欧州で頻発する反イスラエルデモから読み取れること
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/32109
『10月13日付けウォールストリート・ジャーナル紙が、英王立学会のドミニク・グリーン特別研究員による‘Middle East War Becomes a European Crisis’(中東の戦争が欧州の危機を生んでいる)と題する論説を掲載している。主要点は次の通り。
2023年11月11日、イギリス・ロンドンにてガザのパレスチナ人と連帯して抗議するデモ参加者たち(ロイター/アフロ)
中東の戦争は米国では外交政策の危機を生んでいるが、欧州では国内的な危機(反イスラエル・デモの頻発)を生んでいる。これは、数十年に及ぶ移民管理の失敗、多文化主義の限界に対する認識不足の生み出した悪しき結果である。
こうした行動をとったのは、白人ナショナリストでもなければ、環境終末論者でもなく、欧州で急速に人口を拡大しつつあるイスラム教徒である。
欧州各国の政府はリベラリズムに立脚し、三つの方策をとってきた。イスラム原理主義を治安上の問題と捉える、イスラム教徒の集団を地域社会へ統合することで原理主義の力を低減する、そして、人々がイスラム教徒の存在について懸念を持つことを「イスラム教嫌い」とレッテルを貼って押さえつけることである。これらの方策は、結局は失敗に終わった。
移民(その多くは不法移民)は増え続けてイスラム原理主義者の温床となった。その中から残虐なテロを行う者が出てきた。
西欧ではイスラエル・パレスチナ問題は多くの人にとっての個人的な関心事項ではない。5月の世論調査において、この紛争に「大して関心がない」「全く関心がない」と答えた者の合計はドイツでは73%、英国では56%、フランスでは47%であった。一方、彼らは移民、テロリズム、法と秩序、移民が福祉・住居・学校・病院へもたらす影響に強い懸念を持っている。
この30年の間、欧州において反移民のナショナリスト政党への支持が拡大している。これは民主主義の表れであるが、欧州の体制派はファシズムの再来と呼んでいる。
欧州各国の政府は、これを抑えるため、言論の自由についての法制を更に制限することはできるが、国境管理に失敗し、移民の同化に失敗してきたことが社会的に、また、選挙において明確に示されることを避けることはできない。
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この論説の狙いは、イスラエルとハマスの衝突をきっかけに欧州で反イスラエル・デモが頻発している背景に、多数のイスラム教徒が欧州に存在していることを指摘し、欧州の移民政策や多文化主義を批判しようとする点にある。欧州での反イスラエル・デモの頻発から読み取るべきことは、論説の指摘のみならず、いくつもある。』
『広がる対立と分断
第一に、欧州諸国の多くにおいて、宗教、エスニシティが社会における断層線(フォルトライン)となっているが、その断層線はガザ危機によってさらに深いものとなった。欧州連合(EU)は基本的にリベラリズムに立脚している機構であるが、リベラリズムと現実との間で衝突が生ずるのは、こうしたアイデンティティに関わる問題である。
欧州は2015年以降の移民・テロ危機において、それをいやというほど思い知らされたが、今、再び、その難問がガザ危機によって顕在化している。そうした事態は政治の舞台においてはポピュリズム政党への支持の増大、既存政党の右傾化に繋がっていく。
第二に、こうした社会における断層線の深刻化は、外交政策にも影響を及ぼさざるを得ない。ガザ危機は、米国のみならず欧州にも外交政策の危機をもたらした。
10月27日、国連総会で採決に付されたヨルダン提案による決議案(イスラエルとハマスに「人道的休戦」を求める内容)は、賛成120(アラブ諸国、ロシア、中国、多くの途上国)、反対14(米国、イスラエルなど)、棄権45(日本を含む)で可決されたが、EU加盟国の立場は大きく割れた。EU27カ国中、約半数の15カ国は棄権したが、賛成8(ベルギー、フランス、アイルランド、ルクセンブルク、マルタ、ポルトガル、スロベニア、スペイン)、反対4(オーストリア、クロアチア、チェコ、ハンガリー)と立場が分かれた。
EUは、ロシア・ウクライナ戦争において共通した立場を取ることに苦労してきたが、イスラエルとハマスの紛争はそれにも増して共通した立場を構築することが難しい問題となっている。
第三に、現在、イスラエルとハマスは、ガザで戦闘を繰り広げるとともに、世界の世論の支持を得るための戦いを行っているが、イスラエルは明らかに守勢に回っている。10月7日のハマスによるテロ行為が行われた当初は、イスラエルへの同情が多く聞かれた。
一方、その後のイスラエルによるガザへの激しい空爆やガザ封鎖のもたらす人道危機を伝える映像によって、ガザへの同情、イスラエルへの反発が広まった感がある。上記の論説が取り上げた欧州での反イスラエル・デモの頻発もその一つの表れである。
イスラエルが安全保障上の理由、国内政治上の理由から強硬策を続ける場合、そうした感情との懸隔はますます大きなものとなっていく。それは、この危機を何とかマネージしようとする米国にとっての負担の増大に他ならない。
ガザ危機は、大規模テロリズム、テロ根絶を目指した武力行使、複数の国際的危機の同時進行を生起させたが、それに加えてこれらの事態である。残念ながら、国際関係においては、ますます秩序を液状化させる方向の力学が強まっていると言わなければならない。』