金正恩氏、米中に疑心 防空・拒否権に照準

金正恩氏、米中に疑心 防空・拒否権に照準
編集委員 峯岸博
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD130U00T10C23A9000000/

『およそ4年半ぶりにロシアで再会したプーチン大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記。この間、プーチン氏の求めに応じて金正恩氏がロシアに接近したのは、米国と中国という大国への疑心が差し迫ったものになったからだ。

前回は2019年4月にロシア極東ウラジオストクで会った。このときは金正恩氏がプーチン氏に駆け寄った。直前の2月にハノイで開いた2回目の米朝首脳会談でトランプ政権の強硬な非核化要求に…

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『直前の2月にハノイで開いた2回目の米朝首脳会談でトランプ政権の強硬な非核化要求に直面し、それまで袖にしていたロシアを利用しようとした。

プーチン氏は北朝鮮が主張する段階的な非核化を支持し、制裁と圧力路線を維持する米国をけん制した。

プーチン氏「あらゆる面で連携を拡大」

今回、擦り寄ったのはプーチン氏だった。国際社会で孤立する窮地にあり、軍事支援を頼れる数少ない国として北朝鮮に目を付けた。

北朝鮮建国75年の9月9日に金正恩氏に祝電を送ると「75年前、ソ連は朝鮮の地の新しい独立国家を最初に承認した」と当時の「主従関係」に言及。「私は今後も両者があらゆる面で連携を拡大すると確信する」との言葉に、プーチン氏のいまの苦境が映る。

さかのぼれば、北朝鮮の核開発の基礎を築いたのは旧ソ連だ。ソ連崩壊後に仕事を失った科学者らを北朝鮮は高級アパートや高級車ベンツを提供するなど破格の待遇で招き入れた。

金正恩氏の専用機もロシア製だ。少し前までは米領グアムを射程に収める中距離弾道弾「ムスダン」や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)といった北朝鮮の最新兵器はいずれも旧ソ連製の改良型だった。

いまや北朝鮮がロシアに砲弾などの弾薬を供与しようという立場に転じた。米政府はロシアが北朝鮮に軍事支援を「懇願した」と分析している。

米軍の空母や最新鋭兵器を恐れる

北朝鮮はこれまで「ロシアに武器や弾薬を提供したことはなく、今後もそうする計画はない」と主張してきた。「ロシアと同一視されれば、西側諸国から軍事行動の標的にされかねない」(北朝鮮の関係筋)との判断があった。

しかし、金正恩氏は8月の朝鮮労働党の会議で兵器の大量生産を本格化するよう指示した。接近を強めるロシアへの武器輸出の推進が念頭にあると受け止められた。

ロシアとの関係を深めるメリットを見いだしているからだ。まずは金正恩氏が21年に示した国防5カ年計画にロシアの後押しを求め、日米韓3カ国の圧力に対抗する。

北朝鮮は日米韓が進める安全保障協力を「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」と非難している。特に米軍の原子力空母や最新鋭の戦闘機・爆撃機が参加する米韓・日米韓の合同演習を極度に恐れる。空からの攻撃への防御網に致命的な欠陥を抱えているからだ。

その監視に向けた初の軍事偵察衛星の打ち上げは、5月、8月と2回連続で失敗した。改修のメドが立たないうちに「次は10月」と早々と宣言した金正恩氏は焦っている。

拍車をかけるとした原子力潜水艦の建造も含めて、北朝鮮の独自開発だけではハードルが高い。それだけに、ロシアが世界に誇るロケットや宇宙分野の先端技術は魅力的だろう。
金正恩氏の訪ロには、軍の実力者のほか、軍事偵察衛星や潜水艦、砲弾などの生産部門のそれぞれ幹部も随行しているとみられる。プーチン氏がウラジオストクでなく、ボストーチヌイ宇宙基地を会談場所に選んだのは、金正恩氏の意向をくみ取ったからにほかならない。

中国全面依存から脱却へ

北朝鮮は軍事・エネルギー大国であるロシアの国際的孤立を、新型コロナウイルス禍で深まった中国への全面的な依存と対外政策を立て直す好機ともとらえている。

「中国に近づきすぎると生殺与奪の権を握られる」とのDNAが金一族3代に受け継がれている。北朝鮮の関係筋は「われわれが1990年代の第1次核危機から、その時々の局面で米国や日本など周辺大国との対外交渉を渡り歩いてきた背景に、中国への警戒感がある」と明かす。

冷戦時代、中国とソ連の間での「振り子外交」は北朝鮮のお家芸だった。建国の父、故金日成主席はソ連と中国に確執が生じたのをみて、それぞれに接近と離反を繰り返す等距離外交を展開。両国から食料や兵器の支援を引き出してきた。

中国の影響下入りを嫌う孫の金正恩氏も、父である金正日総書記の死去後、すぐに祖父の統治スタイルをまねてロシアに接近した。中国に頼っていた燃料がロシアから安価で流れ、外貨獲得を目的とした労働力の海外輸出先も半数近くをロシアが占めるようになったといわれる。

米中合意にらみロシアを「保険」に

そんなロシアも北朝鮮が2000年代半ばから核実験の実施など核開発を加速させると、中国とともに国連の北朝鮮制裁決議の輪に加わるようになった。

現在、ウクライナの激しい抵抗を受けるロシアは窮地にたたされている。その危機を北朝鮮は当初から利用しようとしてきた。国連総会が採択したロシアへの非難決議では反対票を投じたのをはじめロシア擁護の姿勢を一貫して続けている。

ロシアは国連安保理の常任理事国で拒否権を握る。そのカードを、北朝鮮は後ろ盾である中国から再び裏切られた場合の保険とみなしているようだ。独裁国家の結託で、世界はさらに不安定になりかねない。』