米国とイスラエル、対立先鋭化 双方が内政抱え袋小路に
ガザ人道危機めぐり、高官協議も打開見えず
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN14E3N0U3A211C2000000/
『【ワシントン=坂口幸裕、カイロ=久門武史】パレスチナ自治区ガザでイスラム組織ハマスと交戦を続けるイスラエルと、後ろ盾である米国の対立が先鋭化している。米国が人道配慮を再三促しても、強硬姿勢を貫くイスラエル。紛争後のガザ統治でも溝が浮き彫りになり、内政事情を抱える双方が譲歩できない袋小路に陥りつつある。
バイデン米大統領は14日からサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)をイスラエルに派遣した。ネ…
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『ネタニヤフ首相らと会談し、ハマスとの軍事作戦について「より正確に民間人への被害を減らす取り組みについて議論する」(国家安全保障会議のカービー戦略広報調整官)。
米政府は「民間人保護という意図と結果にギャップがある」(ブリンケン国務長官)とガザでの犠牲者拡大に危機感を募らせる。ガザ保健省によると、10月7日以降に1万8千人以上のパレスチナ人が死亡した。1200人超のイスラエル人が犠牲になったハマスの奇襲への報復が「過剰」だとの批判が米国内外で強まる。
米議会では身内である民主党のリベラル派からイスラエル軍によるガザ侵攻への非難が強まる。バーニー・サンダース上院議員は米国が供与した武器使用に条件をつけるべきだと提起した。
24年11月大統領選で再選をめざすバイデン氏にとって米国の若年層を中心にパレスチナへの同情論が広がる現状も無視できず、イスラエル支持のトーンを抑え始めた。
バイデン氏は12日、首都ワシントンで開いた会合で支持者を前に「イスラエルは無差別爆撃によって支持を失いつつある」と明言した。「軍事援助を提供し続ける」「ハマスに対抗する必要性に疑問の余地はない」と前置きしながらも、米国が支援する国を非難する異例の言及だった。
ネタニヤフ氏が率いる連立政権の一角を占める極右政党「ユダヤの力」の党首ベングビール国家治安相を「イスラエル史上もっとも保守的だ」と指摘。「ネタニヤフ氏は政府を変えなければならない」と表明し、閣僚交代を迫る内政干渉とも受け止められる発言に踏み切った。
イスラエルはかたくなだ。ネタニヤフ氏はバイデン氏が発言した翌13日「我々を止めるものは何もない」と述べた。コーヘン外相も「国際的な支持の有無にかかわらずハマスとの戦争を続ける」と語った。
国内世論がハマス掃討を支持しており、成果を迫られる。イスラエル民主主義研究所が5日発表した世論調査で、ユダヤ系市民の87%がハマスとの戦闘再開を支持した。
ハマスの奇襲を許した政権の責任を問う声は強い。近く国政選挙があれば与党リクードの惨敗と下野は確実とみられている。汚職疑惑で公判中の身であるネタニヤフ氏は、退陣すれば追及を受ける可能性がある。首相の座を手放したくないのが本音だ。
政権構造も要因だ。ネタニヤフ政権は極右政党を連立に加えてかろうじて国会で過半数を握る。連立維持にはパレスチナ自治政府を「敵」と呼ぶベングビール氏を切り捨てられないゆえんだ。
閣内に極右政党を抱える限り、将来のパレスチナ国家との「2国家共存」を探る道は閉ざされる。ネタニヤフ氏は12日、2国家共存を「唯一の方法」と位置づける米国と「『ハマス後』を巡って見解の相違がある」と認めた。米国が唱える自治政府のガザ統治への関与も拒む。
ネタニヤフ氏は現時点での意見の不一致が米国による武器支援の停止などには発展しないと読む。12日には「バイデン氏との対話で、地上作戦への全面的な支援を受けた」と明かした。
ユダヤ系米国人は米人口の2%ほどでも米政財界に大きな影響力を持つとされる。歴代の米政権はイスラエルの有事で一貫して寄り添ってきた経緯がある。ネタニヤフ氏はイスラエル支持を転換するのは容易でないという米国の事情を見透かす。
イスラエルの脅威であるハマス壊滅を支援しつつ、民間犠牲者を最小限に抑える――。バイデン氏が両立をめざす目標は難路にさしかかっている。
米ジョージ・ワシントン大のゴードン・グレイ教授「イスラエル翻意は困難」
Gordon Gray 2005〜08年まで中東担当の米国務次官補を務めた。09〜12年に米国の駐チュニジア大使なども歴任した中東の専門家(写真は米ジョージ・ワシントン大より)
バイデン米大統領が対イスラエル発言を変化させているのはガザでの民間犠牲者拡大や人道状況の悪化に対する懸念の高まりを映す。サリバン大統領補佐官を派遣したのは大規模な軍事作戦の終了時期を定める必要があると説得するためだろう。イスラエルは数カ月は戦闘を継続するとの立場で、米国は年内の終結を望んでいるはずだ。
紛争後のガザ統治でも意見の違いがあるが、バイデン政権が武器支援の停止に踏み切ったり脅したりすることはないだろう。バイデン氏が12日にネタニヤフ首相を非難したように、より外交的な関与を強めるのではないか。
ネタニヤフ氏はガザ統治やパレスチナ国家との「2国家共存」に関する米国の主張を拒もうとしているのは明らかだ。米国の外交努力はより難しい局面に入りつつある。』