米国、武器生産に7.5兆円 「民主主義支える兵器庫に」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN20D1W0Q3A021C2000000/
『2023年10月21日 5:16 (2023年10月21日 10:11更新)
【ワシントン=中村亮】バイデン米政権は20日、武器生産拡大に向けて500億ドル(7.5兆円)の予算を議会に要請した。第2次大戦でルーズベルト大統領が掲げた民主主義国を支える「兵器庫」構想に回帰し、イスラエルやウクライナ支援を進める。
米ホワイトハウスは20日、総額1059億ドルの緊急予算法案の策定を議会に求めた。シャランダ・ヤング行政管理予算局(OMB)局長は、予算総額のうち国内防衛産業に使う予算が500億ドル以上にのぼると説明した。日本の防衛予算1年分に匹敵し、ウクライナやイスラエルに送る武器を大幅に増産する。
サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は記者団に「米国の安保を推進して米国民の安全を守るために不可欠だ」と話し、議会に早期の可決を訴えた。
武器増産はバイデン大統領の演説を反映する。19日の国民向けテレビ演説で「第2次大戦と同じように国家を愛する米労働者が民主主義の兵器庫(Arsenal of Democracy)をつくり、自由という理念に貢献する」と言及した。
「民主主義の兵器庫」は、ルーズベルト氏が1940年に国家安保への脅威についてラジオ演説をしたときに使った言葉だ。民主主義国を支えるためにナチスドイツと戦う英国に武器を供給すべきだ、などとする考えを示した。演説を受けて、米国で武器の大増産が進んだ。
バイデン政権はウクライナとイスラエルだけでなく、中国による軍事的圧力を受ける台湾向けの武器供給も重視している。需要を満たすには武器増産が不可欠になっている。
米戦略国際問題研究所(CSIS)のマーク・カンシアン上級顧問は10月中旬のリポートで、最も需給が逼迫する武器の一つとして防空システムの「スティンガー」や「アベンジャー」を挙げた。ウクライナとイスラエル、台湾の3者が必要とすると指摘した。
防空システム「パトリオット」の弾薬は在庫にやや余裕があるが、3者の需要が重なると説明した。ウクライナが大量に使う多連装ロケットシステムや誘導弾の増産も必要だ。
イスラエルが使うと指摘されている地下貫通爆弾(バンカーバスター)は特殊な武器のため在庫が少ないと分析した。同爆弾はコンクリートを突き破って地下施設を攻撃できる。イスラム組織ハマスはパレスチナ自治区ガザで巨大な地下トンネル網を築いている。
バイデン政権は中国対処に向けて緊急予算案に潜水艦の生産基盤強化として34億ドルを盛り込んだ。米国は英国とオーストラリアの安保枠組み「AUKUS(オーカス)」に基づき、豪州に最大5隻の攻撃型原子力潜水艦を引き渡すと決めている。
米軍は現時点で攻撃型原潜を約50隻持つ。本来は66隻を必要としており、生産ペースを上げないと実現時期は2050年前後とみられている。豪州向けに一部を振り向けると、66隻への到達はさらに遅れる公算が大きい。
予算法案をめぐる焦点は野党・共和党の協力を得られるかどうかだ。共和党下院は歳出削減を求める声が目立ち、ウクライナ支援に慎重な意見がある。共和党内の混乱で、予算法案を差配する下院議長の空席状態は2週間を超えた。
ルーズベルト氏が「民主主義の兵器庫」を唱えたころも、米議会で外国への軍事支援に慎重な意見があった。それでもルーズベルト氏は1940年の大統領選に勝利し、国民の理解を得て英国などの支援を進めていった。
バイデン氏は21年1月の大統領就任時から外交政策の理念として民主主義防衛を掲げてきた。米社会の分断が進むなか、緊急予算法案の行方はバイデン氏の外交政策の成否も左右する。
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細谷雄一
慶應義塾大学法学部 教授
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ひとこと解説
「民主主義の兵器庫」という、第二次世界大戦参戦に至るアメリカ外交史の重要な用語が、21世紀の現在、アメリカの大統領の言葉から出ることで、歴史の中に現在を位置づける重要性を感じます。この記事で書かれているように、第二次大戦時、アメリカ国内では参戦へと抵抗する強固な孤立主義的な世論から、ルーズベルト大統領は兵器を提供することで、独裁的なナチス・ドイツが勝利しないよう、イギリスのような民主主義諸国を支援しました。議会の動向の予測は困難ですが、第一次世界大戦参戦の契機となったルシタニア号事件で100名を超える米国人死者が生じたように、今回米国民がハマスの攻撃の犠牲になった怒りは大きいと思います。
2023年10月21日 9:29 (2023年10月21日 9:50更新) 』