米とイラン、核協議再開探る 制裁緩和・囚人交換で調整

米とイラン、核協議再開探る 制裁緩和・囚人交換で調整
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『【ワシントン=中村亮】米国とイランは関係修復を探る。両国は囚人交換とイラン保有資産の一部凍結解除で最終調整に入った。バイデン米政権はイランの核開発を制限する多国間協議の再開に向けて布石を打つ。中東で一定の影響力を維持する狙いだ。

米国家安全保障会議(NSC)は10日の声明で、イランの刑務所で拘束されてきた米国籍の5人が自宅軟禁に移ったと明らかにした。解放に向けた前進を示し「最終的な解放に向けて交渉は続いており機微に触れるものだ」と言及した。

イランのバゲリ外務次官は囚人交換に加え、米国はイラン資産の凍結解除に応じると説明した。米紙ニューヨーク・タイムズによると、イランは韓国にある約60億ドル(8700億円)の資金を使えるようになる。

NSCのカービー戦略広報調整官は11日、イランとの協議は続いているとしたうえで「資金は軍事転用ができない食料や薬、医療物資の調達にだけ使える」と記者団に話した。カタールで資金を管理し、米国が使途を厳しく監視すると強調した。

60億ドルは韓国政府が原油購入のために支払う予定だったもので、米国の制裁により凍結されていた。イランは違法に差し押さえられた資金だとして支払いを繰り返し求めてきた。

イランの外務省報道官は14日の記者会見で「囚人交換や資産凍結の解除は核合意と直接関係ないが、互いに影響する可能性はある」と指摘した。

米国とイランは数週間をかけて囚人の交換や資産凍結の解除を進める見通しだ。両国は国交を持たず、オマーンやカタールなどを介して交渉を重ねてきた。

米国とイランの間接交渉では、イランがウラン濃縮度を60%以下に下げる方針で一致したとされる。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルはイランが保有する濃縮ウランの一部で合意を履行したと報じた。

イランは米制裁の長期化で国内経済が疲弊しており、さらなる関係悪化を食い止めたい考えだ。拘束者の解放や核開発で一部譲歩する姿勢を見せ、米国側の出方を見極めるとみられる。

米英とフランス、ドイツ、ロシア、中国の6カ国は2015年にイランと核開発制限を定めた核合意をまとめた。だがトランプ前政権は18年に一方的に合意から離脱。イランへの経済制裁を再開した。イランの資金源である原油輸出を断ち切るため、同国と取引した外国の金融機関にも米金融機関との取引を禁じた。

21年に発足したバイデン政権は核合意の再建を目指した。再建交渉は一時妥結に近づいたが、イランが米国の再離脱を警戒して暗礁に乗り上げた。22年には核合意に加わったロシアがウクライナ侵攻を開始。ロシアと米欧との亀裂は決定的となり、従来の枠組みでの再建はさらに遠のいた。

米国の離脱に反発したイランは核合意で制限されたウラン濃縮活動を加速した。米国家情報長官室は3月公表の年次報告書でイランが最大90%までウラン濃縮を進めるシナリオに言及した。濃縮度90%は核爆弾の製造が可能な水準と位置づけられる。

22年12月にはイスラエルでネタニヤフ氏が首相に返り咲いた。ネタニヤフ氏はイランに対して武力行使を排除しない構えだ。イランは核爆弾を保有する方針はないと公言するが、イスラエルの懸念は根強く、米国が対応を迫られている。

対立が続いていたイランとサウジアラビアは3月、中国の仲介により外交正常化に合意した。バイデン政権はイランとの核協議再開を通じて中東の安定に関与し、同地域で存在感を増す中国に対抗する狙いがある。

とはいえ、バイデン政権がイランとの歩み寄りに使える手段は少ない。イスラエルメディアによると、同国首相府は「イランの核関連インフラを解体しない取り決めは核開発計画を止めず、イランが支援するテロ集団に資金提供するものでしかない」と言明した。

60億ドルの利用をイランに認めるバイデン政権を非難するものだ。バイデン米大統領は秋に米国でネタニヤフ氏と会談する計画だが、イラン問題で協調を打ち出せるかどうかは見通せない。

米国内では野党・共和党もバイデン政権を批判する。マイケル・マコール下院外交委員長は13日、FOXニュースのインタビューで資産凍結解除に関してイランのテロ行為や核開発を後押しすると主張し「過去の誤りに回帰する」と唱えた。

24年11月の米大統領選に向け、共和党はバイデン政権がイランに弱腰だとの批判を強めていく公算が大きい。

米国はイランがウクライナ侵攻を続けるロシアを軍事支援していると非難してきた。バイデン政権はイランに弱腰と受け取られるとウクライナや欧州から批判を浴びるリスクをはらむ。

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鈴木一人
東京大学 公共政策大学院 教授
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分析・考察

バイデン政権は就任以来、トランプ政権時代に進めた対イラン制裁を緩和し、イランを核合意に戻すことを目指してきたが、タイミングを逸してイランでは保守政権が生まれ、交渉が難しい状況であった。しかし、イランの保守政権も制裁が継続されている状態は望ましいものではなく、どこかで妥協しなければならないという認識を持つようになったのだろう。反ヘジャブ運動で保守政権への批判が高まり、さらに経済が好転しないとなると、政権運営が難しい状況になる。高齢のハメネイ師の後継をどうするかという問題もでてくるため、ライーシ大統領はイデオロギー的に強硬な姿勢をとり続けることも難しくなっていると思われる。
2023年8月15日 18:43

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上野泰也
みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト
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ひとこと解説

このタイミングで米・イラン間で緊張緩和を模索する動きが進んでいることに、少なからず驚かされた。イランはロシアとの軍事協力を強化。同国製ドローンは対ウクライナ戦でロシアにより多数使用されており、ロシア国内にイランがドローン製造工場を建設中との報道も6月に流れた。イランはBRICSへの加盟申請も行っている。米国のバイデン政権がそうしたイランと関係を改善するとなると、多方面から批判をされやすい。それでもイランの核兵器保有を未然に防ぎ、イスラエルも含めた中東情勢の安定化を図ることに、バイデン氏は国益を見出しているのか。あるいは経済的に苦境に立たされているイランが、米国との妥協をより強く欲しているのか。
2023年8月14日 14:27 』