第6章オーストラリアの移民政策の現状と評価(注い
ー注意深い開国政策による人口増加で成長を実現ー
https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/jrireview/pdf/11440.pdf
※ 今日は、こんな所で…。









『理事長翁百合
目 次
- はじめに
- 移民政策の歴史
(1) 試行錯誤を繰り返し白豪主義と決別
(2) 90年代から技能移民を積極的に受入れ - 移民政策のフレームワークと現状
(1) 定住を基礎として、近年は高技能者の流入を優遇
(2) 多様^!するなか、インドや中国などの出身者が増加
(3) 移民は都市部に集中し、インフラ不足も
(4) 共生のために政府や州が様々な施策を実施 - 移民政策の評価
(1) 経済成長、高齢化のスピード抑制に大いに貢献
(2) インフラ不足問題に加え、共生に対する懸念も存在 - 移民政策の今後の課題と日本への示唆
(1) 経済的利益の確認と共生の進展
(2) 日本への示唆
(注1)本章は、翁百合「オーストラリアの移民政策の現状と評価」日本総合研究所[View Point] 2018-015、2019年1月7日に若
干の加筆・修正したものである。
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第6章 オーストラリアの移民政策の現と評価
要 約 - わが国では、深刻な人手不足に対応するため、外国人労働者受け入れ拡大に向けて2019年4月から
新制度がスタートした。今回の外国人労働者の拡大について、安倍総理の法案審議中の国会での答弁
では、あくまで技能実習生制度を修正してその枠を広げるものであり、「いわゆる「移民」とは異な
る」との見解を明らかにしている。一方、よく知られているように、オーストラリアは多くの移民を
受け入れてきた移民国家であり、1970年代に人口問題を移民増加によって解決しようと舵を切った。
人口増加率は、2010年代で1.5%程度と〇ECD諸国のなかでも最も高い部類に入り、オーストラリア
は移民によって社会が成立している国となっている。 - オーストラリアは試行錯誤を繰り返しながら白豪主義と決別し、90年代後半からは、熟練労働者な
どの技能を持つ外国人を、定住を基本とする移民として積極的に受け入れてきた。受け入れにあたっ
ては、職種別の不足労働力を緻密に計算して、必要な受入数を毎年決定し、技能や英語能力などを勘
案するポイント制などを活用して外国人移民を慎重に選別してきた。イノベーション発揮のためにも
多様性を重んじることが重要と考え、文化的な多様性を尊重しつつ、社会秩序の安定と国家発展を目
指す「多文化主義」の政策を推進してきている。受け入れにあたっては、政府や州が外国人共生のた
めの様々な施策を進めてきた。 - オーストラリアの移民政策は、次のような点から、近年の同国の持続的成長に大いに貢献している
と評価されている。第1に、不足気味であった労働需要の充足が各職種で実現してきている。第2に
労働参加率の上昇(participation)、生産性の上昇(productivity)x人口の増加(population)という
三つのpにより、持続的な経済成長が可能となっている。90年代以降連続して世界最長の26年間経済
成長を続けている背景として、積極的な移民受け入れが指摘されている。第3に、若年層の移民が増
えているため、人口高齢化スピードを抑制している。 - 一方で、移民が都市部に集中してしまい、そのため都市部のインフラ不足の問題が発生しているこ
と、さらに移民の増加により、住民との共生に対する懸念も地方などで拡大していること、などの問
題も指摘されるようになっている。こうしたこともあり、現在オーストラリアは高度人材受け入れを
一層推進する一方、全体としては抑制気味に受け入れる方向に変化している。 - オーストラリアは移民政策を人口増加による成長戦略として位置付け、経済的便益を大きくするた
めに、緻密なデータ分析に基づき、自国にとって必要な外国人を選択的に受け入れるといった、注意
深い開国政策をとってきた。また、常時検証を重ね、微妙なバランスをとりながら政策を運営してき
ている。多文化共生に対する許容度が大きいと思われる移民国家とよばれるオーストラリアでも、慎
重に練られた外国人受け入れ政策をとり、労働市場の状況変化に合わせて政策調整しながら改革をし
てきていることは、日本が今後外国人の長期的受け入れのあり方を正面から検討するにあたって参考
にすべき点が多々あると考えられる。
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1.はじめに
