グレーの壁にいら立つ「Z」 米国だけでない世代間対立
本社コメンテーター 小竹洋之
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD290II0Z21C23A1000000/


『デジタル機器やSNSを操り、社会の変革に挑むZ世代(1997〜2012年生まれ)。その抗議活動がとりわけ米欧を揺らす――。米調査会社ユーラシア・グループが23年の世界10大リスクの9位に挙げた項目である。
これをあしきリスクとみなすかどうかはともかく、米国のいまを言い当てたのは間違いない。イスラエルとイスラム組織ハマスの衝突は、中高年と価値観を異にする若者の不満や怒りに火をつけ、世代間の対立を助…
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『イスラエルとイスラム組織ハマスの衝突は、中高年と価値観を異にする若者の不満や怒りに火をつけ、世代間の対立を助長した。
バイデン氏に若者の警告
「明確で間違えようのない警告を発するために、私たちはここに記す」。11月上旬、複数の左派団体がバイデン大統領に公開書簡を送った。リベラルな若者を代表し、イスラエルとハマスの停戦を仲介するよう迫ったのだ。
さもなくば、多くの若者が24年の大統領選でバイデン氏への投票を断念すると訴えた。パレスチナ自治区ガザで惨事が続いても、イスラエルの戦闘を支持してきた政権への痛烈な一撃だった。
1948年に独立を宣言したイスラエルを、米国は国家としていち早く承認し、陰に陽に支えてきた。ベビーブーマー世代(46〜64年生まれ)を代表とする米国の中高年も、ハマスに不意打ちされたイスラエルに同情的だ。
一方、社会正義に敏感な若者にとって、ガザの罪なき市民まで巻き込むイスラエルの反撃も非人道的に映る。各種の世論調査では、年齢が若いほどイスラエルの支持率が低下する傾向にある。
バイデン氏は高齢不安を拭えず、経済や治安への対応も批判を浴びる。中高年と同じイスラエル寄りのスタンスが若者の離反に拍車をかけ、ただでさえ厳しい再選の足かせになりかねない。
中東政策を巡る認識のギャップは、そもそも世代間対立の一端にすぎない。近著「Z世代のアメリカ」で知られる同志社大学の三牧聖子准教授は「若い世代はかねて、構造的な暴力や人種差別に反発してきた。こうした視点が醸成され、ショッキングな出来事をきっかけに表面化した」と話す。
「最新版のトリクルダウン」
戦争、格差、政争、そして温暖化……。中高年が様々な問題を起こし、若者に引き継ぐさまを、米ハーバード大学の世論調査部門の責任者ジョン・デラ・ボルプ氏は「最新版のトリクルダウン効果」と呼んだ。成長の恩恵が上流から下流に波及する「トリクルダウン効果」にちなんだ表現である。
そのツケを払わされているといういら立ちを、若者の大半が共有する。「静かなる不況」。動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」には、かつてのような繁栄を享受できない米国の現状を嘆くZ世代の声があふれる。
米ギャラップなどの世論調査によると、不安、ストレス、悲しみ、孤独を頻繁に感じる若者の割合は中高年より高い。そんな事態を招いた責任を顧みず、「最近の若者は」と説教するベビーブーマー世代に対し、Z世代が放ったのは「オーケー、ブーマー(ベビーブーマー世代よ、もうたくさんだ)」というせりふだった。
しかも若者の声は政治に届きにくい。先進国では議員と有権者の年齢が上がりがちで、中高年の利益を優先する「シルバー民主主義」の弊害が叫ばれて久しい。
国際組織の列国議会同盟によると、米国の連邦議員の平均年齢は上院で64歳、下院で58歳。主要7カ国(G7)では、それぞれ3位、1位の高水準だ。そして現大統領はいまや81歳である。
若者のバイデン離れが映し出す構造問題を軽視してはならない。「グレー(灰色)の壁」で若者を隔てる長老政治(ジェロントクラシー)。その限界を覆い隠せなくなってきたとみるべきだ。
米国だけの現象ではない。米デロイトが世界44カ国で実施した調査では、Z世代の半分がかつかつの生活を強いられ、家庭を持つのは難しいと答えた。かたや列国議会同盟が集計する世界155カ国・地域の議員年齢は総じて高く、世代間対立の火の手がどこで上がってもおかしくはない。
日本はどうか。スマートニュースメディア研究所などが世論調査で社会の対立軸を探ったところ、労使の対立(54%)や貧富の対立(50%)を認める人々の割合が多く、高齢化が進んでいるわりに世代の対立(39%)は強く意識されていなかった。ただ「若い世代」と「年配の世代」のどちらの立場に近いかを尋ねて分類し、世代の対立を認識する割合を比べると、51%と40%の開きがあった。
