韓国映画の苦境 「世界一映画を観に行く韓国人」が自国の映画に見向きもせず…

韓国映画の苦境 「世界一映画を観に行く韓国人」が自国の映画に見向きもせず…日本映画が大ヒットするワケ
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 ※ 「噓っこ」は、もう、たくさんだ…。

 ※ 「事実は、小説より奇なり。」…。

 ※ 現実の方が、よっぽど、「ドラマチック」だ…。

 ※ そうは言っても、「事実」を追いかけているつもりが、それまた「フェイク」と来てるんで、何が何だか…。

『「パラサイト 半地下の家族」(2019年公開)が世界中に旋風を巻き起こしてから3年。実は今、コロナ禍を経て、韓国映画界は衰退の危機にさらされている。韓国映画に代わって、日本映画が大ヒットしている背景を解説する。【韓国コラムニスト/児玉愛子】

【写真】“反日不買の終わり”を感じる韓国公演の盛り上がり 映画「スラムダンク」の主題歌を歌う10-FEET

「すずめの戸締まり」「スラムダンク」が大ヒット

 2019年にドラマ「愛の不時着」で人気を不動のものにした俳優ヒョンビンが主演する「コンフィデンシャル:国際共助捜査」(9月22日公開)と「極限境界線 救出までの18日間」(10月20日公開)が日本でも話題を呼びそうだ。

 実はこの2作品、韓国国内での興行成績の明暗が分かれた。単に「面白い」「つまらない」が理由ではないという。韓国人の映画に対する感覚がコロナ前とは大きく変わったのだ。その点を解説する前に、韓国の劇場の今年の観客動員数を見てみよう。

 もともと、自国の映画が人気だった韓国だが、今年は韓国映画の興行成績が振るわない。現時点での観客動員数を見るとトップ10作品のうち韓国映画は3作品。観客動員数が1000万人を超えたのはマ・ドンソク主演の「犯罪都市3」だけだ。これは異常事態といえる。
【2023年 観客動員数】

1.犯罪都市3(韓)1,068万人
2.マイ・エレメント(米)720万人
3.すずめの戸締まり(日)554万人
4.密輸(韓)513万人
5.スラムダンク(日)474万人
6.ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME3(米)420万人
7.ミッション:イン・ボッシブル/デッドレコニング PART ONE(米)402万人
8.コンクリート・ユートピア(韓)382万人
9.アバター:ウェイ・オブ・ウォーター(米)349万人
(前年からの累計では1,080万人)
10.オッペンハイマー(米)313万人
(2023年9月22日現在)

 4位の「密輸」は70年代が舞台の作品で、当時の大衆歌謡が流れるなど、中高年世代の懐かしさをそそったが、ヒットの要因のひとつに俳優チョ・インソンの存在もあるという。

 チョ・インソンといえば、ヒョンビンと同じく2000年代に人気の絶頂期を迎えた“イケメン俳優”だ。兵役を終えてからは“演技派俳優”への転身が成功した。この夏、Disney+で配信中の“第2の「イカゲーム」”ともいわれるドラマ「ムービング」に出演し、一気に注目度が高まった。チョ・インソン目当てに「密輸」を観に行った女性ファンも少なくないはずと断言する韓国人もいた。

 8位の「コンクリート・ユートピア」は日本でも人気のイ・ビョンホンやパク・ソジュンが出演。24億円もの制作費をかけた大作映画だが「密輸」には及ばなかった。それでも損益分岐点を超えたのだからまだいい。今は多くの韓国映画が苦戦し、スポンサーが手を引いている状況なのだから。

コロナ禍での鑑賞料金の値上げが大きく影響

「極限境界線救出までの18日間」

『極限境界線救出までの18日間』ⓒ2023PLUSMENTERTAINMENTWATERMELONPICTURESALLRIGHTSRESERVED.10月20日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷 他にて全国公開(他の写真を見る)
 韓国映画界が不況に陥った理由を現地で聞いてみると、やはりコロナ禍での生活習慣の変化が大きな要因だったといえる。

 コロナ前の韓国といえば“映画”が一番身近な娯楽で、人々はよく劇場に足を運んでいた。年間の映画鑑賞回数は日本が1.5回なのに対し、韓国は世界最多の4.3回。いかに映画が人々の日常生活に定着していたかが分かる。

 ところがコロナ禍には話題の大作が次々とネットでの配信を決めるなど、状況が一変した。それまで劇場に足を運んでいた観客も家で気軽に映画を観られる環境に慣れてしまった。

 そんな中、シネコン最大手が鑑賞料金の値上げを行った。チケット代はコロナ禍の前より100~500円高くなり、映画不況を加速させた要因という指摘もある。

 物価も上昇しており、家族で映画を観に行き、外食もするとなったら家計の負担は大きい。以前なら「何か面白そうな映画を観に行こうか」と作品を決めずに劇場に行っていた世代も、最近は、高いお金を出してまで駄作は絶対に観たくないと考えている。映画好きの民族もついに映画を選んで観に行くようになったという。

 そんな中でも選ばれたのが日本の「すずめの戸締まり」や「スラムダンク」になるわけだ。』

『日本映画は本当にヒットしたのか!?

