プーチン氏、裸の王様 「衰えるロシア」に冷たい視線

プーチン氏、裸の王様 「衰えるロシア」に冷たい視線
本社コメンテーター 秋田浩之
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD157R60V10C23A9000000/

『ウクライナへの侵略を続けるプーチン・ロシア大統領は、依然として自分は優れた指導者だと信じているようだ。西側諸国と対等に張り合おうとする言動からも、そんな思いがうかがえる。

だが、プーチン政権は侵略によって、友好国からも距離を置かれつつある。それに気づかないとすれば、裸の王様だと言わざるを得ない。

瓦解したソ連と似た道

辛辣に聞こえるかもしれないが、「裸の王様」は筆者の表現ではない。対ロ政策にかか…

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『対ロ政策にかかわる旧ソ連の外交ブレーンは最近、取材にこう語った。

「旧ソ連圏の国々がロシアに従ってきたのは、軍事力が大きいからだ。だが、ウクライナの状況から、ロシア軍は強くないと分かってしまった。ロシアは裸の王様だと我々は感じている」

モスクワからも冷めた声が漏れる。「(ウクライナ侵攻は)行き詰まっている」。欧州政府関係者によると、最近、ロシア政府や議会の要人とそれぞれ非公式に話した際、こんな言葉を聞いたという。それほど驚く発言ではないが、私的なやり取りとはいえ、ロシア要人が外部に本音を漏らすのは異例だろう。

プーチン氏は9月13日、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記をロシア極東の宇宙基地に招き、夕食も交えて5時間以上もてなした。ロシアは太平洋艦隊などにも金正恩氏を迎え入れ、その様子がメディアに流れた。

ロ朝の結束を宣伝すれば、ウクライナや西側諸国を揺さぶれると思ったのだろうか。だが、北朝鮮に頼らなければならないほど、ロシア軍の弾薬や砲弾が足りないことを印象づけた。

ロシアの前身であるソ連は米ソ冷戦中、社会主義陣営を束ねる帝国だった。ところが1979年にアフガニスタンに侵攻し、約10年間の戦いに敗れる。国力をすり減らした末、ソ連は91年12月に瓦解してしまった。

プーチン氏はいま、似たような道を突き進んでいる。このままいけば、ウクライナ侵略は「ロシア帝国」の衰えを決定づけた歴史の節目として刻まれるだろう。

中央ア5カ国の不安

侵略は、ロシアの大国としての地位を深く傷つけている。いちばんわかりやすいのがカザフスタンやウズベキスタン、キルギスなど中央アジアの5カ国だ。

旧ソ連圏であるこの地域を、ロシアは裏庭とみなしている。ところが中央アジアは今春以降、プーチン氏が怒り狂う行動に出ている。ウクライナ問題で中立を保つだけでなく、ロシアが敵対する米国と交流を深めているのだ。

中央アジア5カ国は2月、ブリンケン米国務長官をカザフに迎え、外相会合を開いた。さらに5カ国首脳とバイデン米大統領は9月19日、初めて会談し、定期協議の枠組み「C5プラス1」を首脳級に格上げした。

背景にあるのが、ウクライナ侵略への反発と不安だ。カザフの非政府組織(NGO)が5月上旬、この戦争について国内で世論調査をしたところ、ウクライナ支持ないし「中立」の立場が約8割だった。ロシアによるカザフ侵略を恐れる人も15%と、前回(2022年12月)からほぼ倍増した。

むろん、縁が深いロシアから、中央アジアが決別するわけではない。対独戦勝をロシアが祝う5月9日、5カ国首脳はモスクワで顔をそろえ、記念式典と軍事パレードに出席した。

だが、内情を知る中央アジアの外交専門家は明かす。「5カ国の首脳は内心、ロシアの軍事パレードには行きたくなかった。侵略を支持したと誤解されかねないからだ。クレムリンから個別に強く誘われ、仕方なく出席した」

他の地域でも、プーチン氏の外交力は弱り気味だ。7月下旬、ロシア北西部サンクトペテルブルクであったロシア・アフリカの首脳会議では、首脳の参加が49カ国中、17カ国にとどまった。前回(19年)の43カ国から激減である。

向こう見ずな行動の危険

そこで気になるのが、こうした苦境がロシアの行動にもたらす影響だ。ロシアの隣国ジョージアで9月4〜5日、地域情勢などを話し合う「トビリシ国際会議」が開かれた。西側諸国や現地の政治家や識者が集まり、ウクライナ支援の強化に加えて、国力が衰えるロシアの将来も焦点になった。

プーチン氏の後に、もっと強硬な指導者があらわれても不思議ではない。彼の後継者争いでロシア内が混乱し、内戦リスクが生じる恐れもある……。こんな趣旨の見方が飛び交った。

もはや、失うものは少ないと思えば、ロシアはより向こう見ずな対外行動に走る危険がある。軍事圧力やサイバー攻撃、情報・政治工作を強め、西側諸国をさらにかく乱しようとするだろう。

ジョージアのテド・ジャパリゼ元外相は語る。「ロシアは、国力が衰えることへの焦りと大国のプライドの両方を抱いている。この複雑な感情が極まれば、より発作的で危ない行動に出かねない。西側諸国はロシアに圧力を強める一方で、プーチン政権中枢との意思疎通も大事になる」

アンデルセンの童話「裸の王様」では、服を着ずに行進している王を見て、子供が「王様は裸だ」と叫ぶ。王も自分は裸だと悟るが、引くに引けず、さらに威張ってパレードを続けた。

プーチン氏は早くウクライナから退くべきだ。それができなければ、本当に裸の王様として後世に記憶されるだろう。』