わが国では、深刻な人手不足に対応するため、外国人労働者受け入れ拡大に向けて2019年4月から新
制度がスタートした。今回の外国人労働者の拡大について、安倍総理の法案審議中の国会での答弁では、
あくまで技能実習生制度を修正してその枠を広げるものであり、「いわゆる「移民」とは異なる」との
見解を明らかにしている。
一方、よく知られているように、オーストラリアは多くの移民を受け入れてきた移民国家であり、現
在人口の28%が海外生まれ、また親のどちらかが海外生まれの移民2世の人口は、オーストラリアの人
口の約半数の46%にのぼる(OECD [2018])。従来は白豪主義とよばれる白人優先の極めて選択的な政
策を採用していたが、1970年代に人口問題を移民増加によって解決しようと舵を切り、移民の受け入れ
を積極化した。この結果、第2次世界大戦中600万人であった人口は、約70年間で2018年には2,500万人
に達し、人口増加率は、2010年代で1.5%程度(図表1)とOECD諸国のなかでも最も高い部類に入り、
オーストラリアは移民によって経済社会が成立している国となっている。欧州各国では移民受け入れを
めぐって政治的な動揺が続いており、例えばイギリスのブレグジットの潜在的な原因となったほか、ド
イッ等でも移民問題が様々な深刻な問題を引き起こしている。これに対し、オーストラリアは、様々な
問題は生じているものの、欧州ほどの大きな問題が顕在化しているわけではない。
(図表1)オーストラリアの人口増加率
(2005-15年平均)
ギリシャ
日本
ドイツ
ロシア
イタリア
オランダ
韓国
フィンランド
デンマーク
フランス
スペイン
中国
スウエ^—テン
アメリカ
イギリス
カナダ
二ユージーランド
ノルウエー
スイス
オーストラリア
シンガポール
(資料)Lowe.P. [2018]から引用
(出所)国連
筆者は2018年9月にオーストラリアで政府関係者と移民政策について議論する機会を持ったが、その
ヒアリング内容も参考に、本稿では、オーストラリアの移民政策の歴史、概要と最近の動向について紹
介する。
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第6章 オーストラリアの移民政策の現と評価
2.移民政策の歴史
(1) 試行錯誤を繰り返し白豪主義と決別
オーストラリアの移民政策について、オーストラリア財務省および内務省による論文(Treasury/
Department of Home Affairs [2018] ** Shaping a Nation”)等を参考にその推移を辿れば次の通りである。
オーストラリアは、かつては現地人のみが居住していたが、18世紀以降はイギリスの流刑地となり、
19世紀には全土がイギリスの植民地となった。その後もイギリスからの移住が進んで、1901年にイギリ
スから独立した。この段階でのオーストラリアの人口はわずか380万人にすぎず、そのなかで移民の占
める割合は23%であった。これらのほとんどがイギリスなど欧州からの移民であった。当時のオースト
ラリアでは白人優先の「白豪主義」をとっていたため、その後もイギリスを中心に欧州等からの移民が
続いていた。そうした白人優先の政策をサポートするために、英語も含む欧州の言語の書き取り試験な
どが導入されていた。
第二次大戦中の1943年、人口は約700万人であったが、国家安全保障と労働人口不足の観点から人口
増加が必要であるとの認識を強め、カーティン首相が移民拡大にコミットした。このとき、人口増加率
目標を2%とし、1%は出生による自然増加、あとの1%は移民による増加を目指すとされた。しかし、
この時点では白豪主義を止めていたわけではなく、イギリス以^kの欧州やアメリカからの移民を積極的
に受け入れ、人口目標を達成しようとした。
合計特殊出生率は、ピーク時の1960年初頭に3.5人程度に高まったのち、70年代には二人程度まで大
幅に低下し、人口を本格的に増加させるため、73年移民法等によりオーストラリアはようやく「白豪主
義」を捨て「多文化主義」へ移行、様々な国からの移民を受け入れることを決定した。この時点から、
移民受け入れの可否を決定するために、いわゆるポイント制を導入し、年齢、教育、技能、語学スキル
などをポイント化して評価し、受け入れを進めた。1970年代からはベトナム戦争等の難民受け入れを進
め、様々な国の人々が一気に流入し、その後も移民の増加を中心に人口増加目標を何とか達成しようと
してきた(図表2)。
(2) 90年代から技能移民を積極的に受入れ