怠れない努力の積み重ね
世界はグレーの壁をどう克服するのか。若者に議席や立候補者の枠を割り当てるクオータ制を公式に採用するのは、モロッコやエジプトなど13カ国。一部には議員の上限年齢を求める声もある。
だが議員のクオータ制や上限年齢の導入には、法的な障害や人権上の課題がつきまとう。国民の合意を得られない国もあろう。ならば若手議員の育成プログラムや選挙資金の支援といった地道な努力を積み重ねるほかはない。
「若者のバイデン離れは年齢だけが理由ではない。激動の時代に新たな価値観を持ち込めないというプラスアルファの問題がある。議員の年齢構成も重要だが、政治に若者の声を取り入れて共有する方法を幅広く探りたい」。三牧氏はこう語ってもいた。
ネット上にあふれる不確かな情報や知識・経験の不足がたたり、若者が中高年より危うい言動に走ることもある。それでもグレーの壁はなるべく低いほうがいい。
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石井クンツ昌子
お茶の水女子大学 理事・副学長
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別の視点 確かにバイデンの中東政策への若者の反発が強くなってきている。
しかし、この状況を単純に世代間対立として理解するのはどうだろうか。何故なら、バイデンよりも1歳年上で大統領予備選にも数回出馬した民主党のバーニー・サンダースという政治家は米国の若者から熱い支持を集めているからだ。
サンダースを支持しているのはミレニアル世代と呼ばれ、2000年以降に成人した世代である。多額の学費ローンを背負ってきた世代でもあり、サンダースが掲げる学費無料化に大いに賛同したのである。
つまりバイデンが高齢なのでZ世代とのギャップがあるのではなく、バイデンが掲げる政策に反対しているというのがより納得のいく考え方だと思う。
2023年12月4日 17:26いいね
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吉田徹
同志社大学政策学部 教授
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ひとこと解説 米政治学者のノリス=イングルハート著『カルチュラル・バックラッシュ』は、先進各国の世代間の違いを明らかにし、近年のポピュリズム政治は年長世代による旧来の価値観がもたらしたとしている。「豊かで平等な時代」が当たり前のベビーブーマーと「先細りで不平等な時代」が待ち受けるZ世代で意識が異なるのは当たり前だろう。
ところで政治的に覚醒している他先進国Z世代と比較して日本のそれはむしろ政治的に後退している。自ずとこの先数十年間の政治的発展はかなり異なっていくことになると予想される。
2023年12月4日 17:10いいね
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前野隆司
慶応義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授/ウェルビーイングリサーチセンター長
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別の視点 私も若い頃(40年も前だが)、しらけ世代ないしはポスト団塊世代と言われてマスコミに世代間対立を煽られたのを思い出す。
基本的に若者は新しい世界を目指す。日本の若者は保守化しているというデータもあるが、それも含めて過去と違う世界を目指すのが若者だ。
若者の純粋な声は世代間対立ではなく納得できる声ではないか。
かつての若者は、若者の声を理解できない老害にならないようにしたいものだ。
2023年12月5日 7:53 (2023年12月5日 9:30更新)
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小竹 洋之
経済部次長、ワシントン支局長、上級論説委員兼編集委員などを経て現職。日米での取材経験を生かし、マクロ経済や国際情勢について幅広く論評する。単著に「迷走する超大国アメリカ」、共著に「技術覇権 米中激突の深層」「米中分断の虚実」。
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