G20、首脳宣言とりまとめ苦慮 ウクライナ巡り溝

G20、首脳宣言とりまとめ苦慮 ウクライナ巡り溝
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『20カ国・地域(G20)が閣僚会合などの成果のとりまとめに苦慮している。ウクライナ情勢を巡って西側諸国とロシアや中国との分断が深まり、意見調整が進まないためだ。9~10日にインドの首都ニューデリーで開くG20首脳会議(サミット)で全会一致の首脳宣言を採択できるかは見通せない。

8月19日、インド南部ベンガルールで開いたG20のデジタル経済相会合。インドのバイシュナウ電子・情報技術相は閉幕後に「デ…

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『インドのバイシュナウ電子・情報技術相は閉幕後に「デジタル公共インフラのコンセプトと適用で合意した」と成果を力説したが、共同声明は採択できなかった。

声明の取りまとめにあたり、ウクライナ侵攻を非難する内容にロシアが「G20の権限に合致しない」と反発したためだ。中国も反対にまわった。

代わりに公表した「成果文書」にはデジタル技術の整備や人材開発に向けた協力など「一致した」事項を列挙した。

ウクライナ情勢に関する「相違がある」部分については議長国の裁量でまとめる「議長総括」であると明記した。

会合では西側諸国を中心にロシアを非難する声が上がり、ロシア側の反論にも時間を割いた。

出席した河野太郎デジタル相は「ウクライナだけでなく、各国のスムーズなデジタル分野での連携にも影響が出ている」と指摘した。

G20は世界の国内総生産(GDP)の8割を占める先進国と主要新興国が一堂に会し、世界経済を取り巻く課題を協議する場として発足した。

ウクライナ侵攻後は全体一致の成果を出せなくなり、国際協調の枠組みとしての意義が揺らいでいる。

2022年2月にウクライナ侵攻が始まって以降、同年のインドネシア開催を含めG20の閣僚会合は共同声明を見送り続けている。今年の議長国インドもこれまで19回の主要会合で声明をまとめられず、全体合意が必要ない議長総括を連発している。

主要7カ国(G7)はかつてロシアを含む「G8」だったが、14年にクリミア半島を一方的に併合したロシアと西側諸国の対立が決定的となり、同年にロシアが脱退した。

一方、G20は現議長国のインドも24年に議長国を務めるブラジルも米欧のロシア制裁に加わっておらず、対ロシアの姿勢は西側と温度差がある。

22年11月のG20サミットでも西側諸国と中ロ、中立を貫く新興国の主張が交錯し、首脳宣言の調整が難航した。

議長国インドネシアはウクライナ侵攻について「ほとんどの国が強く非難した」と明記する一方、「他の見解および異なる評価があった」と併記することでなんとか宣言の採択にこぎ着けた。

ロシアと友好関係を維持するインドの外務省高官は首脳宣言のとりまとめにあたり「インドがカギとなる役割を果たした」と胸を張った。

だが議長国がインドに移った今年2月のG20財務相・中央銀行総裁会議では対立が再燃し、共同声明を出せなかった。

前年サミットの首脳宣言を踏襲した内容にもかかわらず、ウクライナ侵攻を巡る文言に中ロが反発した。両国は「サミット時とは状況が違う」と主張した。

京都大学大学院の鈴木基史教授は「ウクライナ侵攻の長期化で全体の合意形成がより難しくなっている」とみる。「(中国やインドなど5カ国による)BRICSが拡大するなど代替会合の場も増え、中ロにとってG20の重要性が相対的に落ちている。G20は岐路に立っている」と指摘する。

9日に開くG20サミットはロシアのプーチン大統領が昨年に続き欠席を表明。

昨年は参加した中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席も出席を見送った。

インドは首脳宣言のとりまとめに意欲を示すが、中ロ両首脳が不在の会議で各国の意見を擦り合わせられるかは不透明だ。

08年の米首都ワシントンでの初回会合以降、G20サミットでは毎回首脳宣言を採択してきた。食料・エネルギー価格の高騰や気候変動など世界経済を取り巻く課題が山積するなか、分断の固定化を避けて一致した解決策を示すための知恵が必要だ。

(千住貞保、ムンバイ=花田亮輔)

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前嶋和弘
上智大学総合グローバル学部 教授
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ひとこと解説 ウクライナ侵略以後のG20は中露の反対で常にまとまらない状況が今後も続くと思います。一方、中露がいないG7の方は一気に復権。広島G7サミットの方はまとまらない国連安保理以上の結束力。
2023年9月8日 7:07 (2023年9月8日 7:23更新)
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柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
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分析・考察 そもそも何のための集まり?

侵略者を批判することすらできなければ、世界の平和と繁栄を守ることができない。

FTAのような自由貿易を推進するための枠組みでもない。

本来、首脳たちの集まりは価値観を共有できて、利益も一致する。いろいろな問題について議論して、問題の解決に向けて努力するための集まりである。

ある意味では、G20の存在意義はほとんどなくなったといわざるを得ない。
2023年9月8日 8:11 』