中東危機でロシアの収支は 反イスラエルが生む火種

中東危機でロシアの収支は 反イスラエルが生む火種
上級論説委員 坂井 光
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK024IJ0S3A101C2000000/

『イスラエルとイスラム組織ハマスの紛争激化で、ロシアが築き上げた双方との良好な関係と調停者としての存在感が揺らいでいる。プーチン大統領は来年3月の大統領選をにらみ外交と内政で難しいかじ取りを迫られる。

10月29日、ロシア南部ダゲスタン共和国の中心都市マハチカラの空港で起きた暴動は衝撃的だった。パレスチナ自治区ガザへの攻撃を拡大するイスラエルに抗議する群衆がテルアビブから到着した旅客機を取り囲み、…

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『10月29日、ロシア南部ダゲスタン共和国の中心都市マハチカラの空港で起きた暴動は衝撃的だった。パレスチナ自治区ガザへの攻撃を拡大するイスラエルに抗議する群衆がテルアビブから到着した旅客機を取り囲み、乗客のイスラエル人を襲撃しようとしたのだ。治安部隊が鎮圧するまで多数の負傷者が出た。

プーチン政権にとって痛手だったのは、大規模な混乱を防げなかったことだ。同共和国はイスラム教徒が大半を占め、2000年代まで隣接するチェチェン共和国とともにテロを繰り返した武装勢力の巣窟となっていた。

それらを一掃したあとも現地から過激派組織「イスラム国」(IS)に参加する戦闘員は多かった。それだけにテロの再流入に神経をとがらせ治安維持を徹底してきたが、安定がもろかったことが露呈した。民間軍事会社ワグネル創設者のプリゴジン氏が6月に起こした反乱に続く失点といえよう。

空港に乱入しイスラエルからの旅客機を取り囲んだ群衆(2023年10月29日、ロシア南部ダゲスタン共和国マハチカラで)=AP

中東での危機はロシアにとっていいことずくめのはずだった。最大の幸運はウクライナ侵攻への国際的関心が相対的に下がり、西側諸国の援助がガザやイスラエルに向かうことが期待できることだ。

戦費拡大で財政負担が重いなか、収入源である石油の価格を押し上げる効果も期待できる。さらに危機の原因を米国の中東政策の失敗と宣伝し、米欧主導の国際秩序への疑念をグローバルサウスに植え付けるのに役立てている。

ロシアはソ連時代からパレスチナを支援し、アラブ諸国とは友好・協力関係が伝統的に確立している。

一方で、プーチン氏はイスラエルのネタニヤフ首相とは実利優先で個人的なつながりを深め、頻繁に会う間柄だ。旧ソ連やロシアからイスラエルへの移民も多く、ロシア語を話す国民は約130万人と人口の15%を占めるとされる。それだけつながりが深い、独特な2国間関係を築いた。

ウクライナのゼレンスキー大統領がユダヤ系にもかかわらず、イスラエルが対ロ経済制裁に加わらず、ウクライナへの武器供与を控えているのにはそういう背景がある。

アラブ世界とイスラエルの双方と対話できる調停者――。そんな特異な存在感を発揮してきたロシアだが、衝突の激化で絶妙なバランス外交が限界を迎えている。

「第2次世界大戦のレニングラード包囲に匹敵する軍事的、非軍事的措置がガザで講じられる恐れがある」。10月13日、プーチン氏は訪問先キルギスでイスラエルをナチスドイツになぞらえ警告した。

一方でロシアは危機のきっかけとなった同7日のハマスによる対イスラエル大規模攻撃への批判は回避したまま。26日にはハマス幹部とその後ろ盾であるイランの外務次官をモスクワに招くなど「ハマス寄り」の立場を隠さなくなった。

プーチン大統領㊨はネタニヤフ首相と盟友関係を築いたが…(2020年6月30日、クレムリンで)=AP

ロシアとしてはイスラエルとの関係を維持したいのが本音だ。しかし、二者択一を迫られれば優先するのはアラブ側だ。中東での危機が深刻化したり、長期化したりすればその分、イスラエルとの関係は冷え込んでいくだろう。最悪の事態は同国がウクライナ支持に転じることだ。

ロシア国内でも火種はくすぶる。

「ポグロム」復活か。帝政・ソ連時代にユダヤ人への迫害・暴力を指すことばがダゲスタンでの暴動以降ささやかれている。プーチン氏は10月30日に緊急会議を招集し「西側の支援でウクライナが混乱を扇動した」と責任を転嫁したが、現地では政権の反イスラエル的な言動を嗅ぎとったうえでの暴動との指摘もある。一方でイスラム教徒に対する偏見も台頭している。

放置すれば多民族、多宗教の平和的共存が自国の強みだとするプーチン氏のプロパガンダは空疎に響く。なにより強権下でも暴動が起きうることを示した。大統領選に向け不安要素は尽きそうにない。

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