1980年代は年によって波があるものの平均すると10万人前後の移民(永住権取得移民:Permanent
Migration)の流入が続いていたが、技能(Skill)を持つ移民の流入増よりもむしろ、オーストラリア
市民または永住者の家族(Family)呼び寄せのシェアが高かった(図表3)。しかし、90年代中頃以降
のハワード政権(96~2007年)でその政策は見直され、熟練労働者などの技能移民を積極的に受け入れ
るようになった。このため、技能移民の移民全体に占めるシェアは約3分の2に拡大し、年間平均20万
人弱の移民が実現して2018年に2,500万人の人口に結び付いた。オーストラリアの出生率は、2000年代
以降も2.0を下回る水準で低下傾向のまま推移しており、1990年代以降の人口増加の63.2%を移民に頼っ
ている形となっている。 2000年代に入ってからは、短期予定で流入した一時滞在移民(Temporary Mi-
gration) のうち、留学生の定着率上昇とニュージーランドからの移住者の定着なども、永住権取得移
民の増加ペースを上げる要因となってきた。2017年以降オーストラリアは移民受け入れをやや抑制気味
にしている(後述)。
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(図表2)オーストラリアの人口増加の要因分解
■海外からの移民(ネット)
(資料)Lowe.P. [2008]から引用
(注)総人口は、自然増加に海外移住を加算したもの。
(図表3) 80年代以降の移民の内訳
https://www.aph.gov.au/About_Parliament/Parliamentary_Departments/Parliamentary_Library/pubs/
rp/rpl819/Quick_Guides/PopulationStatistics
3.移民政策のフレームワークと現状
(1)定住を基礎として、近年は高技能者の流入を優遇
近年、オーストラリア政府は、国内の労働力の不足を満たすべく、受け入れるべき移民の流入の規模
(技術を持つ技能移民、その家族、人道支援移民をあわせた数)を毎年州別、職業別の労働人口のデー
タに基づき緻密に計算して決定しており、それに見合う人数を迎え入れようとしてきた。ただし、政策
的に招き入れようとした移民の目標数と実際の移民の人数には差異が生じている。こうした差異が生じ
ているのは、前述の通り、一時滞在移民(留学生などビザを取得して短期間滞在)がビザを永住権に変
更して、最終的に永住権移民となる傾向が高まっていることなどが原因である。
2016年7月〜17年6月の実際の移民流入人数は、20万人弱であるが、いわゆる技能移民は11万人(雇
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第6章 オーストラリアの移民政策の現と評価
用主がスポンサーとなるスキームによる移民が4.8万人、政府が設定する基準(ポイント制で移民とし
て受け入れるかの可否を判断)に則って入国した技能移民が6.6万人)、家族呼び寄せが6万人、人道支
援移民が2万人である(図表4)。
(図表4)移民の概観(2016〜2017年)
分類 小分類 人数(人) シエア(%)
雇用主スポンサー移民 雇用主指名移民 地方の雇用主がスポンサーとなる制度 38,063 10,198 18.6 5.0
技能移民 (ポイント制試験あり) 技術独立 技術指名制度(州等) 技術(地方) 42,422 23,765 1,670 20.7 11.6 0.8
ビジネスイノベーション&投資 7,260 3.5
卓越した能力 200 0.1
家族移民 配偶者 配偶者以外 47,825 11,799 23.3 5.8
人道支援(難民等) 21,968 10.7
合計 205,170 100
(資料)Department of Home Affairs資料より日本総合研究所作成
技能移民のポイント制は、例えば「技
術独立永住ビザ」(注2)とよばれる類
型の場合、年齢、英語の試験の点数、職
業経験、学歴、オーストラリアでの勉強
や職務経!^などについてそれぞれポイン
卜が付与される。例えば年齢は、25歳か
ら32歳が最も高い30点を付与され、44歳
までは15点が付与されるといった具合で
ある。それらを合計し、一定の基準(65
点)を超えなければ申請できない。この
ように、オーストラリアは、技能や英語
能力などで選択的に移民を受け入れてき
ているといえる。この点、OECD [2018]
も、OECD他国に比較すると、オースト
ラリアの移民は教育水準が高い、と分析
している(図表5)〇また、Lowe P.
