ガザ「集団懲罰」で割れる欧州 移民流入で価値観に揺れ

ガザ「集団懲罰」で割れる欧州 移民流入で価値観に揺れ
編集委員 下田敏
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD192EE0Z11C23A0000000/

『イスラエルとパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスの衝突を巡り、欧州連合(EU)が割れている。ハマスによる市民を人質を取った無差別テロへの非難に異論がないのはもちろんだが、イスラエルのガザ封鎖や攻撃が「集団懲罰(collective punishment)」に当たるかどうかでスタンスの違いが目立つ。

人道法の順守を求めず

発端はフォンデアライエン欧州委員長の13日の電撃的なイスラエ…

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『発端はフォンデアライエン欧州委員長の13日の電撃的なイスラエル訪問だった。ハマスの大規模なテロをナチスドイツによるホロコースト(ユダヤ人大虐殺)以来の蛮行と強く非難し、イスラエルへの全面的な支持を表明した。だがEU各国が擦り合わせていた「国際人道法の順守」にはふれなかった。

イスラエル・パレスチナ対応を巡り、EU首脳の足並みは乱れた(ワシントン)=AP

フォンデアライエン委員長の言動は加盟国からの支持と批判を招く。27カ国で構成するEUはただでさえ各国のスタンスが分かれがち。チェコのフィアラ首相はイスラエル支援を示すために大使館をテルアビブからパレスチナが一部領有権を主張するエルサレムに移転すると表明したし、アイルランドのバラッカー首相はイスラエルの自衛権を認めながらも「電力を遮断し、水や食料の供給を止めること(イスラエルによるガザの完全封鎖)は集団懲罰に相当する」と強調した。

イスラエルの無条件支持か人道主義の重視かで割れるなか、EUは17日に臨時首脳会議を開催。「暴力的で無差別なテロ攻撃に対して国際人道法に従ってイスラエルが自衛する権利を強く重視する」との共通の立場を改めて表明する事態となった。

欧州社会の「繊細な」問題

欧州政策センター(EPC)アソシエイトディレクターのリカルド・ボルヘスデカストロ氏は「EU各国が足並みをそろえたとは思えないし、微妙なニュアンスの違いがあちこちに見える。それはこの問題がいかに繊細であるかを反映している」と話す。そのうえで「ドイツは歴史問題の観点から反応するし、巨大なムスリム(イスラム教徒)コミュニティーを抱えるフランスはまた違う反応を示す。異なる加盟国が(イスラエルとハマスの)衝突だけではなく、それぞれの社会をふまえて異なる立場を取る」と指摘する。

イスラエルの国旗を掲げるデモ隊(国連ジュネーブ本部前)=AP

EUは伝統的に人道主義を重視し、パレスチナの最大の支援元でもある。だが、今回は支援のあり方を巡ってもバルヘリ欧州委員が人道支援を含めたパレスチナ援助の「全ての支払いを停止する」とX(旧ツイッター)に投稿し、加盟国からの批判を浴びた。欧州委員会は発言を撤回し、14日にはガザの住民に対する人道支援を当初予定の3倍にあたる7500万ユーロ(約120億円)に増額すると発表したが、従来のEUとは異なる混乱ぶりが目立つ。

複雑な歴史を抱えるイスラエル・パレスチナ問題は白か黒かの単純な図式でとらえられない。それをよくわかっているはずの欧州で偏った意見が出てくるのはなぜだろうか。

イスラム文化への脅威

イスラム系移民の大量流入が欧州の価値観を揺らしている可能性がある。国際教養大学の堀井里子准教授は「移民流入がリアルに切迫した問題になっている。特にイスラム教徒がもたらす異文化への脅威から、欧州では右傾化が進み、伝統的なリベラルな価値観が揺らいでいるのではないか」と分析する。

同時に堀井氏はイスラム系移民の欧州社会での影響力拡大にも着目する。「EU各国が政治的にイスラエル支持で一致しても、イスラム系やガザ攻撃に批判的な人々を含め、市民が一枚岩とは言えない」と指摘する。

欧州では移民の大量流入が続く(スペイン領カナリア諸島)=ロイター

欧州へのイスラム系移民の流入は1990年代の旧ユーゴスラビア紛争から本格化した。2010年代の民主化要求運動「アラブの春」やそれに続くシリア内戦で北アフリカ・中東地域が不安定になるとイスラム系移民の流入は劇的に増え、15?16年には欧州移民危機に直面する。EUによる国境管理の強化でいったんは沈静化したが、22年の不法越境者は約33万1500人と前年の1.7倍に再び急増した。ロシアのウクライナ侵攻に伴う深刻な食料不足や物価高が原因とみられる。

23年の不法越境者は1?9月の累計で約27万9300人に上る。前年同期をさらに上回り、16年以降で最高のペースが続く。主要な流入ルートである中央地中海ではギニアやチュニジア、西バルカンではアフガニスタンやシリアの出身者が多い。いずれも人口の大半がイスラム教徒の国々だ。

軍事不均衡ゆえのテロの恐れ

英エコノミスト誌の元エディター、ジョン・アンドリュース氏は「イスラエルとパレスチナ(ハマス)の軍事力には不均衡がある。ドイツやフランス、イタリア、ベルギー、スペインにとってのリスクはイスラエルによるガザ攻撃へのイスラム教徒の怒りがデモにとどまらず、テロにつながることだ」と語る。特に欧州で最大のイスラム人口と最大のユダヤ人口を抱えるフランスでの反ユダヤ主義の台頭に懸念を示す。

イスラエルとハマスの衝突が欧州に飛び火することは防げるのか。アンドリュース氏は「EUにできるのは、ガザとヨルダン川西岸の両パレスチナ自治区により多くの人道支援を供与することだが、EUの対応はここでも混乱を招いた。パレスチナ人の窮状に対する政治的な合意がなされなければ中東は安定しない」と話す。

食料の配給に集まるパレスチナの人々(ガザ地区)=ロイター

03年のイラク戦争前夜、イラクをテロ支援国家として開戦に動く米国に対して、フランスとドイツは大量破壊兵器の査察継続を訴えて自制を求めた。今回の衝突ではイスラエルのヘルツォグ大統領がハマスのみならず、ガザの民間人にも責任があると集団懲罰ともとれる発言をしても、伝統的に人道主義を重視してきた欧州からの目立った反応はない。

当時と今日の大きな違いは2500万人を超えるとされる欧州域内のイスラム教徒の存在だろう。イスラム系移民のインクルージョン(包摂)に苦しんでいる各国にとっては、反移民感情の高まりも、移民の不満も、安全保障に直結しかねない。イスラエルとハマスの衝突が対岸の火事でないのは間違いない。

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