なぜハマスは戦闘を続けられるのか イスラエルの誤算

なぜハマスは戦闘を続けられるのか イスラエルの誤算
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/32391

『パレスチナ自治区ガザ情勢は、イスラエル軍とイスラム組織ハマスとの戦闘が全域に広がり、ガザ住民らの死者は1万8000人を超えた。イスラエル側が戦争の目標としているハマス指導者の殺害はいまだ実現していない。

そうした中、ハマスが戦闘を続行できるのはカタール資金の流入を容認するなどイスラエル自らがハマスを育て上げたからだ、との衝撃的な見方が明らかになってきた。

終わりの見えないイスラエルとハマスの衝突(Israel Defense Forces/ロイター/アフロ)

すべては中東和平をつぶすため

 10月7日のハマス奇襲攻撃で始まった戦闘は2カ月以上が経過し、今や第二段階に入った。イスラエル軍は当初、ガザを南北に分断し、北部の攻略から始めた。

しかし、奇襲攻撃を立案、命令したとされるハマスのシンワル指導者や軍事部門カッサム旅団のデイフ司令官ら最高幹部は発見できず、12月初めからは戦車など地上部隊を南部へ侵攻させた。

 軍は南部最大の都市ハンユニス中心部まで進撃、同地のトンネル施設にシンワル指導者らが潜伏しているとみて攻撃を強化している。ハマスの戦闘員は約2万5000人だが、これまでの戦闘で約6000人が殺害されたもよう。イスラエル軍兵士の戦死も100人を超えた。軍は数百人を捕虜にし、投降を呼び掛けているが、ハマスの抵抗は続いている。

 ハマスがなお戦闘力を持続しているのは、この戦争に向けて武器・弾薬や食料、水などを大量に地下に蓄えているからだ。

武器や食料を購入、準備できたのはペルシャ湾岸の富裕国カタールがハマスへ巨額の資金を送り続け、それをイスラエル自身が容認してきたことが背景にある。イスラエル自らがハマスを強大な組織に育て上げたとされる所以だ。

 なぜイスラエルはハマスの軍備強化になるようなカタール支援を認めたのか。「すべてはパレスチナとの中東和平をつぶすためだった」(ベイルート筋)。

ニューヨーク・タイムズや地元メディア、ベイルートからの情報などによると、計16年間も権力を掌握してきたネタニヤフ政権はパレスチナ勢力が一枚岩となって和平交渉を要求してこないようパレスチナの「分断統治」を画策した。』

『パレスチナ勢力は2007年、内部対立を激化させ、ハマスがパレスチナ自治政府を武力でガザから追放。それ以降、パレスチナ側は「ガザのハマス」と「ヨルダン川西岸のパレスチナ自治政府」の2つの勢力に分裂した。

 ネタニヤフ首相はかつてイスラエルのジャーナリストに対し「自治政府の対抗勢力としてハマスを強いままに保つことが重要。2つの勢力があれば、パレスチナ独立国家に向けた交渉の圧力を弱めさせる」と発言していたとされる。

 唯一の和平のチャンスと言われた「オスロ合意」(1993年)について、自治政府は支持しているが、ハマスはイスラエルを武力で打倒すると主張して反対している。合意を反故にしたいネタニヤフ政権にとってハマスの姿勢は都合の良いものだった。

 「ハマスに対するイスラエルの考えは〝ガザを統治できるほど強く、しかしイスラエルに制御されるほど弱い〟というのが基本だった」(同)。イスラエルはハマスを重要な手駒の1つとして手なづけようとしたわけだ。

両刃の剣

 ネタニヤフ政権はこの基本的な考えに沿い、さまざまな要求を突き付けて和平交渉を頓挫させた。

〝ガザを統治するほど強い〟ハマスを育てるために利用したのがカタールだった。中東では一時、民主化の嵐が吹き荒れたが、カタールはその中心にいたムスリム同胞団などイスラム原理主義勢力を支援していた。

 ムスリム同胞団が源流のハマスもその対象で、2012年にはカタールの当時のハマド首長がガザを外国の元首として初めて公式訪問、数億ドルに上る援助を約束した。

イスラエルは当初こそ、カタール資金が民生用のみに向けられ、ハマスの武器製造や購入に使用されないよう監視したが、ハマスは資金の一部をかすめ取り、軍備増強に転換していった。

 このカタールのハマス支援については、一部のネタニヤフ政権の閣僚が反対したが、米国のオバマ、トランプ、バイデンという歴代政権も支持した。

ニューヨーク・タイムズによると、ネタニヤフ政権は18年の閣議で、カタール外交官がガザに入り、直接ハマス当局に援助金を手渡す方式を承認した。

 外交官は毎月1500万ドルのキャッシュをスーツケースに詰め込み、ガザに通った。外交官をガザ検問所まで送るのはイスラエル情報当局者の役目だったという。

 反対した閣僚の一人だったリーベルマン元国防相は同紙とのインタビューで、この閣議決定が今回のハマスによる奇襲攻撃につながったと指摘し、「ネタニヤフにとって重要なことは1つだけ。どんな犠牲を払っても権力座に留まることだ」と批判した。』

『ネタニヤフ首相にとってカタール資金をガザに入れることは「両刃の剣」であり、大きな賭けだった。うまく機能すれば、和平交渉は暗礁に乗り上げたままになり、パレスチナ独立国家を樹立させないようにできる。しかし、一方でハマスを管理できなければ、ハマスが牙をむいてくるかもしれないからだ。

 首相の賭けを後押ししたのは甘い判断と過信だった。ネタニヤフ政権は「ハマスには大規模な攻撃を仕掛ける力はない」と誤った判断をし、仮に攻撃に出ても、ガザとの境界に設置した最新鋭の監視装置で事前に探知し、阻止できるとの過信を抱いた。ハマスによる攻撃の可能性があるとの情報さえ無視した。

現実味帯びる「戦争引き延ばし」

 21年に短期間政権の座にあったベネット政権当時、特務機関モサドの長官らがカタール外交官のガザ入りに強く反対し、国連がカタール外交官に代わってカタール資金で燃料などを直接購入するやり方に変更された。この時の援助額は月3000万ドルに膨れ上がっており、すでにハマスは十分な資金を蓄積、イスラエル攻撃の爪を研ぎ始めていたとみられている。

 ネタニヤフ首相がハマスを育成してきたのではないか、との疑惑に対し、首相は「馬鹿げた話だ」と一蹴している。だが、現実としてカタール資金をガザに流入させることを容認した決断がハマスを強力な組織にのし上げたことは確かだ。首相の賭けは失敗し、その代償はあまりに大きい。

 首相にふさわしいのは誰かという最近の世論調査によると、ネタニヤフ氏はトップのガンツ元国防相に大差を付けられ、政治生命は消えかかっている。「ネタニヤフにとって唯一生き残る道は戦争をできるだけ引き延ばすしかない」(ベイルート筋)という見方が現実味を帯びてきた。』