欧州、パレスチナ移民におびえ 極右台頭で分断に拍車

欧州、パレスチナ移民におびえ 極右台頭で分断に拍車
編集委員 下田敏
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD178JU0X11C23A1000000/

 ※ 『EUは経済的な支援と引き換えにガザと国境を接するエジプトに対応を求めているかにみえる。そのエジプトも、ヨルダン川西岸に隣接するヨルダンも、パレスチナ人の受け入れは拒んでいる。』…。

 ※ 近隣諸国も拒んでいるのに、さらに遠い「欧州諸国」に受け入れを強制するのは、難しいだろう…。

 ※ 「多文化共生」論者の合言葉は、「インクルージョン(包摂)」なんだが、「余裕」があればこその話し…、ということが良く分かるな…。

 ※ 誰だって、自分の「慣れ親しんだ文化・風俗・習慣」に包まれて、精神的に安穏に暮らしたいものなんだ…。

『欧州がパレスチナからの移民流入に身構える。イスラム教徒のさらなる流入は反移民や治安悪化など国内問題につながりかねない。市民の関心はインフレやエネルギーから移民問題へと変わりつつあり、オランダでは反イスラムの極右政党が躍進し、アイルランドでは移民排斥を訴えるデモ隊と警官隊が衝突した。
不法越境は8月から急増

東地中海を渡って欧州連合(EU)に不法越境するパレスチナ人が急増している。欧州対外国境管理…

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『東地中海を渡って欧州連合(EU)に不法越境するパレスチナ人が急増している。欧州対外国境管理協力機関(フロンテックス)の集計では今年に入って月100〜300人だった越境者が7月に600人近くに増え、8〜10月は一気に月1100〜1200人に膨らんだ。

イスラム組織ハマスによるイスラエルへのテロ攻撃は10月7日に起きた。それ以前からパレスチナ人の不法越境が増えているのは、パレスチナ自治区のヨルダン川西岸でイスラエルとパレスチナの暴力の応酬が激しくなっていたため。国連は7月に「この20年近くで最も集中的なイスラエルの作戦が示すようにヨルダン川西岸の治安は著しく悪化している」と安全保障理事会に報告している。

イスラエルとハマスの衝突はその比ではない。欧州への新たな移民の波を引き起こす可能性がある。国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)によると、中東戦争で家を失い、キャンプ生活を送るパレスチナ難民は590万人を超える。178万人はガザ、113万人はヨルダン川西岸にいるが、レバノンやシリアにもそれぞれ60万〜70万人の難民がいる。

ガザの住民のほとんどは退避さえできていない(戦闘休止中に国連の配給を求めて集まった人々)=ロイター

10月7日以降にパレスチナを離れた人々のほとんどはまだEUにたどり着けていないだろう。パレスチナからの移民の約90%は東地中海を船で密航し、EUに加盟するギリシャの島々やキプロスを目指す。ハマスが実効支配するガザの住民は国境封鎖で退避さえできていない。

ギリシャはすでに中東やアジアから流れ込む移民で手いっぱいだ。移民省によると、1〜10月に到着した移民は約3万6600人に上り、前年同期の2.9倍近くになった。カイリディス移民相はロイター通信のインタビューで「中東の不安定さが拡大した場合には本当に危険な事態になる」と語り、パレスチナ移民の大量流入に警戒を強める。

欧州市民の意識も急速に変わりつつある。EUの世論調査(2023年6月)で直面する最も重要な課題に移民問題を挙げた人は24%と前回調査から7ポイントの大幅な上昇となった。この間、インフレと答えた人は32%から27%に、エネルギー供給は26%から16%に低下しており、ロシアのウクライナ侵攻に伴う経済的な影響が一巡するなかで、移民問題を重要な課題ととらえる市民が急増している。

イタリアは国境での検問開始

北アフリカを経由する移民の大量流入にさらされるイタリアでは特に警戒が強い。インフレやエネルギー供給と反比例するかのように移民問題が再び関心を集めている。みずほリサーチ&テクノロジーズの川畑大地エコノミストは「(シリア人ら182万人が不法越境した)15年の欧州移民危機をきっかけに移民への寛容度はかなり変わった。移民流入に敏感になっている」と話す。

イタリアのメローニ政権は今月初め、地中海で救出した移民らを収容する施設を東欧アルバニアに建設する計画を発表した。EU域外への移送は人権上のリスクが指摘されている。10月下旬からは北東部スロベニアとの国境で検問を開始し、EUのシェンゲン協定で認められている自由な移動を一時停止した。

1990年代の旧ユーゴスラビア紛争や2010年代の民主化運動「アラブの春」、それに続くシリア内戦でイスラム系移民の欧州への流入は劇的に増えた。米ピュー・リサーチ・センターの推計では、16年のEUのイスラム人口は約2580万人で全体の4.9%を占める。平均年齢が若く、出生率も高いために人口の自然増が見込まれ、加えて移民の流入が止まらなければ、50年までに総人口の14%に達する可能性がある。

イスラム教の規範や生活習慣は欧州の文化と摩擦を起こしやすく、インクルージョン(包摂)に苦しんでいる国が多い。パレスチナ人は約90%がイスラム教徒。新たな流入は欧州社会を揺るがしかねない。

オランダ下院選では極右政党が第1党に躍進した(自由党のウィルダース党首)=ロイター
22日投開票されたオランダの下院選挙では極右の自由党が第1党に躍進した。そもそもルッテ前連立政権が崩壊したのは移民政策をめぐる対立からで、選挙戦でも移民問題が最大の争点だった。自由党のウィルダース党首は反イスラムの立場を取り、移民の流入が住宅価格の高騰を招いたなどと主張する。連立協議は難航が予想されるが、EUの原加盟国のひとつであるオランダでの選挙結果は、欧州での移民問題の深刻さと極右政党の台頭を浮き彫りにした。

エジプトやヨルダンも受け入れに難色

アイルランドの首都ダブリンでは23日夜に大規模な暴動が起き、警察車両やバスが放火された。きっかけは同日午後に発生し、子供らが重軽傷を負った刃物襲撃事件。SNS(交流サイト)で外国人の犯行という情報が飛び交い、それが反移民の暴動に発展したとみられる。

アイルランドでは移民排斥を訴えるデモ隊の暴動が起きた(ダブリン市内)=ロイター

国際教養大学の堀井里子准教授は「移民や難民支援に終わりが見えないことに加え、インフレによる生活苦もあって、人々の間で不安感が高まっているのではないか。非正規移民が欧州に渡航する前になるべく周辺国で押しとどめ、流入を抑えようとするEUの政策がさらに強化されるだろう」と指摘する。

EUは経済的な支援と引き換えにガザと国境を接するエジプトに対応を求めているかにみえる。そのエジプトも、ヨルダン川西岸に隣接するヨルダンも、パレスチナ人の受け入れは拒んでいる。

武力衝突や経済的苦境、気候変動にさらされた中東やアフリカの人々は難を逃れるために欧州に向かう。EUへの不法越境者は今年1〜10月で33万人を超え、16年以降で最大となった。だが反移民の機運が高まる欧州はもはや「新天地」とは言い難い。社会の分断が新たな不満を生み、混乱が混乱を呼ぶ恐れさえある。

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