ドイツ、奇策「31条」発動 ウクライナEU加盟交渉入り

ドイツ、奇策「31条」発動 ウクライナEU加盟交渉入り
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『欧州連合(EU)は14日の首脳会議でウクライナの加盟交渉入りを決めた。2022年の申請から異例のスピードで合意にこぎ着けたが、舞台裏では反対するハンガリーを巡ってギリギリの駆け引きがあった。土壇場で効果を発揮したのが「建設的棄権」を規定するEU条約31条だった。

露骨な親ロシア政策をとり、権威主義的な政治姿勢で知られるハンガリーのオルバン首相はウクライナのEU加盟に強硬に反対し、首脳会議で拒否権…

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『露骨な親ロシア政策をとり、権威主義的な政治姿勢で知られるハンガリーのオルバン首相はウクライナのEU加盟に強硬に反対し、首脳会議で拒否権を行使する考えを示していた。

年内最後の首脳会議でウクライナの交渉入りを決め、欧州の結束を示したい主要国の首脳らはオルバン氏への説得を重ねた。EUは加盟交渉などの重要政策を全会一致で決めなければならない。

たどりついたのがEU条約31条で定める「建設的棄権」だ。一部の代表者が退室して採決を棄権した場合、残ったメンバーのみの賛成で全会一致が成り立つという取り決めがある。
「コーヒーでも飲んできたらどうか」。14日の会議のさなか、ドイツのショルツ首相がこう切り出すと、オルバン氏は席を立って退室した。ウクライナの交渉入りに必要な「全会一致」での合意はオルバン氏が不在の会議室で成立した。

31条の発動はEUの外交関係者の間でも驚きをもって受け止められた。スウェーデンのEU担当官は「異例の手法だ。コーヒーで棄権を促すなど初めて聞いた」と興奮気味に語った。
EUのミシェル大統領とフランスのマクロン大統領、ショルツ氏は会議の当日、オルバン氏を朝食会に招いた。そこで「コーヒー退室」の筋書きを打ち合わせたようだ。棄権案はショルツ氏が提案したとされる。マクロン氏は会談後「我々は解決策を提案できた」と語り、事前にオルバン氏と擦り合わせていたことを示唆した。

「私たちはともに決定を下すべきだ。こうしたことを毎回すべきではない」。ショルツ氏は会議後、記者団にこう述べた。「コーヒー退席」はオルバン氏のメンツを保つためにひねり出した奇策だが、加盟国が「決める政治」のために知恵を絞った結果ともいえる。

オルバン氏は会議後にX(旧ツイッター)に動画を投稿し、ハンガリーは「悪い決定」には参加しないと強調。「他の26カ国がしたいなら勝手にすればいい」と語った。

オルバン氏が棄権という形で事実上の容認に転じたのは、凍結していた100億ユーロ(約1兆5700億円)超のEU補助金の支給再開という見返りがあったからにほかならない。半面、4年間で総額500億ユーロのウクライナ支援の予算案には反対を貫いた。将来のウクライナの加盟についても拒否する姿勢を崩していない。

EUは加盟国を広げるなかで、伝統的な政治理念や欧州委員会の政策に沿わない存在が常態化する時代を迎えた。11月には原加盟国であるオランダの総選挙でEU懐疑派のウィルダース氏率いる極右政党が第1党に浮上した。

域内で政治の右傾化が目立つようになり、オルバン氏やウィルダース氏は他国の極右とも通じてブリュッセル発の寛容な移民政策や先進的な環境政策に反旗を翻す構えをみせる。今回のオルバン氏のような「ごね得」(欧州議会議員)が横行すれば、EUが掲げる民主的価値が損なわれかねない。

国連の安全保障理事会は拒否権を持つ米国と中ロの対立により機能不全に陥った。EUは全27カ国が拒否権を持つ。

独仏は重要政策においても「特定多数決」に移行する案を提起する。人口が多い国が多数票を持つ仕組みで、15カ国以上の賛成と、賛成国の人口が域内の65%以上であることを成立要件とする。実現すればEUの意思決定プロセスの抜本的な改革となる。

欧州委高官は語る。「EUは常にオルバンのような『怪物』と対峙しながら政治的な解を模索することになる。機能不全に陥るのを防ぐ知恵がいる」

(ブリュッセル=辻隆史、ウィーン=田中孝幸)

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