NATO事務総長の補佐官、領土放棄とNATO加盟の交換が解決策になると発言
https://grandfleet.info/european-region/nato-secretary-generals-aide-says-renunciation-and-exchange-of-nato-membership-will-be-the-solution/#comment_headline
『NATO事務総長の補佐官は15日「(ウクライナとロシアの戦争について個人的に)ウクライナが領土の一部を放棄し、その見返りとしてNATO加盟を受け取ることが解決策になると思う」と発言、これに対してウクライナ側は「馬鹿げた提案だ」と反発している。
参考:Åpner for at Ukraina avgir territorium i bytte mot Nato-medlemskap
参考:Разговоры о вступлении в НАТО в обмен на отказ от территорий неприемлемы – МИД
参考:У Зеленского отреагировали на идею НАТО об отказе Украины от территорий
参考:Территориальные уступки Украины от НАТО: Данилов назвал это “странным вбросом”
幾つかの国から一部の領土を放棄してはどうかという提案があると明かしたNATO事務総長の補佐官
本題に入る前に「NATO拡大の経緯」と「ウクライナだけNATO加盟から取り残された理由」を振り返っておく。
出典:Péter Antall – Antall-család archive/CC BY-SA 3.0 ヴィシェグラード・グループ
ソ連解体に伴って独立を回復した中・東欧諸国はEUやNATOへの加盟を希望、特にポーランド、ハンガリー、チェコスロバキアは加盟に不可欠な改革に向けてヴィシェグラード・グループを結成、1994年の米議会選挙で「積極的な拡大」を主張する共和党が勝利したため、1996年にクリントン政権も外交政策の一部に「NATO拡大」を取り入れたが、ロシアのエリツィン大統領やコズイレフ外相は「NATOの拡大はロシアの安全保障に対する脅威だ」と反発、しかしロシアが見せる積極的な軍事介入は中・東欧諸国にNATO加盟を後押しすることになる。
エリツィン大統領率いるロシアは次々と周辺国に軍事介入(1991年にグルジア内戦、アブハジア紛争、1992年にオセチア・イングーシ紛争、1994年に第一次チェチェン紛争、1999年に第二次チェチェン紛争)を行い、これは中・東欧諸国に「旧ソ連時代の記憶」を思い出させ「NATO加盟」を加速させるための動機となり、2020年までにチェコ、ハンガリー、ポーランド、ブルガリア、エストニア、ラトビア、リトアニア、ルーマニア、スロバキア、スロベニア、アルバニア、クロアチア、モンテネグロがNATO加盟を果たしたものの、この流れにウクライナだけは乗り切れなかった。
出典:Patrickneil / CC BY-SA 3.0
ウクライナは他の中・東欧諸国よりも早くNATOと「平和のためのパートナーシップ(PFP)」を締結、さらに関係を強化するためNATO・ウクライナ委員会を設立したが、2000年のカセットスキャンダルで「制裁下だったイラクに対する高度な防空機器の移転」や「ジャーナリストの拉致・殺害」が発覚したためクチマ政権と欧米との関係は極端に悪化してしまい、イラク戦争にウクライナ軍を派遣して部分的な関係改善に成功したものの、NATOとの関係を完全修復するには至らなかった。
オレンジ革命後に政権の座についたユシチェンコ大統領は「NATO加盟」を明確に打ち出し、これを多くのNATO加盟国も支持したが、国内では野党が加盟に反対、200万人以上の国民がNATO加盟の是非を問う国民投票実施を要求、2008年に実施された国民投票で過半数を僅かに上回る国民(57.8%)が加盟を支持したものの、依然として加盟に反対する国民も多く、NATOはウクライナとジョージアに対する同盟への招待を見送ることを決定、スヘッフェル事務総長は「最終的に両国はNATOに加盟するだろう」と付け加えたが、この発言から4ヶ月後に南オセチア紛争が勃発。
出典:Yana Amelina/CC BY-SA 3.0 南オセチア紛争に投入されたロシア軍のT-72
メルケル首相が「ウクライナに対する加盟行動計画(MAP)の開始がロシアの侵攻を誘発する」と考えたかどうかは不明だが、この辺りからドイツはウクライナのNATO加盟に否定的な発言が増え、これをメドヴェージェフ大統領が支持、2010年の選挙で勝利したヤヌコビッチ大統領も「現在のNATOとの協力関係は必要十分で加盟を急ぐ必要性はない」と主張して加盟手続きの動きは停滞したものの、ユーロ・マイダン革命でヤヌコビッチ大統領が失脚すると再び動きが慌ただしくなってくる。
ロシアはヤヌコビッチ政権が崩壊して権力の空白が生じると直ぐにクリミア侵攻を開始して一方的に併合、ウクライナ東部のドンパスでも現地のロシア系住民を支援して暴動を起こさせ、ロシア軍を密かに派遣してウクライナ軍との戦闘を支援し、ドネツク州とルハンシク州で傀儡国家の樹立に成功してしまう。
