習近平は世界をどう見ているのか 高まる欧米での論議
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/32346
『斎藤 彰 (ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長)
拡張を進める権威主義
米CNNテレビは、今回の首脳会談に先立つ同月10日、「習近平は世界を組み替える大がかりなビジョンを有しており、各国が耳を傾けつつある」と題する深堀りのニュース解説を流した。
解説では、要旨以下のように指摘した:
「習近平国家主席は去る10月、ロシアのプーチン大統領、国連のグテレス事務総長ら世界の要人たちを北京に迎え開催された『一帯一路フォーラム』で挨拶し、自国を『21世紀が抱える多くの難題を乗り切れる世界唯一の国』と持ち上げた上で、『中国はあらゆる国の近代化のために全力で取り組むとともに、人類共通の未来を建設する』と力説した」
「彼が抱くこうしたビジョンは、抽象的とはいえ、従来の国際システムがこれまで米国およびその同盟諸国に不当に牛耳られてきたため、これを作り直す必要があるとする中国共産党の新たな理念を簡潔に要約したものだ。近年、欧米で中国の権威主義的勢力拡張ぶりに対する懸念が高まっているのをよそに、北京は今こそ、中国台頭を確実にするために国際システムとグローバル・バランスを転換させ、これを阻止するいかなる試みも拒絶するための時が到来したとみなしているのである」
「そして特にここ数カ月、中国側はこうした新たな〝中国モデル〟を党、政府機関の文書、国際会議における発言などを通じ積極的にPRするとともに、世界各国からの支持獲得に乗り出し始めており、西側世界では、批判勢力に対する政治的弾圧、言論抑圧、監視強化を特徴とする専制主義的中国ルールが世界モデルになることへの懸念も広がりつつある」
「ところが、中国側のこうした攻勢とは対照的に、一方の米国は、海外のいくつかの戦争のみならず、国内的にも選挙のたびごとに外交政策の変更を余儀なくされる不安定さ、与野党間の国論分裂を抱えるがゆえに、そのグローバル・リーダーシップに対する不信をますます招いている。とくに直面するウクライナ戦争、イスラエル・パレスチナ紛争などについても、西側は果たして正しい対応をしているのかどうか、疑念を払しょくし切れていないのが実情だ」
CNNは上記のような解説に加え、習近平指導体制における新たな「世界観」についての補足説明として、去る9月、発表された1万3000語に及ぶ長文の「公式文書」にも言及。その中で①(米国など)いくつかの国々が他国に対して覇権主義的かつ侵略的行動を起こしグローバルな安全と発展の阻害要因を作り出している、②これに対し、中国は習近平指導の下で、経済発展と安定達成のために各国が対等の立場で共通の繁栄をめざすことを最優先課題と位置付けている、③同時に各国は西側諸国が唱導する〝普遍的価値〟に束縛されず、ブロック政治、イデオロギー競争、軍事同盟からも解放されることになる――などと文書が論じていることを紹介している。
しかし、こうした「習近平の世界観」論議は、今に始まったわけではない。
「新たなマルクス・レーニン主義」
中国問題のトップ論客として知られ、かつて2度オーストラリア首相として中国首脳とも直接わたりあってきたケブン・ラッド駐米大使は、すでに昨年秋、国際問題誌「Foreign Affairs」に、「習近平にとっての世界(The world according to Xi Jinping)」と題する説得力ある論考(2022年冬季号)を寄稿している。
この中でラッド氏は、習近平氏が描く「世界観」のまず第一点目の特徴として、「新たな形のマルクス・レーニン主義の発展」を挙げている。』
『これは、中国が最高実力者鄧小平氏以来、毛沢東時代の共産主義イデオロギーに代わり踏襲してきた「国家資本主義」ともいうべき従来の柔軟路線を根本から覆したことを意味している。
