危機の火種、世界で連鎖懸念 第2次大戦の失敗に学ぶ
展望2024・国際情勢
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD144QQ0U3A211C2000000/

『2023年の紛争やインフレ封じ、新たな技術がもたらした激震は24年へと続く。混沌とした世界をどうとらえ、未来への道筋をどのように描けばよいのか。新年を展望する。
厳戒下にあるウクライナ、首都キーウ(キエフ)の大統領府。会見室に姿を現したゼレンスキー大統領は、つかつかと記者団に近づいた。
「ようこそ!」。英語であいさつし、一人ずつと力強く握手を交わす。11月下旬、日本経済新聞などによる取材冒頭の一…
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『11月下旬、日本経済新聞などによる取材冒頭の一幕である。
ところが、ウクライナ語で応じたインタビューでは、苦境や無念の思いがほとばしり出た。「世界の関心が中東情勢に移り、支援の焦点がウクライナ以外にそれてしまった」。最後に、無念そうにこうつぶやいた。
「戦争に巻き込まれず、誰も奪われることがない人々には、戦争がもたらす本当の意味や結末を分かってもらえない」
ウクライナの戦況厳しく
ロシアへの反攻が不調に終わり、ウクライナをめぐる戦況は厳しい。ゼレンスキー氏にはロシアとの妥協を促す声が米国内から聞こえる。米政府のウクライナ支援予算は、枯渇寸前だ。
トランプ前大統領に近いというバンス米上院議員(共和党)は12月上旬、米CNNテレビで、ウクライナが領土割譲に応じるのが「米国の最善の利益だ」と言い放った。
西側諸国は1930年代当時の大失敗を改めて思い起こすときだ。38年、チェンバレン英首相らはナチスドイツに甘い態度をとり、チェコスロバキアの一部割譲を認めてしまう。足元を見透かしたドイツは翌年、ポーランドに侵攻し、第2次大戦が始まった。
世界は今、似たような岐路にある。ウクライナの一部領土をロシアに譲ったら、悪影響は欧州だけではすまない。力ずくで領土を奪っても構わない風潮が、世界にまん延する。ロシアと結束するイラン、中国はそれぞれ中東、アジアでより強気の行動に走るだろう。
きな臭さを増すアジア
23年11月上旬、アラブ首長国連邦(UAE)に中東や西側諸国の識者が集まり、「世界政策会議」が開かれた。イスラエルとイスラム組織ハマスの衝突にイランが関与し、「米国を巻き込んだ大紛争」になることを恐れる声が相次いだ。
アジアもきな臭さを増す。中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は11月、バイデン米大統領に台湾侵攻の具体的な計画はないと告げた。だが、必要なら武力行使を辞さない方針を、習氏はこれまで重ねて表明している。米軍機への接近など、中国軍が挑発の水準を上げ始めた形跡もある。
来年11月の米大統領選に向けトランプ氏は10月、「第3次大戦が近づいている。止められるのは自分しかいない」と豪語した。だが、ロシアのプーチン大統領に融和的で、「米国ファースト」路線のトランプ氏が当選すれば、「大戦への流れがさらに加速してしまう」と、欧州元高官は恐れる。
米国は世界の警察官の座から降り、米軍も一つの大紛争を戦う能力しかない。ならば、日本を含めた同盟国が平和への貢献を増やし、米国と連携して戦争のドミノを防ぐのが最善の道だ。
(本社コメンテーター 秋田浩之)
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秋田 浩之
長年、外交・安全保障を取材してきた。東京を拠点に北京とワシントンの駐在経験も。国際情勢の分析、論評コラムなどで2018年度ボーン・上田記念国際記者賞。著書に「暗流 米中日外交三国志」「乱流 米中日安全保障三国志」。
危機の火種、世界で連鎖懸念 第2次大戦の失敗に学ぶ(2:00)
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