謎のプロジェクト「Q*」 OpenAI、進む万能AI研究

謎のプロジェクト「Q*」 OpenAI、進む万能AI研究
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN289UJ0Y3A121C2000000/

『対話型の生成AI(人工知能)「Chat(チャット)GPT」の公開から30日で1年を迎えた。巧みに言語を操る生成AIの登場は世界に衝撃を与え、巨大市場に成長しつつある。開発元の米オープンAIでは人間をしのぐ「万能AI」の実現に向け、謎のプロジェクトが進むとされる。急速に進化するテクノロジーを制御するすべは、なお手探りだ。
AIの発展は「未知の領域」に

オープンAIの研究者数人が、人類を脅かす可能性…

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中竹竜二のアバター
中竹竜二
チームボックス代表取締役/元早稲田大学ラグビー部監督

別の視点

AIの急速な進化は、ビジネス界に留まらず、プロスポーツやアマチュアスポーツにも大きな影響を与える。プロスポーツでは、選手の個人情報のプライバシーとセキュリティが主要な課題であり、AIによるデータ分析や戦略立案が限られたチームにしか利用できない場合、競技の公平性が損なわれるリスクがある。アマチュアスポーツにおいても、AI技術へのアクセス格差が選手間で不平等を生む可能性があり、AIへの過度な依存は選手の自己学習能力や判断力の低下を招く。特にアマチュアでは専門的な監視の不足が倫理的な問題を引き起こす可能性も。これらのに対処するため、AI技術の適切な管理と倫理的な利用のためのガイドラインは不可欠だ。』

『オープンAIの研究者数人が、人類を脅かす可能性のある強力なAIの発見について警告する書簡を最高意思決定機関である理事会(取締役会に相当)に送っていた――。

オープンAIのサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)が11月17日に同社の理事会によって突如解任された「お家騒動」。ロイター通信は関係者の話として、「Q*(キュースター)」と呼ばれる研究プロジェクトの存在が背景にあったと報じた。

Q*の実態はベールに包まれているが、ロイターによるとAIの数学的な思考能力の向上を目的にしているとみられる。この情報を巡り、AI研究者らの間ではさまざまな観測や議論が浮上している。

AI研究の第一人者であるモントリオール大学のヨシュア・ベンジオ教授は日本経済新聞の取材に対し、「Q*は人間との大きな差だったAIの論理的思考や数学的能力を飛躍させた可能性があるといわれている。一連の報道が事実であれば、予想よりも『AGI』の実現が近づいているはずだ」と指摘した。

AGIは「Artificial General Intelligence」の略称で、日本語では「汎用人工知能」と訳される。2015年に非営利組織として発足したオープンAIはかねてAGIを「人類の利益」のために構築するという理念を掲げてきた。

従来のAIが「囲碁を打つ」「人間の顔を見分ける」といった特定の情報処理を担う特化型であったのに対し、AGIは幅広い作業に対応できる。様々なタスクをこなせる人間の頭脳に近く、自律的に学習したり問題を解決したりできるようになるともいわれる。

チャットGPTはすでに特化型AIの枠を超え、一定の汎用性を獲得しつつある。これまでAIが苦手としてきた論理的思考などを補う技術を確立できれば、AGIの実現は一段と現実味を帯びる。アルトマン氏は解任騒動が起きる直前の16日の講演で「(AIの発展は)未知の領域に入った。能力は誰にも予想がつかないほど進化するだろう」と予言している。

AGIは人間が担ってきた知的作業を担い、劇的な生産性向上をもたらす可能性がある。一方で賢すぎるAIの進化に歯止めをかけられなくなるシナリオも想定されている。アルトマン氏自身も「人間の知性を超えるAIはおそらく人類の歴史の中で最も重要で恐ろしいプロジェクトだ」と認める。

AGIが自己保存という目標を持ち始め、人間と対立すれば、文明の崩壊を招くとの主張もある。オープンAIと提携する米マイクロソフトのサティア・ナデラCEOもAGIの開発にあたっては「リスクが軽減されるように企業として懸命に取り組みたい」と話す。

創業メンバーは理事を退任

解任から4日後にアルトマン氏がCEOに復帰したオープンAIは、経営管理体制を刷新した。現時点で判明している理事会の顔ぶれはローレンス・サマーズ元米財務長官、米セールスフォース元共同CEOのブレット・テイラー氏、質問サイト運営の米クォーラでCEOを務めるアダム・ディアンジェロ氏の3人だ。

一連の騒動を通じて、アルトマン氏を含むすべての創業メンバーが理事会から外れた。米メディアは理事会の定数が9人に増える見通しだと報じている。AI開発の安全性を重視する社内勢力は弱まり、AGIの実現に向けた研究が加速するとの見方が多い。

チャットGPTの登場からわずか1年で生成AIの関連市場は急拡大した。独スタティスタによれば30年には23年の4倍超の2070億ドル(約30兆円)まで膨らむ見通しだ。グーグルやメタ、アマゾン・ドット・コムなど米テクノロジー大手が本腰を入れて技術やサービスを競う主戦場となり、経済や社会への影響度も増す。

その手綱さばきを誰がどう担うかは大きな焦点だ。欧州連合(EU)は生成AIも含めた包括的な規制の導入に動き、米国でもバイデン大統領がAIの安全性を確保するため大統領令を発令した。アルトマン氏は独立した監督機関の設置や免許制の導入を提唱する。リスクを抑えながらどう先端技術の恩恵を引き出すか。人類の知恵が問われている。

(シリコンバレー=渡辺直樹、AI量子エディター 生川暁)

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