[2018:も、オーストラリア現地の人と
の比較においても、移民の学歴が高いこ
とを指摘している。
近年では、外国人が雇用主を指名し、
雇用主が外国人の労働者のスポンサーと
(図表5)移民と現地人別にみた高学歴者比率(2015年)
也現地人 •移民|
(%)
(資料)OECD [2018]から引用
(筆者注)分子は大学、職業専門教育の修了者。分母は各国の生産年齢人口。
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なる制度(注3)での移民増加が著しい。この制度は、すでに雇用主とマッチングができている人を永
住させる制度といえる。これは90年代後半以降大量の技能移民を受け入れたことで、永住ビザと就職の
マッチングがうまくいかないことが統計上明確となり、移住者の失業率も高くなったという背景がある〇
そうした事態を受けて、政府としては、不足している仕事を雇用主スポンサー制度で受け入れることで、
必要な職務の労働力不足の充足を直接解決するよう方向転換したのである。そのため、政府としては、
現在は雇用主スポンサー制度を最優先しており、技能移民は政府が招待する特定の職業に限定するよう
になっている0
この他には、とくにオーストラリア国内のビジネスのイノベーションに貢献したり、投資を積極的に
行う移民(注4)や卓越した能力を持つ移民を特別に受け入れてきている。
2~3年の滞在を前提としてビザが発給される一時滞在移民(Temporary Migration)も規模が大き
く、2018年6月段階で155万人滞在している。うち学生が48万人、ニュージーランドからの移民(注5 )
が67万人である。そのほかにも、一時的に滞在する就労ビザやワーキングホリデービザ(注6)などで
入国する一時的移民も存在する。とくにここ5年の伸びはその半数が海外からの留学生で説明できるが、
これは外国人学生をオーストラリアに貢献してもらえる重要な人材として、就労、永住への道を2011年
より整備したことも影響を与えている。
(2)多様化するなか、インドや中国などの出身者が増加
現状でもオーストラリアの移民の最大出身勢力はイギリスであるが、近年移民の多くはアジアの国々
からきている。現在、移民の数で多いのは、イギリスを除けば、中国、インド、フィリピンなどである
が、出身国は非常に多様であり、まさに多文化の国となっている。アジアで生まれた人々の人口比率が
2016年段階で初めて欧州(イギリス、イタリア、ドイツなど)で生まれた人々の比率を上回った(図表
6)〇インド人の増加が著しいが、これはIT技術者が多くなっていることを反映している。
(百万人)
3.0
(図表6)オーストラリアの移民出身国トッフ5の推移
(百万人)
3.0
1.5
1.0
一 n^H;’|一
ii一
iwwwB
1.5
1.0
•イギリス
□ニュージーランド
囲中国
囲インド
目フィリピン
ロドイツ
Hギリシャ
妻イタリア
ロオランダ
□ポーランド
0スウェーデンとノルウェー
徳ベトナム
□ユーゴスラビア
0
190111 21 33 47 54 61 66 71 76 81 86 91
(資料)The Treasury / Department of Home Affairs [2018]から引用
0
96 2001 2006 2011 2016
(年)
四 WWWWH一
106 J RI レビュー 2019 Vol.10, No.71
第6章 オーストラリアの移民政策の現と評価
近年は、図表7のトップ10以外にもインドネシア、韓国、シンガポール、タイなどのアジア各国から
の移民が増加している。
なお一時滞在移民にカウントされる留学生については、中国人、インド人などのアジア系が多く、ア
ジァ圏から近い英語圏であることから人気を集めている。短期労働者も景気循環に依存するが、増加傾
向にある。
(図表7)移民の出身国トップ10の変遷(1996年一2016年)
人口 シェア
1 イギリス&アイルランド 1,218 6.7
2 ーユーンーフンド 312 1.7
3 イタリア 250 1.4
4 ベトナム 159 0.9
