エスカレートする中国の海洋での挑発行為
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/32108
『2023年10月29日付ワシントン・ポスト紙(WP)は、「中国の海洋における挑発行為は無視するにはあまりに露骨になりつつある」と題した社説を掲載している。
(Leestat/gettyimages)
バイデン政権がウクライナと中東に焦点を当てる中、他の地域で新たな危機が生じる危険性がある。太平洋で、中国は用心深く挑発行為を繰り返し、米国と地域の主要同盟国であるフィリピンを試している。
南シナ海は長く米中間の潜在的な発火点になり得ると見られてきた。だからこそわれわれは、全面的な紛争を避けるためにホットラインを含む軍部間の交流を早急に復活させるよう主張してきた。
10月22日に中国は、セカンドトーマス礁の船舶に駐留するフィリピン海兵隊に物資を補給するフィリピン沿岸警備艇と補給船に、中国の海警局船を意図的に衝突させた。中国は南シナ海全体の領有権を一方的に主張している。
フィリピンは中国の行動を「危険で、無責任で不法な行為」であると非難した。中国の行動はセカンドトーマス礁の事実上の封鎖につながるものであり許されるものではない。
中国は南シナ海の公海上を飛行する米国航空機についても挑発的行為を拡大してきた。上記の衝突事件の2日後、中国J‐11ジェットは夜間に米国B-52爆撃機のわずか10フィートにまで近づく極めて危険な飛行を繰り返した。
これは習近平が経済の行き詰まりと指導力の危機という悪化する国内問題から国民の目を逸らすために行なっているのであろう。
中国の理屈がどのようなものであれ、米国は太平洋国家であり一度に複数の危機が起こっても対処できるとのメッセージを常に送ることが重要である。バイデン大統領は、フィリピン船舶、航空機、軍隊に対するいかなる攻撃も両国の相互防衛条約を発動させることになるし、米国はそのような攻撃に際しては憲法上の手続きに従って共通の危険に対処すると述べた。このように米国のコミットメントを繰り返し言及することは、中国の誘惑を思い留まらせる正しい道である。
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本社説は、ウクライナと中東が世界の注目を集める中で、極めて危険な状況が南シナ海で進展している事にもっと関心を持つべきであるとの論旨であり、極めて的を射ている。
その根底には、中国の行動がそれほど粗野で目に余ることがある。
社説では、船舶の衝突と米軍への意図的接近が事例として挙げられているが、他の事例に枚挙のいとまはなく、例えば今年2月にはセカンドトーマス礁においてフィリピン沿岸警備艇乗組員が中国海警局船舶から軍用レーザー光線を照射されたし、この9月にはスカボロー礁で中国が設置した浮遊式の障害物が発見され、フィリピンがこれを撤去している。』
『スカボロー礁は12年以来、中国が力によって支配しており、障害物によってフィリピン船舶を同礁に近づけなくさせようとした。
南シナ海全般に埋立てや軍事施設の建設が着々と進んでいるし、フィリピン漁民等への嫌がらせは日常茶飯事である。
最近ではフィリピンのEEZ(排他的経済水域)内の珊瑚礁の中国による破壊について、フィリピンが2度目の常設仲裁裁判所への提訴を検討していると言われる。
したがって、安全保障面、経済面双方で、中国による南シナ海の力による現状変更の試みは着実に進み、極めて憂慮すべき事態になっている。
社説では、習近平主席が経済の行き詰まりと指導力の危機という国内問題から国民の目をそらせるために、中国が危険なテストを行なっている、との視点を強調している。
歴史的に見れば、中国は南シナ海において力の空白が生じた時に必ず行動を起こしている。
ベトナム戦争末期に米軍が撤退すると西沙諸島を占拠し、在ベトナムのソ連軍が縮小した1980年代半ば以降は南沙諸島を占拠し、1992年に在比米軍が撤退するとミスチーフ礁を占拠するといったものだ。
中国は今が好機と判断しているのかも知れない。過去の中国の行動ぶりを見れば、今後、中国が南シナ海への圧力を弱めることは考えにくい。
当然、このような中国による危険な試みに対しては、関係国が一致して毅然とした態度をとる必要がある。米国については、フィリピン防衛のコミットメントをバイデン大統領が強調したことは極めて適切であった。
社説が指摘するように、これを繰り返し言及することが大切であるし、同時に行動が伴うことも重要であって、米比共同訓練や航行の自由作戦の実施、あるいは海洋監視能力の支援など、今後も米国が実質的に南シナ海問題に関与していくことが重要である。12年のスカボロー礁の占拠の際は、フィリピンにおいてオバマ政権の対応に大いに不満が生じたが、バイデン政権はこの教訓を十分認識していると思われる。
一方、大統領選挙を控えた状況の中、ウクライナに対してすら支援に消極的な内向き勢力が一部存在することは心配である。世界的な問題を解決する能力を持つ唯一の国の意志が引き続き強固であることを期待する。
フィリピンではマルコス政権となって対米関係、特に安全保障環境が大幅に改善した。ドゥテルテ政権下では共同訓練は大幅に縮小し、防衛協力強化協定(EDCA)はほぼ執行停止状態にあり、一時は訪問軍地位協定(VFA)の廃棄まで俎上に登った。マルコス政権は、就任後、対米重視を鮮明にし、共同訓練の拡充、EDCAの対象施設拡大など諸施策を積極的に進めている。
日本も高める安保協力
11月3日より岸田文雄首相がフィリピンを訪問し、貿易・投資の拡充、インフラ支援等の経済問題に加え、安全保障協力の拡大も議論された。特に、安全保障面では、日本の政府安全保障能力強化支援(OSA)の最初の案件として沿岸監視レーダーの供与が合意されたことは画期的である。
また「円滑化協定(RAA)」の交渉開始が発表されたが、これが結ばれれば、今後の共同訓練や災害支援の実施が格段にスムーズになる。これまで政府開発援助(ODA)による巡視船の供与や日比防衛装備品・技術移転協定の締結、2+2会合の実施などさまざまな協力が進められてきたが、今回の岸田首相の訪比により日比安保協力がさらに一段階高みに引き上げられることになった。』