豪州、与党労働党「オーカス」支持にくすぶる懸念
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『オーストラリアで米英との安全保障の枠組み「AUKUS(オーカス)」を巡り懸念が浮上している。与党労働党は8月、政権交代後初めて開いた党大会で、白熱した議論の末にオーカスへの党内の支持をまとめた。だが党内部でもオーカスで進める原子力潜水艦配備に関わる巨額投資や軍備拡張競争を不安視する声は根強く、今後の配備計画の火種となる可能性は残る。
「アイ(Aye)!」、「ノー!」。8月中旬、約2000人の労働党員などが集う豪州東部ブリスベンの会議場で、賛否の声が響き渡った。白熱する議論の中心にあったのが、オーカスだ。
豪州は3月、米英との原潜配備計画を発表した。配備に関連する費用は今後30年で3680億豪ドル(約34兆円)とされる。巨額投資を巡り、キーティング元労働党政権首相が費用対効果を疑問視する発言をするなど、反対の声も相次いでいた。
党大会は労働党が3年に一度開催する豪州で最大の政治集会だ。今年は8月17?19日に、22年5月の総選挙で労働党政権に交代してから初めて開かれた。党のマニフェストをまとめた党綱領案をもとに進行し、必要に応じて代議員が修正を提案する。
重みを持つ労働党党大会の決定
労働党の党大会は他の政党の集会と異なる重みをもつ。労働党大会での採択事項は連邦議員を含む全党員を拘束し、与党である立場から国の政策にも影響する。こうした強い拘束力をもつのは豪州で労働党のみだ。
1984年に開催された党大会ではウランの採掘を当時操業していた3鉱山のみに認めるという決議が採択された。豪州はウランの埋蔵量で世界最大だ。だが党議拘束を背景に労働党政権もこの方針を採用し豪州では長らく新規のウラン開発が滞った。
8月の大会で提示された党綱領案は、初めてオーカスに言及し「我々の自立した防衛政策は、オーカスを含む強力な二国間および多国間関係によって強化される」と記した。これに対し、一部の代議員が「オーカス」を削除する動議を提出したほか、賛成・反対派それぞれの代議員が決議案を提示した。
反対派のある代議員は壇上で「これが国益を守る最善の道なのか。3680億豪ドルは適切な値段なのか」と訴えた。別の代議員も「核が増えるほど危険な世界になるのが怖い」と同調した。核のごみをどう処理するかについて懸念する声もあった。
一方、賛成派は中国の軍拡を背景に原潜配備が抑止力に不可欠だと強調した。コンロイ国際開発・太平洋相は「オーカスが軍拡を促すという人もいるが、我々の目の前で既に地域の軍拡は始まっている」と危機感をあらわにした。アルバニージー首相は「オーカスは我々から何も奪わない。成熟した国家の選択だ」と支持を求めた。
与党内対立、原潜の配備計画に火種
議論の末、採択された決議では、オーカスや原潜に言及したうえで、地域への雇用や経済へプラスの影響が及ぶことも明記した。原潜の建設に地元の労働者が関与するとも強調した。支持基盤の労働者に配慮したもようだ。
強い党議拘束に鑑みると、今回の党大会での決議は今後、労働党政権が原潜配備計画を実行するうえで追い風だ。一方、巨額投資がもたらす財政負担や核のごみ処理を巡っては依然として不透明感が強い。くすぶる不信感が将来の火種につながらないよう、政権には丁寧な説明が求められる。
(シドニー=今橋瑠璃華)
[日経ヴェリタス2023年9月3日号掲載]』