ニジェールのクーデターで危機に瀕する米仏のアフリカ政策
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/31166
『米ワシントン・ポスト紙の7月29日付け社説‘Why the Niger coup matters — and what the U.S. should do about it’は、ニジェールのクーデターを認めてはならず、大統領が復権しなければ、欧米は対イスラム過激派と戦うための軍事支援や開発援助などを停止すべきである、と主張している。要旨は次の通り。
タチアニ将軍の支持者が呼びかけた行進に参加する(写真:picture alliance/アフロ)
ニジェールのバズム大統領は現在、大統領官邸に監禁されており、その警護隊長であったチアニ将軍が、自ら新たな国家元首であると宣言した。この非道な権力奪取を許すことはできず、ブリンケン国務長官がバズムへの揺るぎない支持を表明し、この違法な政権奪取を非難したことは正しい。
米国は、無人機基地を含む約1100人の部隊をニジェールに駐留させており、同国軍がイスラム武装勢力と戦うのを支援している。米国はまた、非軍事的な対外援助として数億ドルを提供している。クーデターの首謀者は、バズムが大統領の座に返り咲かない限り、米国の支援が打ち切られることを知る必要がある。
ニジェールはウラン資源に恵まれているが、世界で最も貧しい国の1つだ。同国は、他の周辺国と同様に軍による政治介入の歴史がある。近隣のマリやブルキナファソでも最近、クーデターによって民主的な政権が倒された。その表向きの理由は、ニジェールのケースと同様で、文民指導者がイスラム主義反乱分子を厳しく取り締まることができず、住民に安全をもたらすことができないためとされる。
ニジェール人の多くがこのクーデターを支持しているとの報道は憂慮すべきだ。さらに懸念されるのは、一部のクーデター支持派がロシアの国旗を掲げ、マリで活動しているワグネルの支援を求めているという報道だ。ワグネルはマリでフランス軍に取って代わり、非戦闘員の虐殺を含む人権侵害で非難されており、ニジェールは同じ運命を避けるべきである。
政権を掌握したと主張する将軍たちが直ちに兵舎に引き揚げ、民主的に選ばれたバズムが全権を取り戻さなければ、米国とニジェールのパートナーシップやこの国にとってのあらゆる利益が今や危機に瀕することになる。欧州連合(EU)はすでにニジェールへの資金援助と安全保障援助を停止しており、ブリンケンは米国も同様の措置を取ると警告している。
米国は、民主的指導者を武力で追放することはできないという原則を守るべきである。バズムが完全な支配権を取り戻すまでは、ニジェールとの関係はこれまで通りという訳にはいかない。
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ニジェールは、米国にとり、サヘル地域でのイスラム過激派と戦うためのいわば最後の砦だ。フランスにとっては、加えて原子力発電用のウランの供給地であり対アフリカ政策の戦略上の重要拠点ともいうべき国だ。今回のクーデターは、両国のアフリカ政策にとって危機的な状況である。
マリやブルキナファソのように、米軍、仏軍が撤退した後にワグネルが入り込み影響力を拡大することになれば、イスラム過激派対策への不安が生じる。また、ロシアがこの地域を牛耳ることになるので、フランスやEU諸国へのウランの供給に支障が出る恐れもある。』
『ニジェールではクーデター支持派の住民がロシア国旗を打ち振る画像がニュースで何度も放映され、この地域へのロシアの影響力拡大を認識させた。米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報官は、クーデターの背後にロシアが関与した兆候は見られないとの見解を述べたが、疑問である。
マリにおいてもワグネルによるSNSなどによる事前の情報操作により反仏感情を高めたことが仏軍の追放につながったとされる。
ニジェールでは、既にこのクーデター以前にも、フランスがニジェールの富を搾取しているとか仏軍はイスラム過激派対策に役に立たないなど、やや不自然なまでに反仏的国民感情が煽られており、マリから撤退したフランス軍の受け入れを決めたバズム大統領に対し、4月には市民団体を名乗るグループが物価の上昇や大統領の統治能力の欠如と合わせて反政府抗議活動を繰り広げていた状況があった。
西アフリカ地域15カ国で構成する地域機関の西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)は、緊急首脳会議を開き、一週間以内にバズム大統領の権力が回復されなければ武力の行使を含む必要な措置をとると声明した。これに対し、クーデター政権は応ずる構えはなく、また、マリとブルキナファソの共同声明ではニジェールへの軍事介入は両国に対する宣戦布告とみなされると警告した。クーデター勢力とマリ、ブルキナファソの間には連携があるようだ。また、ワグネルはクーデターを歓迎しているという。
ひとまず様子見の米国
米国としては、民主主義を守る立場から譲れないところであるが、矛先はフランスに向いていること、空軍基地の維持の問題もあり、援助の停止や経済制裁を行えば、ますますニジェールをロシア側に追いやるだけであるので、前面に出ずにECOWASの圧力にクーデター勢力がどう反応するのかをとりあえず見守っているのであろう。
ニジェール軍内部の動向は分からないが、クーデター勢力がバズム大統領の復権に応じない可能性は高く、他方、ECOWASが全面的に軍事介入するかは疑問である。米国が、単に軍事援助と政府開発援助(ODA)を停止し、更には経済制裁を行えば、軍事政権はロシアに頼り、ロシアの影響力が増すという悪循環が繰り返される可能性が高い。
米国としては、ECOWASの努力を支援するとともに、単に没交渉ではなく軍事政権と何らかの形で対話を続け近い将来の民政移行をコミットさせ、そのプロセスをECOWASと共に監視しつつ、人道援助などは継続するといった選択も考えなければならないのではないか。』