アンコンシャスな処理をする「脳の仕組み」

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アンコンシャスな処理をする「脳の仕組み」
https://newspicks.com/topics/bias-and-management/posts/2

『2022年6月12日
全体に公開
28

最新研究とデータで語る経営と「バイアス」の話

佐々木 裕子

こんにちは。佐々木裕子です。
2回目の今日は、最近の神経科学が解明した、「脳のアンコンシャスな働き」について、
取り上げてみたいと思います。

「新しい同僚」

ではここで、ちょっとシミュレーションしてみたいと思います。

来月から、あなたの部署に「新しい同僚」がやってくることになりました。
どんな人でしょうね。興味ありますよね(笑)。

たまたま写真を入手したので、ちょっと一緒に見てみましょう。

さて、どんな印象ですか? 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

あっ、ごめんなさい!この方は別の部署に配属される方でした・・・(汗)
ちょっと写真を取り違えてしまったみたい、、、すみませんm(__)m。

改めて、こちらが、来月からあなたの同僚になられる方の写真です!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ちなみに、8月にはもう一人あなたの同僚が増えるそうですよ。
こちらの方です。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
いやいや、現実世界ではそんなに沢山、急に同僚が増えることないよ、という声が聞こえてきそうですが(笑)

ちょっとしたシミュレーションにお付き合いいただきありがとうございました!

さて、皆さんどうだったでしょうか。それぞれの写真を見た時、ご自身はどんな直感的な反応を起こされたでしょう? 瞬間的にどんなイメージや連想が沸いたでしょうか?

もし可能でしたら、そのときの体験記憶や感覚を少し思い起こしながら、
さっき皆さんの脳の中ではどんな処理が行われていたのか、いくつかの神経科学の論文を参照しながら探求してみたいと思います。

Us vs Them

2003年、ある米国の研究者が、30人強の「白人の男性学生」に20枚の写真を瞬時に仕分けするタスク行っている様子をfMRIを使って脳波調査しました。写真には、白人男性、白人女性、黒人男性、黒人女性が混ざっていますが、画面上に写真は一瞬しか出ません。学生たちは瞬時に人種またはジェンダーごとに写真を分けていきます。

さて、このとき脳はどんな処理をしていたでしょうか。観測された脳波の動きを 1ms (1ミリセカンド=0,001秒)ごとに刻んでみてみましょう。

資料:Race and Gender on the Brain: Electrocortical Measures of Attention to the Race and Gender of Multiply Categorizable Individual(Ito&Urland, 2003)

見て頂くとわかる通り、脳波はかなり早い段階(100msから200msでのところ)から、
被験者(白人男性)と異なる人種(=黒人)や性別(=女性)の写真に対し、大きく振れていることが分かります。 

 これは、自分と「異なる人種」や「異なる属性」に対し「潜在的な脅威」であるかもしれない、と脳が反応している証左なのだそうです。

 実際、私たちの脳の中で行われる最も原始的かつ無意識な判断が、「Us vs Them」、
つまり「仲間か否か?」の峻別から始まっている、ということは、様々な脳科学研究で明らかになってきています。

脳のオートパイロット機能(身を守る×ダウンしない)

脳が人を認知するとき、それぞれの「個体」情報に一から着目するのではなく、瞬時に「仲間か否か」「どの社会グループの人間か」を判断するのは、

1) そもそも脳の働きが、「外部の脅威から身を守る」ことを最優先にするように作られている

2) 脳が情報処理する際には大量のエネルギーを必要とするため、なるべく「省力モード」で的確な情報処理を行えるよう、可能な限り無意識下でパターン認識するエコシステムができている

からです。

 実のところ、脳の中には1秒に1100万件の情報が入ってきていますが、実際に「認識」して情報処理されているのは40件に満たないとのこと。

 それ以外の情報はすべて、「概念」や「社会グループ」ごとに無意識に連想ゲームされ、処理されている、というわけです。

  (例えば、黒人→自分とは違うグループ(仲間ではない)→ちょっと警戒すべし(直感的な好き嫌い)→ 黒人=怖い/力が強い/言葉の壁がある(ステレオタイプ情報)→しばらく近づかない、という具合に・・・)

「直感(偏見)システム」と「ステレオタイプシステム」

 ちなみに、最近の脳科学研究では、脳内のそれぞれのどの部位が、どんなプロセスで社会的な偏見やステレオタイプを引き起こすのかが明らかになってきています。

各社会グループに対して最も原始的で素早い「脅威か否か=仲間か敵か」判断をするのは、扁桃体(Amygdala)。

「条件反応」を起こすのは線条体(Straitum)。

「好き嫌い」的直感的な感情反応を起こすのは島皮質(Insula)。

それらが、共感性を判断する前頭前皮質(mPFC)や感情判断をする眼窩前頭皮質(OFC)に伝えられ、最初の印象での「スキキライ」や「偏見」というものを引き起こします。
資料:The Neuroscience of Prejudice and Stereotyping(Amodio, 2014)

 一方、各社会グループに関する様々な「ステレオタイプバイアス」は、また異なるシステムによって形成されます。  

 各社会グループに対する意味情報・エピソード情報(例えば、男性は仕事、女性は家庭等)を蓄積するのは、側頭葉(Lateral temporal lobe)。その情報が前頭前皮質(mPFC)に伝えられることで「印象」が形成され、最終的には下前頭回(IFG)が各グループに対するステレオタイプイメージや連想をアクティベートしていきます。

資料:The Neuroscience of Prejudice and Stereotyping(Amodio, 2014)

先ほど皆さんの頭の中で(おそらく)起きていたこと

という訳で、これまでに蓄積された神経科学研究結果を総括すると、
先ほど皆さんが3枚の写真を見た直後に脳内で起きていたことは、まさに最新の研究論文に載っているとおり、おそらくこんな感じのプロセスだったろうと思います。

Step1 「どの社会グループ(=属性)の人間か」の想定開始(120ms時点)

Step2  その社会グループが「【同胞】(in group)か、【それ以外】か(outgroup)」を判断(170-200ms時点)

Step3  該当社会グループに関する直感(親密になる/距離を多く)を選択(250ms時点)

Step4  該当する社会グループを確定(500ms時点)

Step 5 該当する社会グループを評価 (その社会グループに関するステレオタイプなパターン認識開始)(550ms時点)

資料:The Social Neuroscience of Prejudice (David M. Amodio他, 2021)ー脳波の動きは、極性を示す頭文字(P=Postive、N=Negative)に、典型的な潜時のミリ秒をつけて命名される(N100、P200等)ことが多い

脳があれば、「バイアス」がある

つまり、脳は、基本的に「常時バイアスだらけの処理」をしている訳ですね。

ですから、「私にはバイアスなんかない」という人は、「脳の機能の殆どの部分が大きく損傷している」と宣言しているのに近い(笑)

でも、このシステムがなければ、潜在的な脅威やリスクに無頓着になってしまうかもしれないし、大量の情報処理で脳がパンクし、生命維持に危険が生じてしまうリスクもあるわけですから、こうした脳のオートパイロット機能自体は、私たちが生きていくうえで極めて高度かつ重要な機能だといえます。

だからこそ、私たち人間は、「誰しも無意識のバイアスだらけである」ということをちゃんと自覚して、うまく付き合い、コントロールしていかなければならないのだと思います。

次回は、これほど「多様性の時代」と言われ続けていながら、私たちがどれほどまでに「自分と似たもの=同質が好き(Us vs Them)」なのか、その実態と功罪を最新研究とデータで紐解いてみたいと思います。

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