[FT]ガザで国際人道法改善を 従来も戦争の惨禍で進化

[FT]ガザで国際人道法改善を 従来も戦争の惨禍で進化
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『「恥辱として記憶に刻まれる日である――」。ルーズベルト米大統領(当時)は、旧日本軍が真珠湾にあった米海軍基地を攻撃し68人の民間人を含む2403人の米国人が死亡した1941年12月7日(日本時間8日)をこう表現した。

この事態への反撃として米国は日本に対する全面戦争を開始し、ついには原子爆弾の投下に至った。広島だけで推定約7万人が死亡したとされる(編集注、7万人は1940年代後半に米政府が出した…

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『(編集注、7万人は1940年代後半に米政府が出した推定値。広島市は45年末までの推計死者数を14万人としている)。

あくまでも正当性を主張するイスラエル

イスラエルにとっては2023年10月7日が「恥辱として記憶に刻まれる日」だ。イスラム組織ハマスによるテロ攻撃で約1200人が死亡し、そのほとんどが民間人だったうえに、240人以上が人質に取られた。ハマスの奇襲に対するイスラエルの猛烈な反撃により、パレスチナ自治区ガザではこれまでに1万1500人以上が死亡したと見られている。

イスラエルはガザでの同国の行動に対する外国からの批判に当初からいら立っており、自分たちの行動を正当化すべく第2次世界大戦を引き合いに出してきた。

21年6月から22年6月にかけて首相を務めたナフタリ・ベネット氏は、今回の紛争の初期に民間人の犠牲者について聞かれた際、信じがたい回答をした。「パレスチナの民間人について本気で聞いているのか。そんな質問をするとは何事だ。我々はナチスと戦っているんだ!」

イスラエルのネタニヤフ現首相は、1945年に連合軍が独東部ドレスデンで無差別爆撃をして大量の民間人を死なせたことを西側諸国に思い出させた。イスラエルのある閣僚に至っては、ガザに核兵器を投下するのも選択肢の一つだとまで発言し、即座に非難された。

原爆の父オッペンハイマーの自責の念をどう捉えるか

「ヒロシマ」が投げかけた道徳的な問いは、今年、映画「オッペンハイマー」が大ヒットしたことで今も人々の心に強く残っている。

この映画では原子爆弾開発の指導者的役割を果たし、「原爆の父」と呼ばれた米物理学者のオッペンハイマー氏が、原爆が使用された後に良心の呵責(かしゃく)にさいなまれる姿が描かれている。

しかし、それをどのように判断するかは視聴者に委ねられている。オッペンハイマー氏は罪悪感に苦しむべきだったのだろうか。それとも、振り返れば残酷な戦争を終わらせるために必要とされた最後の残酷な行為に自責の念を示すオッペンハイマー氏をトルーマン大統領(当時)が「泣き虫」と呼んだのは正しかったのだろうか。

ハリウッドは決めかねているかもしれないが、国際法では明確だ。大量の民間人犠牲者を出すことを意図して核爆弾や通常爆弾を使うことは、今では戦争犯罪に分類される。

これはいわゆる最近の「意識高い系」の人々から出てきた新しい見解などではない。

イスラエル軍がジュネーブ条約を順守していると言い張る理由

民間人を意図的に標的にすることを違法とした1949年のジュネーブ条約は、第2次大戦の惨事への対応として起草された。世界のすべての国が批准している。

ジュネーブ条約では戦闘地域にいる民間人への水と電気の供給遮断は戦争犯罪となる。イスラエルはガザへの侵攻初期段階でこの供給を遮断すると警告し、今では撤回したが、ガザに供給が許されている燃料と水の量は依然、非常に限られている。

ベネット氏やネタニヤフ氏のような政治家の発言にもかかわらず、イスラエル軍は国際法に従い続けていると主張している。イスラエル国防軍(IDF)は、空爆作戦はすべて合法的な軍事目標を狙ったものであり、民間人の犠牲はイスラエルが自衛権を行使したことによる遺憾な結果だと述べている。

イスラエルが国際法の下で合法的な自衛権を保持することに疑いの余地はない。だからこそイスラエルのガザでの行動とロシアのウクライナへの攻撃を比較するのはおかしい。ロシアとは異なり、イスラエルは攻撃されたからだ。

国際法下で病院も合法的攻撃対象になり得る理由

国際法の下では、多くの評論家が間違いなく「戦争犯罪」だと考える行動が自衛権によって可能になる。例えば、病院が敵の作戦基地として使用されていれば、その病院を攻撃することは合法となり得る。イスラエルはこれを根拠にガザ最大のシファ病院への突入を正当化した。

シファ病院に入った世界保健機関(WHO)のチームは、その状況を「死の地帯(デスゾーン)」と表現した。イスラエルはこれまでのところシファ病院が実際にハマスの主要な作戦基地だったという強力な証拠を出していない。

だが、病院で弾薬を保管したり病院を射撃地点として使用したりすることさえ、国際法の下では合法的な攻撃対象とみなされる可能性がある。ただし、合法と見なされるのは民間人の「巻き添え被害」が、得られる軍事的利益につり合っていると判断された場合のみだ。

イスラエルを批判している人の多くは、病院への攻撃は今回の紛争だけで起きた常軌を逸した事態だと考えているが、残念ながらそうではない。ロンドンの英王立防衛安全保障研究所(RUSI)の新しい論文によると、医療施設への攻撃は今年だけでも18の紛争地域で855件に上っている。シリア軍とロシア軍はシリアの病院を意図的に空爆し、多数の犠牲者を出したが、その後それらは自分たちによる攻撃ではないと徹底して否定している。

過去の戦争の惨事によって進化する国際人道法

しかし、シファ病院やガザの他の場所での光景は世界で論争を巻き起こしている。たとえイスラエルが国際弁護士らに自分たちの行為の合法性を説得できたとしても、多くの評論家は彼らが道徳に反していると考え続けるだろう。

このように合法性と道徳性を巡る認識の隔たりは、戦争の歴史では珍しいことではない。
実際、国際人道法の進歩をもたらしたのは、過去の戦争で用いられた戦術が生んだ惨事だった。第1次大戦後、毒ガスの使用は違法となった。ジュネーブ条約は第2次大戦後に拡大され、1970年代には新しい形態の戦争と兵器の登場に対応して再び拡大された。

英国の軍医であり、前述のRUSIの論文の著者であるシ・ホーン氏は、国際人道法が次に改正すべき点は「病院を対象とした爆発性兵器の使用を禁じる」ことだと主張している。それが実現すれば、ガザの数々の悲劇から未来に続く良いことが生まれるかもしれない。

By Gideon Rachman

(2023年11月20日付 英フィナンシャル・タイムズ電子版 https://www.ft.com/)

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ギデオン・ラックマン

Gideon Rachman 英国生まれ。英BBCや英エコノミストなどを経て2006年FTに入社。同年、現在の外交関係の論評責任者に。2016年政治分野のジャーナリストとして英オーウェル賞を受賞。著書に「Easternization」(2016年)などがある。

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