5 ギリシャ 138 0.8
6 ドイツ 122 0.7
7 中国 119 0.7
8 フィリピン 105 0.6
9 オランダ 96 0.5
10 マレーシア 83 0.5
11 インド 80 0.4
(資料)The Treasury / Department of Home Affairs [2018]より日本総合研究所作成
(千人、%)
人口 シェア
イギリス&アイルランド 1,284 5.3
ーユージーフンド 607 2.5
中国 526 2.2
インド 469 1.9
フィリピン 246 1.0
ベトナム 237 1.0
イタリア 195 0.8
南アフリカ 181 0.8
マレーシア 166 0.7
ドイツ 124 0.5
⑶ 移民は都市部に集中し、インフラ不足も
オーストラリアの移民はその8割以上が、職業につける機会の多い都市部に集中している。地方に定
着してもらう意図を持った受け入れ政策もあるカヾ、他のオーストラリア人と同様、どうしても永住権を
持っと都市部に移動する傾向がある。人口に占める移民のシェアは2016年時点でシドニー、パース、メ
ルボルンなどで36-39%と高く、そのほかにもダーウィン、ブリスベン、キャンベラなど都市が移民を
多く集め、20%以上のシェアとなっている。とくにここ20年の増加が著しいのは、シドニー、パース、
メルボルンであり、これらの都市は、人口増加の半分以上が移民となっている。
⑷共生のために政府や州が様々な施策を実施
オーストラリアは文化的な多様性を尊重しつつ、社会秩序の安定と国家発展を目指す多文化主義を推
進してきたため、従来より移民に対して様々な支援プログラムを実施している。
政府は、移民のための英語教育プログラム、新しく入ってきた移民向けの住宅、オリエンテーション、
通訳などのサービス•プログラム、定住支援団体助成金制度などを提供している(梅田久枝[2008])〇
さらに、地方自治体が、地域コミュニティの結束を高めるために、サービス提供、情報提供、移民の
能力向上策などにおいて重要な役割を担っている。実際、各市などのレベルで、自治体自らがコミュニ
ティに関与し、州の各機関、NGOなどと連携、協働しながら、新規移民のサポートや定住支援などを
行い、社会的な結束力の強化につとめており、その成果について定期的に評価するなどの取組に尽力し
ている(自治体国際化協会[2018])。
J RI レビュー 2019 Vol.10, No.71107
(注2)職種としてはソフトウェア関連のエンジニア、会計士、看護師、プログラマー等。
(注3)雇用主スポンサー制度には、図表3の通り、外国人が雇用主を指名する制度と地方における雇用主を指名する制度がある。
(注4)オーストラリアへの資産移転、投資をすることを義務付けられるなど、富裕層向けの制度。主に中国人が取得している。
(注5)ニュージーランドとの協定により、ニュージーランド国民は自由にオーストラリアでの就労、滞在が認められている。
(注6)二国間協定で一定期間若者の就労を認める制度。20カ国以上が協定を結んでいる。
4 .移民政策の評価
(1)経済成長、高齢化のスピード抑制に大いに貢献
それでは、オーストラリアの移民政策は、現在どのように評価されているのであろうか。
また、直近の動向をみると、全体としては、移民受け入れは抑制気味に変化しているようにみえるが、
それはなぜだろうか。
全体としては、オーストラリアは移民によって、「経済的便益」を最大化しようと受け入れ策を推進
してきたカヾ、それは全体としてはうまくいっているといえるだろう。
まず、移民により効果があった第1の点として、労働需要の充足があげられる。90年代の段階では、
IT技術者などは不足していたが、オーストラリアでは不足する職種をデータ分析して、その分野の技
術移民を受け入れる体制をとっているため、ほぼ労働力不足が充足してきている。その意味では労働力
不足については、スキルなどの面で必要な移民を優先して受け入れることにある程度成功している。才
ーストラリアでは最低賃金が時給で18.9オーストラリアドルと、日本の最低賃金の874円(2018年10月)