 今年1月に韓国で公開された「スラムダンク」は瞬く間にヒットした。原作を知る中年世代が子どもたちを連れて劇場に行き、映画で初めて「スラムダンク」を知った子どもたちまでもが魅了された。そして、グッズも飛ぶように売れた。

「すずめの戸締まり」の新海誠監督も韓国では人気が高い。監督自身が大の“韓国ツウ”として知られ、韓国の映画ファンから愛されている。

 この2本が韓国でヒットしたことは間違いないが、実際に座席が観客で埋め尽くされたのは公開されてから2ヶ月ほどの間だったという。それ以降はチケットの売れ行きに反して「劇場はガラガラだった」という声もある。その原因は、特典付きチケットにある。

 日本映画をよく観るという韓国人女性がスマートフォンで見せてくれたのは、「すずめの戸締まり」や「スラムダンク」の特典グッズの数々だった。チケット購入の際に特典としてもらえるグッズには、クリアファイルやポスター、キーホルダーだけでなく、中には“新海誠本”なる冊子もあった。

 ファンなら特典付きチケットを買わない手はない。チケットさえ購入すれば特典をもらえるため、映画は観ないという人もいるのだろう。こうしたサービスは日本の映画のみならず、ハリウッド映画にも多く、そのためチケットの売れ行きと実際の観客数は必ずしも一致しないという。

「知っている味だから美味しいと分かる」

 この秋、日本で公開されるヒョンビンの主演映画は2本とも大作だ。

「コンフィデンシャル:国際共助捜査」は大ヒットした前作「コンフィデンシャル/共助」(2017年)の続編だ。昨年韓国で公開されると、前作に続き約700万人を動員した。

 一方、10月に公開予定の「極限境界線 救出までの18日間」は2007年にアフガニスタンで実際に起きた韓国人拉致事件をモチーフにしたアクション大作だ。タリバンとの粘り強い交渉の末、21人の人質が解放されるまでを描いている。いかにも韓国人が好きそうなテーマで期待されていたにもかかわらず、興行成績は芳しくなかった。コロナ前だったら確実にヒットしていたのではないか。

 なぜ「コンフィデンシャル」がヒットして、「極限境界線」は受け入れられなかったのか。この点を何人かの韓国人に聞いてみると、ほぼ同様の答えが返ってきた。

「知っている味だから美味しいと分かる」

 これは韓国の女優が使ったたとえだそうだ。今年ヒットした「犯罪都市3」と同じく、ヒョンビン主演の「コンフィデンシャル」も大ヒット作の続編で、前作を観た人々が続編にも期待して劇場に足を運んだのだという。

 昨年、韓国では映画サイトの口コミについて、“逆バイラル”疑惑が浮上した。逆バイラルとは意図的に悪意の口コミを広める行為のことで、映画投資会社がそうした手段でライバルとなる作品の評価を下げたのではないかと指摘されたのだ。もはや口コミも信用できないからこそ、確実に楽しめるであろう大ヒット作の続編を観に行く。

 このような劇場離れで興行不振が続く韓国では、投資会社が次々と制作から手を引く事態に陥っている。日本でもコロナ禍で人々は映像作品をネット配信で観ることに慣れてしまった。そんな状況にもかかわらず、TOHOがチケットの値上げをしている。隣国で起きていることは他人事ではない。チケット代の値上げがボディブローのように効き、日本でも劇場離れが加速するかもしれない。

 元々、韓国人より劇場に行く回数の少なかった日本人だ。「知っている味だから美味しいと分かる」はおろか、「知っている味だから食べなくても分かる」となる可能性もゼロではない。

児玉愛子(こだま・あいこ)

韓国コラムニスト。韓流エンタメ誌、ガイドブック等の企画、取材、執筆を行う韓国ウオッチャー。新聞や雑誌、Webサイトで韓国映画を紹介するほか、日韓関係についてのコラムを寄稿。

デイリー新潮編集部 』