米下院、党利優先で空転 初の議長解任で経済・安保に影
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『2023年10月4日 15:00
【ワシントン=坂口幸裕】米連邦議会下院は3日、野党・共和党トップのマッカーシー議長の解任動議を可決した。史上初となる米下院議長の解任劇は、2024年大統領選をにらむ与野党が党利を優先して内向きに傾く米政治を映す。議会の空転は世界の経済や安全保障にも影を落とす。
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下院議長は大統領の継承順位が副大統領に次ぐ2位の要職だ。マッカーシー氏の解任動議を巡る採決は賛成が216、反対が210、欠席が7だった。米メディアによると、下院で多数派を握る共和から造反して賛成に回った8人はいずれも保守強硬派の「フリーダム・コーカス(自由議連)」に所属する。
動議を提出したのはマッカーシー氏と同じ共和に所属するマット・ゲーツ氏だった。米政府閉鎖を回避するために成立させた「つなぎ予算」を巡り、同氏ら共和の保守強硬派が要求した歳出削減などが受け入れられず、与党・民主党と協力したことを問題視した。
マッカーシー氏は1月に議長に就任する際、反対派を取り込むため1人でも解任動議を提出できるよう条件を緩和した。フリーダム・コーカスは20人ほどの少数派ながら、民主と議席数が拮抗する下院で影響力を強めた。民主との落としどころを探るマッカーシー氏の手法を拒否する保守強硬派が主導権を握った結果だった。
米メディアによると、下院は新議長を選ぶ採決を11日にも実施する方向で調整している。後任には下院共和ナンバー2のスカリス院内総務やナンバー3のエマー院内幹事らが浮上するものの、党をまとめる指導力などで衆目が一致する候補は見当たらない。
マッカーシー氏は解任決定後の記者会見で、民主との結託によるつなぎ予算成立について「自分が本当に正しいと信じることのために職を失うなら心穏やかでいられる」と語った。「米国民は私の決断が正しかったと信じていると思う」と強調した。次の議長選には出馬しないと明言した。
民主はマッカーシー氏を切り捨てた。下院民主トップのジェフリーズ院内総務は所属議員への書簡で「共和が(トランプ前大統領を支持する)MAGA過激主義と決別しないことを踏まえ、解任動議に賛成する」と記した。
つなぎ予算から除外されたウクライナ支援の予算案を実現させる代わりに、マッカーシー氏が議長職にとどまるよう民主が協力する交渉をしているとの見方も取り沙汰されたが、幻に終わった。
民主のバイデン大統領はトランプ前大統領との対決姿勢を前面に出し、24年大統領選での再選をめざす。マッカーシー氏は現時点で共和の最有力候補である前大統領との関係を維持し、バイデン氏の次男が関わった疑惑を巡るバイデン氏の弾劾調査を9月に指示した。民主にはマッカーシー氏への反発が根強い。
下院の混迷は米国の政策停滞に波及する。9月末に成立したつなぎ予算は予算執行を11月中旬まで継続できる時間的猶予を得たとはいえ、その後は白紙だ。次の議長は更迭される懸念から再び民主と協力する選択をしにくくなった。共和の保守強硬派を納得させる案を示せなければ、政府閉鎖が現実味を帯びる。
9月後半には政府閉鎖への警戒感が長期金利の上昇を招いた。政治の混迷は米国債の信用力にも悪影響を与える。
米政府が急ぐ追加のウクライナ支援にも影響が出かねない。すでに確保している予算は底を突きつつあり、米政府高官は残り2カ月ほどで枯渇すると危機感を示す。8月にウクライナ支援へ240億ドル(約3兆6000億円)を連邦議会に要請したが、成立のメドは立たない。
米国防総省が9月末に議会に送った書簡によると、米軍の武器在庫からウクライナに供与できる259億ドルの予算枠が、足元で16億ドルしか残っていない。
米ワシントン・ポスト紙とABCテレビが9月中旬に実施した世論調査によると、米国民の41%が米国のウクライナ支援を「過剰」と回答した。侵攻が始まった直後の22年4月は14%、今年2月は33%だった。共和の保守強硬派が巨額予算継続に消極的なのは、外国でなく国内の経済対策に使うべきだと主張する支持層の存在がある。
大統領選をにらむ米国の政治対立は国際社会を揺さぶるリスクになっている。
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前嶋和弘
上智大学総合グローバル学部 教授
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ひとこと解説 マッカ―シー議長の解任で「なぜ民主党が賛成したのか」というご質問を何度もいただきました。次のように考えます。
1)リーダーを決める人事投票で対立党のリーダーを支持することは分極化の時代ではやはりありえなかった
2)マッカーシーを守っても「民主党側に支えられた下院議長」となり、自由議連はより強硬な動きをし、議事がさらに混迷
3)すでに下院共和党は数的にキャスティングボートを握る自由議連に乗っ取られており、誰が議長になっても何も変わらない。止めるのは上院
4)「下院共和党=何をするかわからない保守強硬」というイメージを固めることができるのは民主党側にプラス
3が大きいかなと考えています
2023年10月4日 21:11 (2023年10月4日 21:18更新)
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中林美恵子
早稲田大学 教授
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ひとこと解説 今さらながら、今年1月の議長選の最中に「次の議長は誰だろう」という議論がワシントンの一部に既に存在したことを思い出した。早くもそれが起こっている。
確かに、共和党はたった5議席の造反で一体になれないリスクを構造的に抱えていた。
しかし穏健派のMace下院議員さえ議長解任に賛成した8人に含まれた。これは、マッカーシー下院議長の人間力では、この難局を乗り越えるのに不十分だったということだろう。
必ずしもGaetz下院議員一人だけが原因とは言い切れない。トランプ前大統領が政府閉鎖を支持するような発言をしたことも強硬派を勇気づけた可能性がある。今後の議長選びは、人間力が鍵だろう。
2023年10月4日 16:24 (2023年10月4日 18:15更新)
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