年610万人の大移民時代 先進国で外国人の労働需要拡大

年610万人の大移民時代 先進国で外国人の労働需要拡大
編集委員 瀬能繁
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD0256Y0S3A101C2000000/

『新型コロナウイルス禍を乗り越え、世界は再び大移民の時代に入った。経済協力開発機構(OECD)加盟の先進38カ国に新規に永住した外国人は2022年に約610万人となり、過去最高を更新した。インドは20〜21年と2年連続で中国を上回る最大の移民送り出し国となった。期限付きの外国人労働者、留学生も過去最高水準で、国境を越えた人材の移動に拍車がかかっている。

22年のOECD加盟国への新規永住外国人は前…

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『22年のOECD加盟国への新規永住外国人は前年比で26%増えた。新型コロナ禍前の19年水準も14%上回った。国別でみると米国が104万人でトップ。ドイツ(64万人)、英国(52万人)、スペイン(47万人)、カナダ(43万人)と続く。

2023年以降も定住移民は増加傾向

永住者の種類をみると、すでに先に永住していた外国人が家族を呼び寄せたり、永住時に家族を帯同させたりするケースが全体の約40%を占めた。就業を目的とした労働移民は全体の約20%にとどまるが、前年比の伸び率は36%と高かった。難民申請していた人が定住を認められた人道移民も増えた。

OECDのジョナサン・チャロフ氏=OECD提供

「定住移民増加の要因は3つある。第一に、新型コロナ禍に伴う領事館の閉鎖などで滞っていた定住許可の手続きが進んだ。第二に、新型コロナ禍後のOECD加盟国の人手不足。第三に、カナダやオーストラリア、英国などで労働移民を増やすように政策が変更された」。OECDで国際移民調査を担うチーフ政策アナリストのジョナサン・チャロフ氏は日本経済新聞のオンライン取材に答えた。

OECDは23年以降も定住移民増加の傾向が続くとみている。チャロフ氏がその背景として注目しているのが人口動態の変化だ。「多くのOECD加盟国では若年世代の割合が縮小し、外国人の労働需要を生み出している。各国政府が外国人受け入れを増やす政策を続けるならば、移民は高水準で流入し続ける」という。

期限付きの外国人労働者の流入も増えている。22年は240万人超と前年比で77%も増えた。この数字には定住者ではないものの、ある特定の時期だけ農作業に従事する「季節労働者」、ワーキングホリデーなども含まれる。国別にみると、米国、オーストラリア、カナダが多いが、技能実習生を多く抱える日本も上位に位置する。

この期限付き外国人労働者の中には年に何度も外国で働いたり、期限付き労働者から定住移民になったりする人も多いとみられ、その実態が不透明な部分は残る。ただ、労働移民として定住した人とセットで考えれば、全体として先進国による外国人労働者の需要が強まっているのは間違いない。

最大の送り出し国・インドから年40万人
移民の出身国をみると、データとして遡ることができる最新の21年にインドは40万人超の新規移民を先進国に送り込んだ。中国(28万人)、ルーマニア(21万人)、ウクライナ(18万人)と続く。インドは20年に中国を上回って最大の移民送り出し国となってから、中国を大きく引き離して存在感を高めている。

外国で働くインド人「印僑」の世界は広がっている。オーストラリア、カナダ、ニュージーランド(NZ)、スウェーデンでは、流入した外国人の中でインド人が一番多かった。米国に流入した外国人の首位はメキシコ人だったものの、インド人は肉薄している。

「米国で(ハイテク技術者などが利用する)H1Bビザ(査証)の90%はインド人に交付されている。多くのインド人が外国留学をするが、カナダやオーストラリア、英国などでは卒業後2年間は在留資格を得て働けるので、こうした制度を利用している」とチャロフ氏は語る。

OECDの20年のデータによると、インド人留学生は中国人留学生と比べて学卒後も留学先の国にとどまる傾向が強い。たとえばカナダに留学したインド人留学生の約9割が学卒後もカナダにとどまったという。数少ない例外が日本。日本に留学したインド人が学卒後も日本にとどまるのは4割弱で、中国人留学生と比べて割合が低い。

米グーグルのピチャイCEOはインド出身=ロイター

英語力がある人が多いことも、英語圏や英語が通じやすい国でのインド人の移民増加につながっている背景のひとつ。米グーグルのスンダー・ピチャイ最高経営責任者(CEO)、米マイクロソフトのサティア・ナデラCEOなどはインド出身者の代表格。IT(情報技術)分野を中心にスキルの高い人材は世界的に引き合いが強いといえそうだ。

外国人の移民先での就業率はOECD加盟国平均で72.3%だった。日本では77.3%とOECD平均を上回った。日本で働く外国人のうちベトナム人の就業率は93%と突出して高かった。

留学生は中国が最多の88万人

一方、21年の先進国への留学生をみると、約6割がアジアの出身だった。国別でみると中国人留学生が88万人と、インド人の42万人を上回った。中国人留学生は米国、英国、ドイツ、オーストラリア、ニュージーランド、日本、韓国などで国籍別で最多のグループで、存在感は依然として大きい。ベトナム人留学生は日韓両国で多いが、北欧のフィンランドでも目立つ。

米国の大学では中国人留学生の姿が目立つ=AP

気がかりなのは新規の難民申請者が急増していることだ。22年は200万人超がOECD加盟国に難民申請した。前年比でほぼ倍増となっただけでなく、過去最高を更新した。最大の申請先は米国の73万人で、申請者はカリブ海のキューバと南米ベネズエラの2カ国の出身者だけで約40%を占めた。

2番目に多かったのがドイツの21万人で、シリア、アフガニスタン、トルコの難民申請者が多かった。中米コスタリカ、メキシコ、南欧のスペインは中南米からの主な難民申請先となっている。

ウクライナ避難民は23年6月時点で470万人がOECD加盟国にいる。22年4〜6月期に急増した避難民の流入はその後落ち着いている。ウクライナ避難民は「居住地からの転居を余儀なくされた規模としては欧州で戦後最大」(OECD)。ドイツやポーランドは100万人前後のウクライナ避難民を抱えており、地域社会に溶け込んでもらったり、また事態が好転した場合にウクライナへ帰国しやすくしたりする「二重の統合政策」が必要といわれている。
来年11月に大統領選挙を控える米国では、不法移民・難民への対応が争点のひとつになっている。欧州では来年6月の欧州議会選挙を前に、極右政党を中心に移民・難民問題を焦点にしようとする動きが拡大している。その裏返しからか、グローバルな人材移動の流れは止まらない。日本もその大きな奔流と無関係ではいられないだろう。

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