サウジ・イスラエル関係正常化を目指すも前途多難な米国

サウジ・イスラエル関係正常化を目指すも前途多難な米国
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/31326

『米バード大学教授で米ウォールストリート・ジャーナル紙コラムニストのウォルター・ミード教授が8月14日付の同紙に掲載された論説‘Biden’s New Approach to the Middle East’で、バイデン政権はイランに対抗するためにアラブとイスラエルの和解に基づく中東の安全保障体制の構築策というトランプ政権時のプランを復活させようとしているが、多くの難問がある、と指摘している。要旨は次の通り。
(Ruma Aktar/gettyimages)

 バイデン政権は、イランに対して5人のアメリカ人人質に60億ドルの身代金を提案し、イランの仇敵サウジアラビアに対してはイスラエルとの関係正常化を説得するために前例のない安全保障上の保証と民間レベルの核開発への協力を提案している。

 このバイデン政権の新たな対中東政策は二つの考えに基づいている。一つはバイデン政権が核開発問題についてイランとの何らかの合意を諦めていないということ、もう一つは、バイデン政権が米国の世界戦略における中東の重要性と域内の大国サウジとイスラエルに対する評価を改めたことである。そして、中東で米国が覇権を有することは中国のエネルギー供給に対してレバレッジを与え、中東の政府系投資ファンドが中国などではなく米国のハイテクや産業に投資することを保証し、米国の防衛産業に優位を与える。

 バイデン政権はイスラエルとサウジの外交関係および安全保障面での協力が中東の新たな安全保障構造の基礎となることにようやく気がついたのだ。これにより米国の中東での軍事プレゼンスの必要性を減らしつつ米国の核心的な利益を長期的に守れる。サウジとイスラエルに「イエス」と言わせることは難しいだろうが、成功すれば画期的な出来事である。

 最大の障害はイランである。米国が後ろ盾となってイスラエルとサウジが連携した地域の安全保障構造を自国の域内覇権への直接の脅威とイラン側は必然的に考えるだろう。そして、イランは、いつでも中東で危機を引き起こす力がある。濃縮ウランの生産を加速させ、ペルシャ湾内で船舶を攻撃し、代理勢力にミサイル攻撃やテロを命じることも出来る。バイデン政権は、イランの敵対勢力と協力して強力な地域的な安全保障体制を構築するまでの間、飴と鞭でイランを大人しくさせようとしているように思われるが、うまく行くのか。

 さらにパレスチナ問題がある。パレスチナ人の影響力は低下しているが、パレスチナ問題が消えたわけではない。サウジの世論も建前上サウジ政府もパレスチナ問題を否定するような合意をイスラエルと結ぶことを認めないであろう。逆に、ほとんどの歴代イスラエルの政権はいかなる譲歩も頭から拒否してきた。

 しかし、米国の支援の下でのアラブ・イスラエル間の和解に基づくというトランプ前政権時代の中東の安全保障プランの復活は、新しい創造的な中東外交の扉を開くであろう。そうなれば大変結構な事だ。

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 ミード教授のこの論説は大変興味深い。論説は、最近、バイデン政権がイスラエルとサウジの関係正常化に躍起になっているのは、イランの脅威に直面するペルシャ湾岸アラブ産油国の安全保障を、米軍の代わりにアラブ・イスラエルの和解を通じて実現しようとするトランプ政権の構想の焼き直しであると指摘する。この指摘は正しい。』

『そして、最近、バイデン政権が米国人人質の解放と交換に米国の対イラン制裁による60億ドルの資金の凍結解除を行う一方で、戦闘機の増派、米海兵隊のペルシャ湾内を航行する商船への同乗を進めており、この構想が実現するまでの間イランを大人しくさせるための飴と鞭だというのも、恐らくその通りであろう。

 しかし、そうは簡単に問屋が卸すだろうか。ミード教授も、イランの反発、米国内の反対、サウジ・イスラエル関係正常化に際してのパレスチナ問題の扱いなどを指摘している。まず、パレスチナ問題については、最近、サウジがパレスチナ問題担当特使を新たに任命したのは、サウジがパレスチナ側の落とし所を探ろうとしているためかも知れないが、ネタニヤフ首相が率いるイスラエルの極右宗教政権が、パレスチナ問題についてサウジ側の面子が立つような譲歩を行えるのであろうか。しかも、バイデン大統領とネタニヤフ首相、ムハンマド皇太子の2人との関係が最悪であることも、仲介者としての米国の役割をかなり制約しよう。

そのアイデアは美しいが……

 そしてイランの反発が最大の問題であろう。8月18日にイランの外相がサウジを訪問し、ムハンマド皇太子と会談したが、早速、イラン側がサウジにイスラエルと関係正常化しないように釘を刺したことは容易に想像出来る。また、イスラエルとペルシャ湾岸のアラブ諸国が一致してイランの脅威に対抗するというアイデアは美しいが、具体化するには時間が相当かかるであろう。それまで間、凍結資金の解除や米軍の増派のような飴と鞭でイランを抑え込め続けられるとは思えない。

 バイデン政権は外交交渉によるイラン核合意再開を諦めていないが、イラン側には交渉する気はないと見られる。数カ月前、オマーンでの核合意再開のための秘密交渉がリークされたが、その後、全く続報がない。イラン側が濃縮ウランの濃度を下げたとかいう報道が最近出たが、これが何らかの進展を示唆しているのか。イラン側の何らかの戦術の可能性も高い。

 そう考えると、バイデン政権の本音は、ともかく来年の大統領選挙までペルシャ湾で問題が起きないようにするための時間稼ぎであり、サウジ、イスラエル、イランもバイデン政権の弱みにつけ込んで、取れるだけのものを取っておこうとしているだけの狐と狸の化かし合いではないだろうか。』