イタリアの将来を左右するEU復興基金活用の行方

イタリアの将来を左右するEU復興基金活用の行方
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/31511

『フィナンシャル・タイムズ紙の9月6日付社説‘Italy risks wasting its cash windfall’が、イタリアの欧州連合(EU)の復興基金による支援パッケージの履行状況は合意された時刻表から大きく遅れているが、イタリアは復興基金の資金を是非有効に活用すべきであると論じ、そのためにはEUと合意して支援パッケージの計画を改定することが理にかなっていると指摘している。要旨は次の通り。

 イタリアはEUの復興基金から総額1915億ユーロを受け取ることになっているが、現在のペースで行くと、イタリア政府は2026年半ばの締め切り期日までにEUの資金の4分の1しか消費出来ないかも知れない。国内総生産(GDP)の144.4%の債務を抱えるイタリアにとり、貴重な機会を逃すことになる。

 イタリアは21年当時の首相マリオ・ドラギの下で復興基金による支援パッケージに同意したが、そこには長期的な経済成長を押し上げるための重要な構造改革と並んで、摩耗する物理的インフラとデジタルのインフラを強化する計画が含まれていた。

 しかし、イタリア政府は合意された時刻表の速度を維持することに失敗した。イタリアは22年末までに400億ユーロを使うことが予定されていたが、その60%未満を何とか使ったに過ぎない。その多くは建設とデジタル化のための優遇税制に使われた。

 しかし、実際の投資プロジェクトとなると、今までのところ少額である。計画全体の527の目標のうち118を達成したのみで、追加的なトランシェの受取りは遅延している。

 イタリアがその当初の計画を完遂し得る唯一の道は欧州委員会が締め切り期日を延長する場合であろうが、それはありそうにない。計画を改定することの方がより理にかなっている。

 メローニ政権はEUに計画の「是正」を既に送付した。それは都市再生を含む幾つかの公共投資を取り止め、その資金をエネルギー・インフラおよびビジネスと家計のためのグリーンの優遇税制に振り向けるものである。これらの分野に民間セクターを通じてより多くの資金を投入することは理にかなっている。

イタリアのジョルジア・メローニ首相(ロイター/アフロ)

 メローニは幾つかの構造改革に手加減を加えることも望んでいる。改革はイタリアの公的債務を持続可能なものとする上で有用な生産性の向上を支援するように考えられている。これらの約束を撤回することは間違いである。構造改革が対処しようとしている課題こそ、イタリアが長年EUの資金を使い消化する能力を欠いて来た原因だ。

 イタリアはEUの復興基金の成功を判断する上での指標である。イタリアと一緒に計画を作り直すことがEUの利益にかなう。EUの第三の経済規模のイタリアで起きることは欧州経済とその金融の安定にとって重要である。

 イタリアは、この支援パッケージを浪費するようなことがあれば、経済的憂鬱から近いうちに立ち上がることは困難となろう。』

『メローニ政権の発足当時から、EUの復興基金からの巨額の支援資金を有効に利用してイタリア経済を成長軌道に乗せることが出来るかには懸念が持たれていたが、投資と改革は、イタリアがドラギの時代にEUと合意した時刻表から大幅に遅延している。

 これまでにイタリアが受け取った資金は総額1915億ユーロのうちの2回のトランシュの669億ユーロであるが、メローニ政権になって初めてとなる3回目のトランシェ190億ユーロのディスバース(22年後半に予定されていた)は大幅に遅延していた。

 最近になって185億ユーロに減額して秋にはディスバースされることとなった。遅延の原因はイタリアが約束した7500人の大学生向けの寮の建築の義務を果たしたか否かがブリュッセルとの間で争いとなったためらしい。

 そういう状況にあるので、26年半ばの期限までに支援パッケージをやり遂げ、総額1915億ユーロの残余の資金を受け取れるのかが心配される状況のようである。大統領のマッタレッラまでが、EUの資金を完全に使い切ることに失敗すれば、それは一つの政府ではなくイタリアにとっての敗北であると心配を口にしている。

成果はEUの今後にも影響

 上記の社説は、支援パッケージの計画を改定するしかないと言っている。メローニ政権は、ドラギから引き継いだ計画には深刻な欠陥があるとして、欧州委員会に大幅な改定――メローニ政権は「是正」と称している――を申し入れている。

 例えば、160億ユーロの公共投資を取り止めることを提案しているが、そのうち130億ユーロが地方政府が実施を担うプロジェクトであるのは、地方政府の能力に問題があることが理由のようである。そもそも巨大な公共投資はイタリアの労働事情、レッドテープ(官僚的煩雑さ)、行政能力に鑑みれば非現実的だったのかも知れない。

 だとすれば、メローニ政権が望むように、優遇税制により、民間セクターを通じてより多くの資金を投入することも一つの解決策なのであろう。

 また、メローニ政権は累積する裁判事案あるいは脱税のような構造改革の課題の目標を引き下げようとしているらしいが、これらの課題は競争力に直結する長年放置されて来た問題であり、ここに手をつけることは間違いであろう。

 いずれにせよ、イタリアが復興基金の資金を成功裡に活用し得るか否かはイタリアにとっての問題にとどまらない。イタリアは復興基金の資金規模の3割近くの支援を得る最大にして圧倒的な受益国である。その成功・不成功はEUの共通債券の発行による経済の回復と変革を目指すEUの先例のない事業の重要な評価基準となるであろう。』