【解説】 ウクライナ反転攻勢 ロシア防衛線の突破口を拡大

【解説】 ウクライナ反転攻勢 ロシア防衛線の突破口を拡大
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-66979864

『2023年10月3日

BBCビジュアル・ジャーナリズム・チーム

ロシアに対する反転攻勢をじわじわと進めるウクライナ軍は、南部ザポリッジャ州の前線でロシア軍の防衛線を越え、その突破口を少しずつ拡大している。

ウクライナ各地の戦場における、9月末までの主な情勢は次の通り。

複数のアナリストによると、ザポリッジャ州の前線でウクライナ軍は初めて装甲車を、ロシア側の陣地へと進めた。

東部バフムート周辺では、ロシア軍が精鋭部隊をザポリッジャ州へ移動させた後、ウクライナ軍が少し前進した。

ロシア軍はウクライナ南西部で、ドナウ川の港へのドローン攻撃を継続。ウクライナの穀物輸出を妨害し続けている。

Short presentational grey line

ウクライナの装甲車が前進

ウクライナ軍は8月末に奪還したという南部ロボティネ村の近くで、ロシア軍の防衛線を越え、ここ数週間でその突破口の幅を広げてきた。軍事アナリストたちは、次の大攻勢に向けてウクライナ側が準備をしているのかもしれないと話す。

ザポリッジャ市の南東約56キロにある小さいロボティネ村は、6月初めにウクライナの反転攻勢が始まって以来、重要な拠点となっている。

ウクライナ軍の進軍ペースはゆっくりだが、アメリカのシンクタンク戦争研究所(ISW)のアナリストたちは9月末の時点で、ロシアが設置した対戦車用の溝や「竜の歯」と呼ばれる障壁を越えて、ウクライナ軍が装甲車をロシア陣地に前進させているのを初めて確認したという。場所は、ロボティネに近いヴェルボヴェのすぐ西側だという。

Before and after map showing Russian and Ukrainian positions on 4 June and 21 September which shows how Ukraine has advanced around Robotyne

ISWによると、これは「前進の重要な証拠」だが、確認できるロシアの防衛拠点をすべて通過したわけではないため、ウクライナがロシアの防衛線を完全に突破したとはまだ言えないという。

BBCのフランク・ガードナー安全保障担当編集委員は、この作戦がウクライナの反転攻勢で最も戦略的に重要な部分だと指摘。もし成功すれば、ロシア国内のロストフ・ナ・ドヌからロシア支配下のクリミアまで続く、ロシア軍の補給線を切断することになるという。
これが実現すれば、2014年に併合して以来クリミアに駐留させている大部隊を、ロシアは維持できなくなるとガードナー編集委員は言う。

ただし、ウクライナ軍の前進はこれまでのところロボティネ村周辺に限られているため、部隊がアゾフ海まで到達しロシアの補給線を断てるようになるまでには、まだまだ先は長い。

Map showing the south of Ukraine and how far Ukrainian forced still have to go to reach the Sea of Azov

バフムート攻防

ロボティネ村近くでウクライナ軍が防衛線の突破口を広げようとする間、ロシア軍は援軍をこの地域に送り込んでいる。援軍の中には、他の地域に配備されていた精鋭部隊も含まれている。

イギリス国防省は、ロシア空てい部隊(VDV)の再配備によって、東部バフムート周辺の防衛が手薄になった可能性があると指摘する。バフムート周辺はこの戦争の激戦地の一つ。

バフムートは今年春以降、ロシアの支配下にあるものの、その周辺ではウクライナが少しずつ前進している。イギリス国防省によると、バフムートから南約8キロに位置するクリシュチイヴカとアンドリイヴカの二つの村を、ウクライナ軍が奪還し、足場を固めているという。

Map showing territorial control around Bakhmut and highlighting the villages of Klishchiivka and Andriivka

クリミア攻撃

ウクライナ軍はここ1カ月、クリミア半島への攻撃も強化している。9月22日には、ロシア黒海艦隊が母港とする港湾都市セヴァストポリにミサイルを撃ち込み、艦隊司令部を攻撃した。

この攻撃でロシア軍の将官34人が死亡し、その中には黒海艦隊のヴィクトル・ソコロフ司令官も含まれるとウクライナは主張した。しかし、ロシア政府はその後、攻撃の数日後に撮影されたものだとする映像を公開。そこにはソコロフ司令官が映っていた。