すなわち、ラッド氏によれば、習近平指導体制下では、共産主義を見捨てるどころか、逆にマルクス・レーニン主義のイデオロギーこそが今日、政治、経済そして外交政策の中核的役割を果たしており、具体的には「政治は左翼レーニン主義、経済は左翼マルクス主義、しかし外交は右翼国家主義を志向している」という。
そして、習近平氏は国家主席就任以来、①公共政策から市民生活のすべてに至る中国共産党の統制と支配を一層強めてきた、②あらゆる国営企業を再活性化させてきた、③逆に私企業の活動に対する新たな規制と制限に乗り出した――という判断を示している。
さらに、このような習近平氏の「新たなマルクス・レーニン主義」は、当然のことながら、国内のみならず世界との関係にも投影されることになる。
ラッド氏は次のように断じている:
「彼は、一段と強引な外交政策を推進することで国内的にもナショナリズムを掻き立ててきた。しかもその外交は、『歴史は不可避的に中国へ味方しており、中国パワーの錨でつながれた世界こそがより公正な国際秩序を生み出す』とのマルクス主義的確信に支えられ、ますます勢いづいている。すなわち、習近平の台頭は、(毛沢東時代の)『イデオロギー指導者Ideological Man』の復帰以外の何物でもない。
こうした純正のイデオロギーと専門知識に支えられたテクノクラート的プラグマティスムがブレンドされた彼の世界観については、西側世界では真面目に受け止められていないが、まさにこれこそが、今日の現実世界における中国政治・外交、そして対外拡張に深遠なインパクトを与えているのである」
上記のような習近平体制に対する評価は、中国が今世紀に入り、とくに2001年の世界貿易機関(WTO)加盟以来、硬直化した共産主義から脱皮し、自由主義世界の市場経済体制の中に組み入れられてきたとする楽観的認識をバッサリ打ち消した点で注目に値する。
強気の外交姿勢への転換
中国は拙速な対外勢力拡張を控え、自らの才能を隠して内に力を蓄えるべきだとする鄧小平氏の有名な思想「韜光養晦」(とうこうようかい)についても、習近平氏はこれまで公式の場で何度も異議を唱えてきた。
習近平氏が、鄧小平-趙紫陽―胡錦濤体制時代とは異なる強気の外交姿勢に転じた点については、英誌「Economist」も、去る3月15日に開催された「中国共産党・世界政党上層部対話」で公表された「グローバル文明イニシアチブ」を例に挙げ、同様の論陣を張っている(同月23日付け)。』
『「グローバル文明イニシアチブ」では、中国共産党は①質の高い推進に尽力し、世界の発展と繁栄を促進する、②国際公平・正義の維持に尽力し、世界の平和と安定を促進する、③文明間の交流と相互理解の推進に尽力し、人類文明の進歩を促進する、④政党間の交流と協力の強化に尽力し、手を携えて共に天下の大道を歩む――との4項目の指針が具体的に列挙された(人民日報日本語版)。
「Economist」誌によれば、これは「米国主導型の戦後世界秩序の改変を企図したものであり、20世紀を代表する『一極支配』から、中国を含めた大国が管理する『多国主義』への転換を意味している」「それゆえ安全保障面では、増大する中国の軍事的脅威封じ込めのいかなる試みにも断固反対するとともに、経済面では、ロシアのような専制主義諸国とは無条件で取引する中国型経済成長モデルの推進をめざしたものだ」という。
世界から見ても「独裁者」
いずれにしても、西側におけるこうした最近の論評で共通するのは、いずれも着実な経済発展と軍事力増強を背景に最強国米国と対等に渡り合い、対外的にも「中国モデル」を拡大していくという習近平氏の強気の世界観に着目している点だ。
しかし同時に、その世界観は、国内的には、批判や不満を封じ、対立分子を容赦なく国家権力で排除していくという専制体制の構築を意味していることにも注意を払う必要がある。
バイデン大統領が先月の米中首脳会談終了直後の記者会見で、習近平氏を改めて「独裁者」と評したのも、こうした独特の世界観を念頭に置いたものに違いない。
そしてもしそうだとしたら、米中関係の改善は当分、望めないどころか、さらに冷却化に向かう恐れさえもあるといえるだろう。
この点で、わが国の今後の対米、対中外交も、決して無縁ではない。』