と比較すると、倍近い水準となっている。物価は日本などと比較すると高いが、それなりに、高い賃金
が約束されており、オーストラリアは魅力的な移住地として多くの労働者を集めてきたといえるだろう。
最近では、むしろ地方でオーストラリア人の失業者が出るようになり、こうしたことが最近移民を抑制
気味に転換した背景となっている。
第2の効果は、人口増加により、経済成長を実現している点である。資源国であるなど、オーストラ
リアはもともと恵まれた環境にあることもあり、90年代以降深刻な景気後退を経験することなく、経済
が順調に推移している。2017年9月にはオランダの記録を超えて世界最長26年連続経済成長をしている
国となった。この持続的な経済成長が近年の技術移民の増加によってもたらされているとの様々な分析
が存在している。Treasury/Department of Home Affairsのレポートでは、移民と経済成長との関係に
ついて、技術移民の増加が労働参加率と生産性向上に結びついていること、そして人種の多様性がイノ
ベーションに結びついていること、さらに需要サイドからみても、人口増加そのものが、消費の拡大に
寄与し、さらなる雇用を生むという好循環が生まれていることも指摘している。さらに移民は、オース
トラリア政府の財政に関しても税!!又増というかたちでも貢献していると評価している。このように、オ
ーストラリアの移民政策は、単なる労働力不足「対策」というよりは、「長期的な人口増加政策」であ
り、三つのP (participation, productivity, population)を高めたことにより、経済成長を実現してきた
といえよう。
第3の効果は、高齢化を抑制している点である。移民の多くは年齢層が若い(注7)。LoweP. [2018]
108 J RI レビュー 2019 Vol.10, No.71
第6章 オーストラリアの移民政策の現と評価
によれば、オーストラリア人の年齢の中央値は2018年時点37歳である。新たな移民の年齢の中央値は20
歳から25歳であり、移民が増えた結果、2002年時点で予測した2040年の中央値は45歳であったのが、
2012年時点では40歳にまで低下している、と指摘している。この結果、出生率も他国と比較すると高め
であり、高齢化は他の先進国と比較しても非常に緩やかで、政府財政へのプレッシャーも低下、長期的
な経済成長を持続させ得る結果となっている。
とはいっても、オーストラリアでも緩やかに高齢化が進んでおり、そのために女性や55歳以上の高齢
の労働者の労働参加率も著しく上昇している。この背景として、Lowe P. [2018]は、高齢者の健康の
改善、高齢者の身体に勤務の負担があまりかからないサービス産業の発展、年金受給年齢の引き上げ、
高齢の女性でも働きやすいパートタイムの仕事の増加、などを指摘している。
⑵インフラ不足問題に加え、共生に対する懸念も存在
一方で、近年の人口急増により都市部インフラのキャパシティー不足問題が深刻となってきた。交通
機関の混雑、住宅などの不足、環境汚染の進行などが指摘されているほか、この結果として、都市部に
おいて住宅価格の上昇を招いたことが指摘されている。
前述の通り、地方に最低2年は定住することを前提に移民として入ってきた人たちが、その条件を守
らずに都市部に移動してしまうケースが多い。
さらに、社会としての共生にも課題がある。国全体としては、オーストラリア人は移民に対して約6
割がポジティブな意見を持っている。2016年にScanlon Foundationによる調査では移民流入が多すぎる
と答えた国民は34%とのことであり、この水準は過年度と比較してもそれほど高い数字にはなっておら
ず、現状でも全体としては多文化主義への支持も高い。しかし、イスラム教徒などの宗教の違い、また
は中国人など大きなプレゼンスを占めるようになった人種グループの存在、英語がしゃべれない人たち
の増加に基づき、差別の問題等が台頭しており、共生に対する懸念がとくに地方都市などで拡大してい
るのも事実といえよう。