動画説明,

ウクライナのミサイルがロシアの黒海艦隊司令部を直撃した瞬間

ウクライナ軍はこれに先立ち、9月13日にもセヴァストポリをミサイルで攻撃し、軍艦と潜水艦を破壊。黒海艦隊の艦艇補修に使われる乾ドックにも大きな損傷を与えた。

いずれの攻撃にも、イギリスやフランスが提供した長距離巡航ミサイル「ストームシャドウ」が使用されたという。

ウクライナ軍はさらに9月14日には、ロシアがクリミア半島の防衛に設置した防空システムS-400を海軍が破壊したと発表した。

ウクライナ軍は8月末にも別のS-400を破壊したほか、洋上の天然ガス設備に設置されているロシアのレーダーを破壊している。

Map showing locations of four recent significant attacks on Crimea

ロシアの黒海艦隊は、ウクライナにとって重要な標的となる。ロシア海軍の旗艦艦隊と位置付けられており、その艦船からのミサイル攻撃はウクライナに甚大な被害をもたらしてきた。

黒海艦隊はさらに、ウクライナの穀物輸出を阻止するため、海上輸送ルートを封鎖している。これを克服することが、ウクライナ政府にとって目下の大きな課題となっている。

crimea

ロシア政府は今年7月半ば、国連とトルコが仲介したウクライナ産穀物の輸出協定から離脱した。軍艦ではない船舶による黒海の安全航行を保障する協定から離れた理由として、ロシアは自国産の農産物が不利な状態に置かれていると主張した。

ロシアの協定離脱以来、オデーサ港など黒海に面したウクライナの港から穀物を積んで出港できた船はごくわずか。9月22日になってようやく、協定失効後初めて、大型貨物船が穀物を積んでオデーサの南にあるチョルノモルスク港を出港し、1週間後にトルコに到着した。

ドナウ川の港に攻撃

イギリスの農業・園芸開発委員会(ADHB)によると、ウクライナが輸出する穀物の65%が現在、ドナウ川のイズマイル港とレニ港から出荷されている。穀物は川や運河を経て、ルーマニアのスリナ港とコンスタンタ港から黒海へと出る。

ドナウ川の河口から黒海に出る船は直ちにルーマニア領海に入るため、理論上はこの方が安全ということになる。

Map showing ports of Izmail and Reni, on the Danube.

しかし、ロシアはドローンを使ってウクライナのドナウ川港も攻撃している。

ドナウ川はウクライナと、北大西洋条約機構(NATO)加盟国を隔てる国境でもあるだけに、ロシアのこの攻撃は地政学上の不安要素をはらんでいる。ロシアのドローンが少なくとも1回は、ドナウ川を越えて対岸のルーマニア国内イズマイルで爆発した様子が撮影されている。

1年以上続く戦闘

ロシアによるウクライナ侵攻は2022年2月24日未明、ウクライナ各地の都市へのミサイル攻撃で始まった。

数十カ所へのミサイル攻撃から間もなく、ロシアの地上部隊が国境を越えて進み、数週間のうちにウクライナの広い範囲を制圧。首都キーウの近郊までロシア軍は迫った。

ロシア軍はウクライナ北東部ハルキウを砲撃し、東部だけでなく南西部へルソンも制圧。南東部の港湾都市マリウポリを包囲した。

Four maps showing how the situation has changed on the ground since Russia’s invasion.

しかし、ウクライナの人たちは各地で徹底抗戦を繰り広げた。対するロシア兵の士気は低く、食料や水や銃弾が不足するなどロシア軍は補給の面でも深刻な問題に直面した。

2022年10月までに、開戦当初の勢力図は大きく塗り替えられた。首都キーウの制圧に失敗したロシア軍は、ウクライナ北部から完全に撤退した。

開戦から1年半以上がたち、ウクライナは今も続ける反転攻勢によって、戦況を好転させようとしている。

(取材・製作: デイヴィッド・ブラウン、ベラ・ハレル、ドミニク・ベイリー、マイク・ヒルズ、ルーシー・ロジャーズ、ポール・サージェント、アリソン・トロウスデイル、トゥラル・アフメジャデ、クリス・クレイトン、ケイディー・ワーデル、マーク・ブライソン、ゾーイー・バーソロミュー、ショーン・ウィルモット、サナ・ディオニシオウ、ジョーイ・ロクサス、ジェリー・フレッチャー、ヤナ・タウシンスク、デビー・ロワゾウ、サイモン・マーティン、プリナ・シャー)
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地図について

ウクライナのどの部分がロシア軍の支配下にあるかを図示するため、BBCは、米シンクタンクの戦争研究所が米アメリカンエンタープライズ研究所の重大危機プロジェクトと共に毎日公表している、情勢評価の結果を使用している。戦闘によって両軍の位置が変化している場所については、イギリス国防省の最新情報と、BBCの独自取材の内容をもとにしている。

ウクライナ情勢は急変することが多く、最新情勢が記事中の地図に反映されていないこともある。

(英語記事 Ukraine in maps: Tracking the war with Russia)』