ウクライナが変える欧州安保
欧州総局長 赤川省吾
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR190MG0Z11C23A2000000/
『欧州連合(EU)がウクライナとの加盟交渉を始めることを決めた。欧州統合への参加が悲願だったウクライナには大きなクリスマスプレゼントとなった。実現すればウクライナだけではなく、EU全体が大きく変わる。
12月14日、EU首脳会議で親ロシアを演じるハンガリーのオルバン首相は最後までウクライナとの加盟交渉に同意しなかった。するとドイツのショルツ首相が「コーヒーでも飲んできたらどうか」と促し、席を外して…
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『するとドイツのショルツ首相が「コーヒーでも飲んできたらどうか」と促し、席を外している隙に残る首脳で採決に踏み切った。
まるでドラマのような意思決定だったが、シナリオは少し前にできていた。
「事前にうまくいくかどうか探った」と記者会見で明らかにしたのはショルツ氏。仏伊などEU主要国のほか、当のオルバン氏とも前もって打ち合わせていた。筋書き通りにことが運んだというわけだ。
棄権を促し、全会一致の「抜け穴」を欧州の盟主ドイツが提案したことは好ましくない。それでも非常手段を使ってまで「ウクライナの欧州入り」のメッセージを送りたかった。今回、決められなければ「弱い欧州」をさらけ出し、3月にロシア大統領選を控えたプーチン氏を喜ばせただけだった。
はびこる汚職の撲滅などウクライナが取り組むべき宿題は多い。所得水準も低く、加盟には「ハードルが高い」と言われる。
だが過去を振り返れば、東欧諸国が加盟する際には常に同じようなことが指摘されてきた。「労働者が押し寄せ、西欧の市民は失業する」「東欧から窃盗団がやってきて治安が急激に悪化する」。偏見交じりの臆測がまことしやかに流れたこともあったが杞憂(きゆう)に終わった。ウクライナ加盟は乗り越えられぬ壁ではない。
実現すれば欧州秩序が変貌する。特に安全保障体制。足元の戦争でロシア占領下の東部領土をかなり取り戻せても、国土が分割する形で終戦を迎えてもロシアの脅威は残る。ウクライナが持つロシアとの長大な国境がEUの外周となる。北大西洋条約機構(NATO)加盟を探りつつ、独仏軍などがウクライナに駐留してロシアに対峙することになるかもしれない。
米国に頼るのではなく、「自らの力で自らを守る」という欧州に脱皮できるかが問われる。すなわち民主主義の守り手としての存在を軍事力で補完する姿だ。これまで防衛力に難点のあった欧州が弱点を克服すれば、今度こそ米軍の中国シフトが可能になる。つまり日本にとっても国防上、ウクライナの西欧入りはプラスとなる。
年明けにもEUはウクライナへの追加の資金支援を決める。国際秩序を大きく変えるウクライナの欧州統合。遠い将来の話と過小評価するのは禁物だ。
[日経ヴェリタス2023年12月24日号]』