされ、期間が若干長くなっていた。以
上のような状況の下、2021年3月26日、CREATEが一部修正の上、「Republic Act No.
11534J (共和国法第11534号)として成立した。これにより、2020年7月1日以降の法
人所得税の税率は25% (課税所得が500万ペソ以下であり、かつ土地を除く総資産が1億
ペソ以下の中小企業の税率は20%)となった。
拓フィリピンの改正会社法は、2019年2月23日に施行された。
16森•濱田松本法律事務所アジアプラクティスグループ編『アジア新興国のM&A法制〔第
3版〕』(商事法務、2020年)275〜276頁。
7
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1訴訟
フィリピンの民事訴訟制度は、米国の民事訴訟制度をベースに形成されている。フィリ
ピンにおける民事訴訟手続は、原則として、召喚状の送付、訴答手続、ディスカバリー、
質問書の送付、証言録取書の交換、口頭弁論、判決という流れとなる。フィリピンでの訴
訟において使用される言語は、原則として、英語である。陪審制は採用されていない。
フィリピンの訴訟は三審制となっているが、従来から、訴訟の遅延が問題とされてきた。
そこで、フィリピンの憲法には、裁判の迅速を図るため、最高裁判所における審理は24か
月、下級裁判所の合議体審理は!2か月、下級裁判所の単独体審理は3か月というように、
審理期間の上限が規定されている。但し、実際には、上記の期限はあまり遵守されていな
いようである。
フィリピンは、米国と同様、法曹一元制を採用している。フィリピンの弁護士制度は、
米国の弁護士制度と非常に類似している。「バリスター」•「ソリシター」という区別は無い。
2仲裁
日本企業と外国企業とが締結する契約において、当該契約に関連して発生する法的紛争
は、「訴訟」ではなく、「仲裁」(私人間の合意に基づいて、第三者を選任し、その者の判断
によって紛争解決を図る手続)により解決する旨の条項(仲裁条項)が規定されることが
多い。フィリピンは「外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約」(ニューヨーク条約)に
加盟しているため、フィリピンにおける仲裁判断を同条約の加盟国で執行することが認め
られる。
フィリピンの仲裁機関としては、「フィリピン紛争解決センター」(Philippines Dispute
Resolution Centre Inc., PDRCI)直がある。PDRCIは、フィリピン商工会議所から独立す
る形で、1996年に設立された非営利法人である脇。また、フィリピンと比較的距離が近い
シンガポールには、「シンガポール国際仲裁センター」(Singapore International
Arbitration Centre, SIAC) wがある。SIACは、①高い信頼性•透明性•中立性、②シン
ガポールの公用語が英語であること、③過去の取扱実績20が豊富であること等から、とく
にアジアにおける国際取引契約における紛争解決条項としては、SIAC仲裁が選択されるこ
とが多い。但し、フィリピンにおける建設紛争の仲裁については、フィリピンのADR法に
より、建設産業仲裁委員会(Construction Industry Arbitration Commission, CIAC) 21が
17 https://www.pdrci.org/
脇栗田哲郎•寺田万里子著「フィリピン」(『JCAジャーナル 第62巻第2号』(日本商事
仲裁協会、2015年)所収)40頁。
19 https://www.siac.org.sg/
2〇 S1ACの「Annual Report 2019」によると、2019年における新規受理件数は479件であ
り、過去最高を記録した。
https://www.siac.or結.sg/images/stories/articies/annual report/SIAC%20AR FA-Finalー〇
nline%20(30%20June%20202〇).pdf
21 httns://ciac.dti.@ov.ph/content/constructioirarbitrationmediation
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仲裁の管轄権を有するものとされている22〇
3調停
フィリピンでは「バランガイ」という住民の自治組織があり、一定の軽微な民事紛争等
について、処理権限が付与されている。実際には、まず、地方の有力者であるバランガイ
長が話合いによる紛争解決を図り、解決できなかった事件はバランガイ調停委員会の処理
に任される。調停が不成立となった場合、裁判所に提訴することができる。
VI刑事法
2016年6月に就任したドウテルテ大統領は、麻薬撲滅を図るため、麻薬取締官•警察官•
軍人等が麻薬犯罪者を逮捕する際、超法規的に殺害することを認める発言をしている。実
際、ドウテルテ大統領の就任後、大量の麻薬密売人等が自首し、麻薬犯罪対策が功を奏し
ているといわれている。これに対し、国連人権高等弁務官事務所、国際人権団体及び欧米
諸国政府等が、ドウテルテ大統領の超法規的な措置を強く批判してきたところであるが、
ドウテルテ大統領は強硬な態度を崩していない。
また、フィリピンでは、他の東南アジア諸国と同様、贈収賄•汚職が大きな問題として
存在してきたところである。そこで、フィリピン政府当局は、贈収賄•汚職への対策を強
化しており、2017年には、「大統領汚職防止委員会」(Presidential Anti-Corruption
Commission, PACC)刀という専門的な取締り機関を設置して、一定の役職以上の政府機関
の役職員等に対する調査等の強力な権限を付与すること等により、汚職の取締りを進める
こととした。フィリピンにおける贈収賄•汚職の取締りに関する基本的な法律は、刑法及
び汚職防止法である。贈収賄•汚職事件の捜査•訴追は、司法省の「国家調査局」(National
Bureau of Investigation)が行う。また、オンブズマン(行政監察院)も、調査権限を認め
られている。贈収賄•汚職事件を審理する裁判所は、「反汚職裁判所」である。なお、フィ
リピンにおける贈収賄•汚職に関する規制は、民間企業の役職員に対するリベート等には
適用されない。
vn おわりに
以上、フィリピンの法制度の概要を紹介したが、フィリピンの法制度に関する英語及び
日本語の文献•論文等は意外に多くある。日本語の文献としては、例えば、岡崎友子著「法
曹有資格者による日本企業及び邦人の支援の方策等を検討するための調査研究(フィリピ
22栗田•寺田前掲書39頁。
23 https://pacc.gov.ph/
9
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ン共和国)」(2015年、2016年、2018年)24等がある。英語の文献としては、「GlobaLex」
というウェブサイトに掲載されている「UPDATE: Philippine Legal Research」25等がある。
重要な貿易・投資の相手国であるフィリピンにおける法制度は、日本企業にとって極め
て重要である。今後も、フィリピンの法制度の動向については引き続き注目していく必要
性が高いと思われる。
※ 初出:『国際商事法務 Vol.49No.5j (国際商事法研究所、2021年、原題は「世界の法
制度〔東アジア・東南アジア編〕第13回 フィリピン」)。
※ 免責事項:本稿は、各国・地域の法制度の概要を一般的に紹介することを目的とする
ものであり、法的アドバイスを提供するものではない。仮に本稿の内容の誤り等に起因し
て読者又は第三者が損害を被ったとしても、筆者は一切責任を負わない。
24 http://www.moj.go.jp/housei/shihouseido/houseil0_00159.html
25 https://www.nyulawglobal.org/globalex/Philippinesl.html
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BLJ法律事務所弁護士遠藤誠 』