多文化主義を目指すオーストラリアでは、2007年より永住権を得て一定の年数(現在は4年間)を経
た移民の市民権取得(選挙権等が認められる)のために、市民権テストを実施するようになった(注
8)〇これは、すべてのオーストラリア人にとって有益な政策的枠組みとしての多文化主義である必要
がある、というオーストラリア政府の基本方針(1989年発表)に基づき、多文化主義が包摂的な側面を
強調する方向に変化し、市民権テストでそうした政策が「社会統合を目指す方向へ進んだ」(梅田
[2008])ことを示している。市民権テストでは、英語力に加えて、良きオーストラリア市民になりえる
かどうかをテストするため、オーストラリアの歴史や社会の試験、そしてオーストラリアの基本的価値
(憲法や法制度、議会制民主主義、宗教と言論の自由、国民言語としての英語、男女平等)を受け入れ
る義務があることを確認するための英語の試験やインタビューが課されてきた。
こうしたなか、2017年よりオーストラリア政府は移民の要件などを少しずつ厳格化の方向で変更させ
始めた。具体的には、2017年4月のターンブル首相政権において、一時滞在就労ビザを廃止し、より条
件を厳しくした就労ビザを導入することを発表している。この結果、就労ビザからの永住への道は、オ
ーストラリアにとっての重要職業に就くことのみに狭められた。このため、外国人学生に就労を促す政
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策も軌道修正を迫られている。さらに、同月、前述の市民権ビザの取得について、英語だけの試験の追
加、試験内容の変更、不合格の回数制限など、英語力と共通価値の理解の両面でより市民権テストを厳
格化することを公表している。これらは、最近移民のプレゼンスが高まってきたことなどに対する有権
者の懸念にこたえる必要があるという政治的配慮もあると思われる。
(注7)オーストラリアでは、家族移民呼び寄せの際も、通常の両親呼び寄せはビザの待ち時間が非常に長くかかるほか、待ち時間
の比較的短い拠出制の両親呼び寄せビザは、社会保障費負担を見越し、他のビザ申請に比べて高額の拠出金が必要となってい
る(井出[2014])。
(注8)永住権を保有していても、出入国については5年ごとにビザを更新する必要があり、そのたびに費用もかかる。市民権を取
得すれば大学の教育費用が軽減されるなどのメリットもある。一方で、日本国籍については、二重国籍は許容されなくなるな
どのデメリットもある。
5.移民政策の今後の課題と日本への示唆
(1) 経済的利益の確認と共生の進展
オーストラリア政府スタッフに対するヒアリングの際、移民政策の今後の課題は主に2点あると、指
摘していた。
第1は、経済的便益の最大化である。この目的に沿い、ポイント制の中身の修正やグローバルにみて
優秀な人材を受け入れる計画などが課題となると考えている。このため、オーストラリア経済にとって
メリットのある優秀な人材を移民として受け入れる方向に、今後政策が一層明確化していくと考えられ
る〇
第2に、移民に対する国民の信頼と社会的結束力の深化である。英語教育の充実や、インフラ問題へ
の対応、国民の多様性により配慮していくことが重要と考えている。オーストラリア政府は、2017年7
月に多文化国家についての公式声明を発表しているが、社会的結束力のある地域コミュニティ構築の継
続を目指すことが改めて述べられている。
また同時に、様々な新規の制度が導入され、複雑化してきている永久権取得ビザの仕組みをよりわか
りやすいものに変えていくことも課題であると指摘していた。
また、2018年、OECDがオーストラリアの移民政策をサーベイしたうえでの勧告として、①移民候補
の選択基準の改善、②一時滞在移民に対する管理の改善、③地域定住を前提として入った移民の移動に
ついての管理の改善、④移民システムの品位の向上とコンプライアンスの改善、⑤将来の改善に向けた
データの取得と分析などを指摘している(OECD [2018])。
(2) 日本への示唆
最後に、日本の外国人労働者の拡大政策と比較すると、オーストラリアの移民政策は以下のような特
