アルゼンチン新大統領の公約と態度の豹変ぶり

アルゼンチン新大統領の公約と態度の豹変ぶり
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/32477

『アルゼンチンのミレイ新大統領は12月10日の就任式で困難な経済状況に対応するため国家システムを劇的に変革することを約束したが、実行できるか否かについて見方は分かれている。これにつき、12月10日付けのワシントンポスト紙は‘Argentina’s new far-right president promises shock to the system’と題する解説記事を掲載している。主要点は次の通り。
(panida wijitpanya/gettyimages)

 世界中の極右指導者に支持される自由主義経済学者ハビエル・ミレイが、10日、アルゼンチンの大統領に就任した。

 就任式の演説でミレイは、政治家階級による100年間の浪費が残した問題を解決するため、当初は困難であっても必要なすべての決断を下すつもりであり、短期的には状況は悪化するだろうが、その後には努力の成果が現れるだろうと述べた。

 彼は早速、いくつかの決定を発表した。最初の大統領令で、ミレイは政府省庁の数を18から9に削減した。

 選挙期間中の公約であった、ドル化と中央銀行の閉鎖は、もはや当面の課題ではないようだ。代わりに、緊急課題として財政赤字の削減に焦点を当てている。10日の演説では、「調整とショックに代わるものはない」と述べた。

 中道右派の元財務相で中央銀行総裁だった現実主義者のルイス・カプートを経済大臣に任命したことは、予想外にオーソドックスで市場フレンドリーな人選と受け止められている。

 ミレイは、外交政策でも攻撃的姿勢から後退している。選挙期間中、中国を「暗殺者」国家、ローマ教皇を「邪悪な左翼の代表」、ブラジルのルーラ大統領を 「共産主義者」と呼んだ。当選後、彼は、法王を「歴史上最も重要なアルゼンチン人」と称え、ルーラを就任式に招待し、習近平からの祝辞に謝意を表明し中国国民の幸福を祈ると伝えた。

 10日の式典には、スペイン国王を含む世界の著名な指導者たちが出席し、その中には、ハンガリーのオルバン首相やスペインのVox党のアバスカル党首など、世界的な極右勢力も含まれていた。トランプ前大統領は就任式に出席したかったが、ロジ的な理由で訪問が実現しなかったという。

 ミレイが最終的には経済危機の解決に成功するとしても、短期的には更なる悪化が予想される。ミレイの勝利以来、物価は上昇しており、エコノミストは、12月だけで20%上昇し、前政権による人為的な物価上限が撤廃されるにつれて、ミレイ政権の最初の数カ月は上昇が続くと予想している。しかし、これまでの経済モデルを打ち破るような計画は、若い世代には好評のようである。

 政治アナリストは、大統領としてのミレイの最初の演説は、特定の政策や具体的な計画に触れることを避け、潜在的な抗議行動を抑えるために「国民に調整の準備をさせようとした」ものだったと指摘している。         

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 12月10日のミレイの大統領就任式については、就任演説の内容と共に海外からの参列者の顔ぶれに関心が高まっていた。

 経済改革について、ミレイは当選後、それまでの主張であった中央銀行廃止やドル化に口をつぐんでいる。10日の演説では、財政支出の削減を優先しこれが避けられないことを強調したが、その具体的な政策の中身には触れなかった。』

『ミレイは、経済状況の更なる悪化に対応するためには「調整」と「ショック」以外にないと強調したが、「調整」は補助金のカット、「ショック」は改革がさらなるインフレを伴うことを意味する。補助金や価格統制など廃止すれば物価のさらなる上昇を招くことが予想される。しかし、ミレイは、ハイパーインフレも厭わずに財政支出削減等の改革を推し進めることを示唆している。

 演説では、当面200億ドル、国内総生産(GDP)の5%に当たる歳出削減を目標とするがそれ以上の具体的な施策は明らかにせず、同日18の省を9に削減する大統領令に署名した。新内閣では、マクリ政権で財務相や中央銀行総裁を務めたカプートを経済相に、今次選挙の対立候補であったブルリッチ元治安相を再び治安相に、その副大統領候補ペトリを国防相に任命し、中道右派のマクリ派との連立内閣となった。
注目された出席者の顔ぶれ

 就任式への出席者については、外交面でのミレイ政権の評価や世界の極右派の連帯の2つの面で注目された。

 選挙キャンペーン中は、バチカン、ブラジル、中国を辛辣に批判していたが、当選後豹変して融和的態度をとり就任式に招待した。ブラジルは外相が、中国は全人代常務委員会の副委員長が出席した。

 他方、就任式は、世界の極右ポピュリストが連帯を示す場ともなり、ボルソナーロ元ブラジル大統領、オルバン・ハンガリー首相、スペインVOX党党首、チリの極右派のカスト党首などが参集した。トランプが出席できなかったのは、裁判の関係ではないかとみられる。

 さらに、ゼレンスキー・ウクライナ大統領が出席したことが話題となった。ミレイの反ロシアの姿勢は当選後も変わっていない。

 また、ミレイは気候温暖化が人間の責任ではないとしてパリ協定離脱も示唆していたが、ドバイでの国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)にはこの分野で活躍してきた外務省高官を代表として派遣し、この問題でも態度を変えたのではないかとみられている。

 このようなミレイの経済政策や外交面での態度の豹変をどう解釈すべきか。ドル化や中央銀行廃止の延期は現実に対応したものであり、中国との関係をとりあえず修復したのも国益の観点から妥協したもので、バチカンやブラジルとの関係も同様であろう。温暖化防止について態度が変わったとすれば対米配慮の面があるのかもしれない。

 これらは、ポピュリスト特有の気まぐれ的特徴でもあり、また、中道右派との連立上の必要によるものであるかもしれない。このようなミレイの態度の豹変は、良く言えば現実に対応する柔軟性であるが、悪く言えば単に思慮が足りなかっただけとも言える。 』