フィリピン、小型原発導入へ米と連携 安定電力を確保
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM212D40R21C23A1000000/
『【マニラ=志賀優一】フィリピンが原子力発電の導入に向けて本格的に動き始めた。配電大手のマニラ電力(メラルコ)が米小型原発企業と事業化調査に乗り出すことを決めたほか、ほかの米国企業もすでにフィリピン市場参入を計画している。再生可能エネルギーの導入とともに原発を推進することで安定した電力確保を目指す。
核物質の移転が可能に
「我々は原発が2032年までにフィリピンの電力構成(エネルギーミックス)の…
この記事は会員限定です。登録すると続きをお読みいただけます。』
『「我々は原発が2032年までにフィリピンの電力構成(エネルギーミックス)の一部になると見ている。そしてパートナーである米国とともに原発導入を追求できることをうれしく思う」。フィリピンのマルコス大統領は、同国政府が発表した米国と民間の原子力発電利用に関する協定締結についてこう語った。
同協定によりフィリピンの原発導入に向けて2国間で核物質や設備、情報などの移転が可能になる。マルコス氏はアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で米国を訪問したが、原発の導入を具体化するための協定締結に至った格好だ。
マルコス氏の訪米に合わせて、フィリピンのメラルコと小型原発設備を手掛ける米ウルトラ・セーフ・ニュークリア(USNC)の連携も決まった。USNCはマイクロ・モジューラー・リアクターと呼ぶ小型原発を手掛けており、両社はフィリピンでの設置に向けて事業化調査に乗り出す。
小型原発は一般に安全性の高さや建設費の安さが特徴とされる。両社は環境負荷や投資額、運営費用などを推定する。マルコス氏は両社の連携についても「フィリピンがクリーンで持続可能なエネルギーを探るうえで重要な一歩だ」と説明した。
安定電力、経済成長に不可欠
フィリピン大統領府は5月にも小型原発開発の米ニュースケール・パワーがフィリピン市場への参入を計画していることを明らかにしていた。2031年までに最大で75億ドル(約1兆1000億円)を投資する見通しだ。
フィリピンの有力実業家エンリケ・ラゾン氏が率いるエネルギー企業プライム・インフラと連携して事業運営する方針だ。
現政権は、原発推進の大統領令に署名したドゥテルテ前大統領の政権と同様に原発導入に意欲を示している。環境負荷が低いが天候に左右されやすい太陽光発電や風力発電などの再生エネとともに安定した電力供給が見込める原発を組み合わせる。
フィリピンの総発電量に占める石炭火力発電の比率は約6割に達する。すでに石炭火力発電所の新設は禁止しているほか再生エネの比率を30年に35%、40年に50%まで高める目標を掲げている。
一方で国内総生産(GDP)伸び率は21年4〜6月期以降はどの四半期も4%以上の成長を維持している。電力不足は新興国経済の成長を鈍化させる足かせになりかねず、フィリピンには環境負荷の低減とともに安定した電力供給体制の構築が求められている。
安全面が最大の課題
旧マルコス政権下でも原発稼働を目指していた(22年4月、バターン原発)
原発の導入はマルコス家にとって悲願でもある。
実はフィリピンは首都マニラがある北部ルソン島西部バターン州に原子力発電所を有する。現マルコス大統領の父である元大統領の政権時代に建設された。
当時は石油危機を契機にエネルギーの輸入に依存しない計画から原発が推進されたが、旧マルコス政権が民主化革命で倒れたことや旧ソ連のチェルノブイリ原発事故などが相まって、稼働には至っていない。
原発導入を推進する中で35年以上前に建設されたバターン原発の稼働も取り沙汰されてきたが、コストや安全性の面でも小型原発の導入が現実的な選択肢となりそうだ。
ただ課題もある。フィリピンの原発導入を巡っては、かねて原発を安全に稼働させ保守作業ができる人材の育成と確保の必要性が指摘されてきた。米国との協定や民間企業同士の連携を通じて早急に体制を整備することが原発の安全性を担保するためにも重要となる。
フィリピンでは大手財閥各社が発電事業を手掛けるケースが多い。現時点では太陽光や風力、同国の主力電源の1つとなっている地熱発電など再生エネを通じて事業強化を狙う企業がほとんどだ。メラルコなどの動向を見て、財閥大手が波及力を持って原発推進に動くかも注目される。
日経産業新聞の記事一覧へ
https://www.nikkei.com/theme/?dw=18083101 』