スウェーデンとフィンランドのNATO加盟、そして日本への影響

スウェーデンとフィンランドのNATO加盟、そして日本への影響
https://kaiyoukokubou.jp/2023/08/19/nato-sweden-finland-japan/

『目次

両国の加盟でNATOは戦力強化
ロシアにとっては戦略的大失敗
バルト海が「NATOの湖」に
極東のロシア海軍が増強される?

両国の加盟でNATOは戦力強化

2022年2月に始まったロシア=ウクライナ戦争ですが、その理由のひとつとして言われているのが、ウクライナのNATO加盟を阻止したかった点。

ウクライナが加盟すれば、NATOはロシア本国に隣接することになるため、これ以上の「東方拡大」を防ぎたかったのは事実でしょう。

しかし、この戦争の影響でそれまで中立だったスウェーデンとフィンランドが新たにNATO加盟国となりました。では、この両国の加盟はどのような結果をもたらすのか?

まず、両国とも武装中立政策を支えてきた相応の軍事力を持っており、独自開発を含む高性能兵器が揃っています。スウェーデンはグリペン戦闘機やアーチャー自走砲に見られるような高い軍事技術を誇り、フィンランドは規模に比して砲兵戦力が充実していて、予備役を合わせて30万人まで動員可能です。

したがって、この2カ国の加盟はNATO全体の軍事力はもちろん、従来の弱点とされていたバルト方面の強化にもつながると期待されています。
ロシアにとっては戦略的大失敗

ロシアとしては自身の愚かな行為が結果的にNATOの軍事力強化を後押ししたわけですが、特に1,300kmの国境線で隣接するフィンランドの加盟は歴史的に見てもロシアの大失策です。

今まで北端でノルウェーと少しの国境しか接していなかったロシア本国ですが、この国境線はフィンランド加盟によって約6.6倍まで伸び、しかも多くの核戦力を配置しているコラ半島に隣接しています。

通常戦力でNATOに劣るロシアは、核戦力を死活的問題と捉えており、ウクライナで陸軍を激しく損耗させた現在はなおさらです。

その核戦力が多くあるコラ半島の近くまでNATOが迫り、同半島に通じる幹線道路・鉄道の「R21」はフィンランド国境と並行しているため、有事で補給線が寸断されやすくなりました。

また、フィンランドはロシアの第2都市「サンクト・ペテルブルグ」に近く、人口500万人の主要都市から400kmの地点にNATOが迫ったのを意味します。

こうした事態を避けるためにロシア帝国とソ連はフィンランドを侵略したり、最低でもソ連寄りの中立を維持させてきたのですが、この数世紀にわたる努力をプーチン大統領がぶち壊しました。

一応、プーチン大統領は両国のNATO加盟についてはそこまで問題視しておらず、この公式反応に基づけば、ウクライナ侵攻の主原因がNATOの拡大阻止というのは辻褄が合いません。

どのみち、今回の一件はどのように捉えても、ロシアの戦略的大失敗と言わざるを得ません。
バルト海が「NATOの湖」に

先ほど、スウェーデンとフィンランドの加盟でNATOのバルト方面が強化されると述べましたが、これはロシアにとっては以下の2つを意味します。

①カリーニングラード(飛び地)の完全孤立化
②バルト艦隊の無力化

第二次世界大戦でドイツに勝利したソ連は旧東プロイセンを領土化してカリーニングラードとしました。しかし、ソ連崩壊でバルト三国が独立した結果、「飛び地」としてバルト三国とポーランドの間に取り残されます。

孤立した領土となった一方、これはNATOの横っ腹に刺さったトゲのようなもので、ロシアもここにバルト艦隊(あの日露戦争のバルチック艦隊)を集結するなど、それなりの戦力を配置しました。

いざという時には、ロシア本国と飛び地でバルト三国を挟み撃ちにして、短期間で占領するつもりだったそうです。

ところが、スウェーデンとフィンランドの加盟でバルト海は「NATOの湖」となり、貴重な飛び地の完全孤立化を招きました。

もし、バルト三国への侵攻に動けば、バルト海を挟んで配置されたNATO戦力(航空機やミサイル)も参戦して海上・航空優勢を奪われ、挟撃するどころではなくなります。

そして、肝心のバルト艦隊は少しでも動けば、たちまちNATO側の対艦ミサイルや潜水艦の餌食になります。つまり、スウェーデンとフィンランドの加盟は、ただでさえ封じられ気味だったバルト艦隊を事実上「無力化」させたのです。
極東のロシア海軍が増強される?

では、今回のNATO拡大は日本にどのような影響があるのか?

まず、国際秩序に挑戦したロシアに対して、NATOが抑止力を高めるのは同じ西側陣営の日本としては歓迎すべきでしょう。そして、NATOの戦力強化が欧州地域の安定化につながり、アメリカが少しでも対中国にシフトできれば、日本の国益にも合致します。

このように日本にとって基本的には好ましいものの、ひとつ懸念されるのがバルト艦隊の無力化を受けたロシアが太平洋艦隊に力を入れること。

バルト艦隊がほぼ存在意義を失ったので、ロシアは代わりに別方面の海軍戦力を強化するかもしれません。そうなると、北方艦隊もしくは極東の太平洋艦隊が有力ですが、太平洋艦隊の強化は対中国に忙殺される海上自衛隊の負担を増やすので避けたいところ。

とはいえ、ウクライナ侵攻で一線級の陸上戦力を失い、膨大な戦費と経済制裁に苦しむロシアは海軍に注力する余裕がありません。

どのような形で終わるにせよ、戦後ロシアは疲弊した経済と陸軍再建を優先せねばならず、海軍は後回しになるはずです。』