揺れる米の中東政策、ガザ衝突招く イスラエルも不信感
編集委員 永沢 毅
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD238N80T21C23A0000000/
『イスラエルによるイスラム組織ハマスへの侵攻作戦が秒読み段階に入り、中東情勢は緊迫の度を増してきた。ハマスの攻撃に端を発する今回の騒乱はこの地域の安定に貢献してきたはずの米国にもその責任の一端がある。振り子のように揺れる中東政策にイスラエル、パレスチナ双方が不信を膨らませた面が否めない。
専門家「米、ガザの被害拡大で初めて停戦呼びかけ」
バイデン米大統領はハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザへ…
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『バイデン米大統領はハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザへの侵攻作戦で民間人の被害を最小限に抑えるよう自制を求めている。米シンクタンク、アラブ湾岸諸国研究所のフセイン・アイビッシュ氏の考えるバイデン政権の本音はやや異なる。
「ひどい残虐行為が明るみに出たり、民間人の被害が続発したりした段階になって初めて米国は停戦を呼びかけるだろう」。ハマス壊滅を後押しする米国の立場に変わりはなく、かなりの犠牲は避けられないとの見通しを示す。
ガザの病院爆発を受けてパレスチナ自治政府のアッバス議長との会談が宙に浮き、バイデン氏の中東訪問はイスラエル寄りの色が強まった。バイデン氏はトランプ前大統領の「親イスラエル」路線の修正を探ってきただけに、皮肉というほかない。
バイデン氏のイスラエル訪問にあわせて予定されていたパレスチナ自治政府のアッバス議長との会談は見送られた=AP
ネタニヤフ氏、バイデン氏の指示を無視
トランプ氏は国際社会が認めていないヨルダン川西岸地区へのイスラエル人の入植活動を「合法」と認め、聖都エルサレムをイスラエルの首都として承認した。アイビッシュ氏によると、これらは入植を推進し、パレスチナ人の追放を続けたネタニヤフ氏の強硬路線を助長させた側面がある。
バイデン氏は大統領に就くと入植を停止するようネタニヤフ氏に促し、反体制派の弾圧につながるイスラエルの司法制度改革も見直すよう注文を付けた。ネタニヤフ氏はいずれも応じていない。
バイデン氏との会談に臨んだイスラエルのネタニヤフ首相だが、両氏の関係は良好ではない=AP
両氏にはバイデン氏が再建に取り組むイラン核合意を巡っても、オバマ政権以来の確執がある。「現在は緊急事態を受けて対立を一時的に棚上げしているが、もともとこの2人に深い信頼関係はない。ネタニヤフ氏が要求を聞き入れるはずもない」(アイビッシュ氏)
実際、ネタニヤフ氏は入植を継続し、和平交渉に前向きな姿勢もみせなかった。この強硬路線はハマスの大規模攻撃を招く伏線となった。
バイデン氏、中途半端なトランプ路線との決別
米国への不信感を募らせていたのはパレスチナ側も同じだ。「バイデン政権はトランプ時代の政策をすべて変えようとしているようにみえたが、パレスチナに関してはそうではない」。パレスチナ自治政府のマルキ外相は今夏、海外メディアにこう失望をあらわにしている。
パレスチナ自治政府のマルキ外相=AP
パレスチナには当初、バイデン政権への期待があった。バイデン氏はトランプ政権が取りやめた国連のパレスチナ支援基金への資金拠出を再開し、イスラエルによる入植地拡大を認めない方針を打ち出した。
トランプ路線との決別は中途半端だ。2国家共存の根幹をなし、パレスチナ問題の中核でもあるエルサレムに関し、イスラエルの首都承認の決定を翻していないためだ。2024年大統領選を前にイスラエル支持が色濃い米世論を意識したこの対応はパレスチナの不興を買っている。
バイデン政権の中東政策の揺らぎはパレスチナ問題に限らない。地域大国のサウジアラビアはその一例だ。18年に起きたムハンマド皇太子に批判的なサウジ人ジャーナリスト殺害事件をサウジ政府による言論封殺とみて、当初は距離を置こうとした。
こうした人権重視の外交への刷新はトランプ政権との違いを打ち出す狙いもあった。ところが22年7月にバイデン氏はサウジを訪れ、接近を図った。ウクライナ戦争の余波による原油高対策のため、ムハンマド皇太子に原油増産を要請した。
人権重視は米民主党の看板の一つだけに、サウジへの接近には批判が強い。「対サウジ政策を人権優先に改めるべきだ」。米人権団体フリーダムハウスなど複数の非政府組織(NGO)は9月末、こんな共同声明を出してバイデン政権に再考を迫っている。
米の中東戦略のほころびは1年前から
ウクライナ戦争に続く中東騒乱で、中東への関与を減らして中国とロシアへの競争に備えようとしたバイデン政権の戦略はほころびつつある。米中東研究所のブライアン・カトリス氏によると、その兆候はすでに1年あまり前にあった。
「中国やロシア、イランに突かれるようなスキを残して中東から撤退するつもりはない」。バイデン氏はサウジ訪問にあわせて出席した22年7月の湾岸協力会議の関連会合でこう宣言している。
バイデン政権はサウジアラビアとの関係強化を進めるが、批判も多い(ムハンマド皇太子㊨とあいさつを交わすバイデン氏、2022年7月)=ロイター
「中ロがこの地域での影響力を強めて地政学的な不透明さが増したのを受け、中東へのコミットメントの継続を再び打ち出した」(カトリス氏)。それから1年余り。オースティン米国防長官は21日、中東への米軍増派を指示した。激変する中東情勢は米政策の揺れと共振し、制御できないリスクを膨らませつつある。
Nikkei Views
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