日本も注視すべき米・サウジ安全保障条約交渉の行方

日本も注視すべき米・サウジ安全保障条約交渉の行方
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/31661

『ニューヨークタイムズ紙は、バイデン政権の重要外交目標は、サウジアラビアとイスラエルの関係正常化であり、関係正常化はアラブ・イスラエル間の緊張を緩和する意味があるのみならず、米国にとっても、サウジアラビアとの関係強化は、サウジアラビアがこれ以上中国に近づかないようにし、中国が中東に影響力を増大させることを牽制する地政学的な意義があるとする解説記事‘Biden Aids and Saudi Explore Defense Treaty Modeled After Asian Pacts’を掲載している。要旨は次の通り。

2022年7月15日、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子とジョー・バイデン米大統領のサウジアラビアでの会談の様子(提供:Bandar Algaloud/Courtesy of Saudi Royal Court/ロイター/アフロ)

 米国は、サウジアラビアと相互防衛条約について協議している。米政府関係者によれば、この条約は日本や韓国と結んでいる安保条約と似たものとなる由であるが、本件はサウジアラビアとイスラエルの国交樹立というバイデン政権の重要外交政策の焦点となっている。

 この条約により、両国は相手国がサウジアラビア国内および域内で攻撃された場合に、軍事的支援を提供することを一般的に約束することになるが、北大西洋条約機構(NATO)条約を除いて日本と韓国との条約は、(米国のコミットメントが)最も強い条約である。しかし、米政府関係者によれば、米軍は、サウジアラビアには日本や韓国の様に大規模な米軍の配置を行わない見込みである。

 米政府関係者によれば、サウジアラビアの事実上の支配者であるムハンマド皇太子は、イスラエルとの国交樹立についてバイデン政権と協議するに際して、この相互防衛条約が最も重要な条件と考えている由である。他方、サウジ政府関係者は、イランと関係を正常化したとはいえ、強力な防衛条約により潜在的なイランやその代理勢力からの攻撃を抑止出来ると述べている。

 さらに、ムハンマド皇太子は、民生用の原子力開発への支援も要求しているが、米政府関係者は、(このサウジアラビアの要求は)イランに対抗する核兵器保有のためではないかと懸念している。

 米政府関係者は、この条約はアラブ・イスラエル間の緊張を緩和する象徴的な意味があり、米国にとっても、サウジアラビアがこれ以上中国に近づかないようにし、中国が中東に影響力を増大させることを牽制する地政学的な意義があるとしている。

 ムハンマド皇太子の相互防衛条約と原子力協力という難しい要求に加えてパレスチナ問題に対してイスラエルの譲歩を求めるという問題もある。ムハンマド皇太子自身は、パレスチナ問題について余り語らないが、父親のサルマン国王は、パレスチナ人の権利に対する強い支持者である。また、米国の一部の中東専門家は、バイデン政権に対してイスラエル政府に政治的勝利を与え、政権を長続きさせるような取引をするべきではないと要求している。』

『上記の記事は、予想以上にサウジアラビア・イスラエルの国交樹立とその前提の米・サウジ相互防衛条約についての交渉が進んでいることを示唆している。そして、米・サウジ相互防衛条約の内容が日米安保条約に近いものになるというのは、サウジ側のイランに対する不安に鑑みれば当然の帰結だが、同時に米国はそこまでコミットしてしまって大丈夫かとも懸念される。

 仮に日米安保条約をひな形とする米・サウジ相互防衛条約が実現するとすれば、日本としても色々と考えないといけない事が生じるかも知れない。まず、日本周辺も緊張が高まっているが、イランを巡る中東情勢の緊張度はその比では無く、何時、大規模武力衝突が起きてもおかしくない。

 もしサウジアラビア・イラン関係で何らかの武力衝突が起き、その際、米国が条約に基づいて武力行使の様な意味のある関与を行わなければ、中東と極東は違うとは言っても、日米安保体制の信頼性に大きなダメージが生じる可能性があるのではないか。

 9月20日にバイデン大統領はネタニヤフ・イスラエル首相と会談し、同21日、コーヘン・イスラエル外相は、4、5カ月後にサウジアラビアとの国交樹立の可能性があると発言した。また、同じく20日、ムハンマド皇太子は、イスラエルとの国交樹立について「日々近づいている」と発言している。サウジアラビア・イスラエル国交樹立は、急速に進んでいる様にも見える。

黙っているとは思えないイラン

 しかし、次の理由から現時点では引き続き懐疑的に見ておいてよいだろう。

第一に、サウジアラビアの同盟国としての信頼性、人権問題に懐疑的な米議会が米・サウジ相互防衛条約を批准するか。さらに、現在、サウジアラビアがロシアと組んで油価を高騰させており、再度、米国の物価を押し上げつつあるが、ロシアと組んで米国の国益に反しているサウジアラビアと相互防衛条約を結べるのであろうか。

 第二に、「イランが核武装すれば」という前提付きではあるが、ムハンマド皇太子は、繰り返し、サウジアラビアの核武装について言及しており、米国は、核武装のおそれのあるサウジアラビアに原子力協力が行えるのか。

 第三に、パレスチナ問題についてサウジアラビアの面子を立てなければならないが、ネタニヤフ首相の極右宗教政権が意味のある譲歩をするのか。

 第四に、サウジアラビア・イスラエルの国交樹立は、イランの対イスラエル戦略的縦深性に大きなダメージを与えるので、イランがこのまま黙ってはいないだろう。米国による70億ドルの凍結資産の解除は、イランを大人しくさせておくことが目的だろうが、イランがそれで大人しくなるとは思われない。』