イスラエル首相支持急落 急襲に責任論、人質救出が課題

イスラエル首相支持急落 急襲に責任論、人質救出が課題
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR30CD00Q3A031C2000000/

『2023年11月2日 16:32 (2023年11月2日 21:27更新)

【カイロ=久門武史】イスラエルのネタニヤフ首相が有権者の支持を失っている。イスラム組織ハマスの奇襲を許した責任を問う声が強い。パレスチナ自治区ガザへの攻撃で挽回を狙うが、人質解放を優先すべきだとの世論は無視できない。地上侵攻と明言せずに攻勢を強めており、その成否は進退に直結する。

シンクタンクのイスラエル民主主義研究所が10月23日発表した世論調査によると、ユダヤ人の市民で政府を信頼すると答えた…

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『シンクタンクのイスラエル民主主義研究所が10月23日発表した世論調査によると、ユダヤ人の市民で政府を信頼すると答えたのは20%強にとどまった。6月の調査の28%から急低下し、過去20年間で最低になった。

イスラエルは先月7日にハマスの大規模な越境攻撃を受け1400人以上が死亡した。防げなかったネタニヤフ氏はハマスの壊滅を掲げ求心力の回復を狙うが、人質救出を願う国内世論を意識せざるを得ない。28日に「戦争の第2段階」に入ったとしつつ、準備してきた地上侵攻だとは明言しなかった一因だ。

同国紙マーリブが27日発表した世論調査では、軍が大規模な地上攻撃に乗り出すべきだとの回答は29%にとどまり、49%は待った方が良いと答えた。19日の調査では65%が大規模地上攻撃を支持していた。人質200人以上がガザに拘束されており、救出と本格的なガザ攻撃をどう両立するかが問われている。

ネタニヤフ氏は奇襲を許した責任の所在を明確にしておらず、これも不信を呼んでいる。同国メディアによると28日夜「私にはハマスが戦争をしかけるという警告は届いていなかった」とX(旧ツイッター)に投稿し治安機関を批判した。

戦時内閣のガンツ元国防相が「指導者は責任を示す必要がある」とたしなめると、投稿を削除し「間違っていた」と謝罪に追い込まれた。

経済界も厳しい目を向ける。自動車向け半導体を手がけるモービルアイのシャシュア最高経営責任者(CEO)は29日、同国紙カルカリストへの寄稿で、ネタニヤフ氏の失態を指摘し「迅速に損切りをしなければならない」と即時退陣を求めた。

奇襲を受けた国では指導者の支持率が上昇する例が多い。米調査会社ギャラップの世論調査によると、当時のブッシュ米大統領(第43代)の支持率は2001年9月11日の米同時テロの後、最高で90%にまで急騰した。それまでは51%だったが「テロとの戦い」で米国が結束した結果だ。

ロシアによるウクライナ侵攻後も同国のゼレンスキー大統領は高い支持率を維持している。ネタニヤフ氏は過去の例には当てはまらなかった。

今回のハマスとの衝突前から、ネタニヤフ氏に不満を抱く有権者は多かった。極右政党と連立政権を組んで22年末に政権に復帰したが、裁判所の力を弱める「司法制度改革」を進め、反対する市民の抗議デモが拡大。社会の分断を招いた。

通算16年も首相の座にあり、支持・不支持で世論は真っ二つに割れる。汚職などの疑惑で公判中の身で、政権の延命に腐心しているとの見方は強い。ハマスへの攻撃で「成功」をアピールできれば求心力の回復を見込めるが、失敗すれば退陣論は止められない。ガザでの軍事行動が強硬策に傾きかねず、自らの政治生命をかけた打算が作戦と連動するリスクがある。

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