徴を持つといえよう。
①移民政策を、単なる労働力不足対策というより、明確に人口増加による成長政策と位置付けている。
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第6章 オーストラリアの移民政策の現と評価
② オーストラリア国籍、永住者で賄えない不足している職業を、職種ごとに細かく定期的にデータ化し、
この不足職業を移民によって受け入れるという方策をとり、労働市場のバランスを確保している。こ
の結果、高度人材から熟練労働者まで多種多様な移民を受け入れている。低賃金となりがちな非熟練
労働者を中心に導入しょうとしている日本とは異なる。
③ 短期間の就労を前提とするのではなく、定住を基本的な考え方として呼び寄せているので、技能を持
つ外国人を、雇用主をスポンサーとする制度やポイント制などにより慎重に選択している。さらに、
政治的参加も可能となる市民権取得はさらに厳格なテストを課している。
④ 特定の国からの受け入れというよりも、イノベーション発揮のためにも、多様な国から人材を受け入
れ、その背景にかかわらず有能な人材はその技能を発展させられるよう配慮している。
⑤ 言語や文化を習得した若い外国人学生を、国に貢献してもらえる高度人材と位置付け、就労、永住を
促すスキームを重視している。
⑥ これらの結果、人口増加、労働参加、生産性向上により、経済成長の実現という意味で、全体として
はうまくいっている。ただし、そうした政策を採用していても、いろいろな課題が起こってきている。
⑦ 移民政策のパフォーマンスを豊富なデータやサーベイにより評価する、政策評価の仕組みがオースト
ラリアの移民受け入れのシステム・デザインのなかに埋め込まれている。3~6力月ごとに見直しが
あり、労働市場や経済の変化に合わせて、政策を調整したり、改革したりすることが可能となってい
る。法改正のスピードが非常に早い点も特徴である。
まさに、日本とは正反対の定住を基盤とする「移民政策」をとっているオーストラリアであるが、多
文化共生を考えていく際、オーストラリアのような移民国家と日本のような単一民族国家では、異文化
に対する許容度が大きく異なる。本来日本より外国人受け入れの難易度はかなり低いとみられるオース
トラリアでも、きわめて注意深い開国政策をとり、検証を重ねながら微妙なバランスをとって政策を運
営していることがわかる。日本も外国人労働者が長期定住する場合に、どのように共生のための環境整
備をしていくのか、人口減少時代にどうやって外国人労働者を入れながら経済を持続的に成長していく
のか、という外国人に対する長期的政策に正面から向き合い、検討することが求められている。その際、
オーストラリアの慎重に練られた開国政策は、日本の今後の議論の参考になる点が多いと思われる。
(2019. 8. 30)
主要参考文献
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• Lowe P. [2018]. 14 Demographic Change and Recent Monetary Policy” Federal Reserve Bank, Ad-
dress to Anika Foundation luncheon, 8 August 2018.
• OECD [2018]. *’Recruiting Immigrant Workers”.
•井出和貴子[2014].「オーストラリア:多文化主義国家の移民政策」大和総研レポート
•梅田久枝[2008]•「オーストラリアの移民政策」『人口減少社会の外国人問題 総合調査書』所収、
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国立国会図書館
自治体国際化協会[2018]•「オーストラリア地方自治体における多文化主義政策の実践」自治体国際
化協会、シドニー事務所
ジョージ・ボージャス[2017]•『移民の政治経済学』白水社
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