中東、高まる地政学リスク ガザ完全封鎖で地上戦の恐れ
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR092150Z01C23A0000000/
『【ウィーン=田中孝幸、ドバイ=福冨隼太郎】イスラエルは10日、パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスに対する本格的な報復攻撃に乗り出した。ハマスの拠点など1300カ所以上を空爆し、ガザの完全封鎖を宣言した。中東和平の実現がさらに遠のき、地域の融和に向けた動きが逆戻りしかねない。
「ハマスが経験することは困難でひどいものになるだろう。我々は中東を変えるつもりだ」。ネタニヤフ首相は9日…
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『ネタニヤフ首相は9日、ハマスの奇襲攻撃を受けた同国南部の市長たちに強調した。
同国政府は7日夜の治安閣議で「ハマスの軍事力、統治力を破壊する」と決定した。史上最大の30万人の予備役を動員し、ガザへの水や食料、電気、燃料の供給を断つ「完全封鎖」を狙う。イスラエル軍はガザとの境界に10万人規模の部隊を配備したことを明らかにした。
戦闘による双方の死者数は10日までに1700人を超え、少なくとも11人の米国人の死亡も確認された。イタリアやウクライナも自国民が犠牲になったと発表した。イスラエル軍は同日、ハマスの戦闘員が侵入した同国南部のガザとの境界一帯を制圧下に置いたと発表したが、一部で衝突が続いているとみられる。
今後はイスラエル軍がガザへの地上侵攻に踏み切るかが焦点となる。
米メディアのアクシオスはネタニヤフ氏がバイデン米大統領に地上部隊の投入以外に選択肢はないと伝えたと報じた。ガザで大規模な地上戦に発展すれば兵員の犠牲が拡大し、一般市民や外国人を含む人質の生命も危ぶまれる事態になる。親パレスチナのアラブ諸国の反発も避けられない。
ハマスがイスラエルに奇襲をしかけた7日はユダヤ教の連休中だった。世界有数の情報機関「モサド」を抱える同国政府は攻撃を事前に予見できず、900人を超える犠牲者を出し100人超の人質をとられた。
ハマスによる攻撃の背景には、米国の仲介でサウジアラビアとイスラエルの関係正常化に向けた交渉が進むことへの焦りがあったとみられる。パレスチナ奪還を掲げるハマスは、両国が関係改善に向かうことでパレスチナ問題が棚上げされることに危機感を強める。
イスラエルでは22年12月、対パレスチナ強硬派の極右政党を含むネタニヤフ政権が発足した。テロ組織討伐を名目にパレスチナ自治区ヨルダン川西岸に大規模攻撃を行うなどパレスチナとの関係が悪化していた。
ブリンケン米国務長官はハマスによるイスラエル攻撃について、同国とサウジとの関係正常化交渉を妨害する狙いがあったとの見方を示した。「正常化に反対しているのはハマス、ヒズボラ、イランだ」と指摘した。
地上戦の有無に加え、今回のハマスの攻撃や今後の情勢へのイランの関与も焦点になる。イランはハマスに武器や資金を供与し活動を支援してきた。イスラエルとサウジの接近を避けたい思惑もハマスと一致する。
イラン国営通信によると、同国の最高指導者ハメネイ師は10日の演説で「シオニスト(イスラエル)は自らの行動によってこの厄災をもたらした」と強調した。ハマスの攻撃を「勇敢な行動」とも指摘した。ライシ大統領はハマスの指導者ハニヤ氏と電話し「イランは常にパレスチナの人々の側に立つ」と伝えた。
米政府高官は9日、イランの関与について「決定的な証拠はまだ見つかっていない」と記者団に説明した。攻撃にイランが関わったとすれば米国の同盟国であるイスラエルとの対立は決定的になる。中東情勢の緊迫度は格段に上がり、米軍のさらなる増派も想定される。
ロイター通信によると米軍制服組トップのブラウン統合参謀本部議長は9日、「我々は(紛争が)拡大することを望んでいないという強いメッセージを送りたい」と述べ、イランに情勢への関与を控えるように求めた。
米国防総省は8日、原子力空母ジェラルド・フォードを東地中海に向かわせると発表した。隣国レバノンの親イラン武装勢力ヒズボラが戦闘に参加するのを抑止するため、地域の戦闘機部隊を増強する。米メディアによると、空母打撃群は現地時間10日に東地中海に到着する見通しだ。
中東では近年、イスラエルとアラブ諸国以外にも、中国の仲介によるサウジとイランの外交正常化など和解に向けた動きが続いてきた。イスラエルとハマスの衝突によって融和ムードが後退し、地域全体の対立が再燃する恐れも出てきている。
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上野泰也
みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト
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分析・考察 今後の大まかなシナリオは以下の4つ。
(1)ガザと周辺でのハマスとイスラエルの「地域限定戦争」にとどまる
(2)戦争区域がやや拡大するが基本的には「地域限定戦争」にとどまる
(3)「イスラエルとイランの軍事衝突」に発展するが一時的・限定的
(4)「イスラエルとイランの全面戦争」に発展、世界経済にも悪影響
メインシナリオは(1)。サウジとイスラエル、サウジとイランが関係正常化に動く中、パレスチナ問題の埋没・忘却を恐れたハマスが焦って動いたのが今回の件の本質。レバノンに展開するシーア派組織「ヒズボラ」次第で(2)があり得るが、米欧がイスラエルに自制を強く働きかけ、(3)(4)は可能性が低いとみる。
2023年10月11日 7:30』