出典:Генеральний штаб ЗСУ
これが2022年のウクライナ侵攻に繋がっていくのだが、2014年の時点でウクライナはロシアと交戦状態なので「NATO加盟手続き」を進めるには「法的にロシアとの戦争状態を終結させる」というプロセスが必要になり、今直ぐウクライナがNATOに加盟出来ない原因はここにある。
そのためゼレンスキー大統領は「ロシアとの戦争終結後にNATOに加盟できるというシグナル=加盟手続きの開始を意味する『同盟への招待』だけでも今直ぐ確約して欲しい」と要求しているのだが、7月のNATO首脳会議で採択された文言は「全ての加盟国がウクライナの加盟に同意し、条件が満たされている場合にのみNATOに招待する」という内容で、加盟国はウクライナの加盟条件から加盟行動計画(MAP)を除外することで合意。
出典:NATO
これにより通常なら何年もかかる加盟行動計画(MAP=加盟候補国を同盟基準と一致させるための政治及び軍事な改革プログラム)をウクライナは除外されるため、ロシアとの戦争が法的にも終結したと加盟国が認めればウクライナのNATO加盟手続きは通常より迅速に処理されるものの、満たすべき条件が何なのか定義されておらず、ウクライナが戦争終結後に同盟からの招待を確実に受け取れるのかも確約されていない。
ここからが今回の本題なのだが、ノルウェーで開催されたパネルディスカッションでNATO事務総長の補佐官を務めるイェンセン氏は「(個人的に)ウクライナが領土の一部を放棄し、その見返りとしてNATO加盟を受け取ることが解決策になると思う」と発言、パネルディスカッションを主催した現地メディアは「これはNATOの公式な見解なのか?」と質問すると「ウクライナの戦後の地位については既に議論が行われており、幾つかの国から一部の領土を放棄してはどうかという提案がある」と回答。
出典:Jens Stoltenberg
さらにイェンセン氏は「必ずしもそうしなければならないと言っているのではないが、領土の放棄と引き換えにNATO加盟を手に入れるというアイデアは実行可能な解決策かもしれない」と付け加えており、ウクライナ外務省は「領土と引き換えにウクライナがNATOに加盟するという話は絶対に容認できない」と、ポドリャク大統領府顧問も「NATOの傘と領土を交換するなんて馬鹿げている。これは民主主義の喪失、国際的な犯罪行為の助長、プーチン体制の維持、国際法の破壊、次世代の人間に戦争を押し付けるという選択だ」と反発。
ポドリャク大統領府顧問は「ロシアが戦いに破れ、政治体制が刷新され、この戦争を引き起こした人間が処罰されない限り、戦争はロシアの欲望ともに必ず再発する。ハッキリ言えばロシアへの譲歩は世界に平和をもたらすどころか新たな戦争を呼び込むだけだ」と指摘、国防安保委員会のダニロフ氏も「私の知る限り非常に奇妙な提案で、なぜこんな発言が飛びしたの理解に苦しむ」と述べている。
出典:Рада національної безпеки і оборони України
イェンセン氏はNATO事務総長の補佐官であり、この発言はNATOの公式見解ではなく「イェンセン氏の個人的な意見」という形だが、幾つかの国から一部の領土を放棄してはどうかという提案があるという発言はNATOの表面的な結束を毀損するものなので絶対に物議を醸すはずで、ロシア人が必ずプロパガンダに利用してくるだろう。
因みにポーランドのドゥダ大統領は「定期的にウクライナへ妥協を求める国々」に向けて「ロシアとの妥協に領土を譲歩する用意がある指導者はウクライナの代わりに自国領を差し出し、ウクライナがドネツク、ルハンシク、クリミアを取り戻せばい」と主張している。
関連記事:ウクライナメディア、NATO加盟に関する文言にはウクライナの即時招待がない
関連記事:ポーランドが領土放棄をウクライナに迫る国に提案、自国領をロシアに渡せ
※アイキャッチ画像の出典:pixabay
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投稿者: 航空万能論GF管理人 欧州関連 コメント: 10 』
『 n
2023年 8月 16日
返信 引用
国家を分割するのであれば
1 最も現実的な案として、現在の占領地域に基づき国家を分割(ロシア占領地域はロシアに譲渡)
2 民意重視な案として、2004年ウクライナ大統領選挙(ユシチェンコvsヤヌコーヴィチ)の地域別得票結果に基づき国家を分割(もう20年前なので気が変わった人もいるでしょう)
2の派生として、一時停戦し西側とロシアと中立的な第三国の徹底的な監視下で選挙を実施して、それによる最新の民意を反映して国家を分割(脅迫などの不正対策が難しい)
3 歴史を顧みて東部地域はスターリン、クリミアはフルシチョフの失策として、クリミアのみをロシアに譲渡する
現実的ではない案として
4 ウクライナの理想、クリミアを含む全土奪還
5 ロシアの理想、ウクライナ全土の併合もしくは親ロシア傀儡政権化
57.8%と42.2%を同じ国家でまとめるのは現実的ではないので、今後の安定した政治のためにはどこかで分割するしかないでしょうね
親欧米政権と親露政権が交互になってどちらからも信用されなくなったのが今のウクライナですから一貫して親欧米の国家と親露の国家に分断するのが一番安定する
具体的にどこで分割するのが難しいところ
雑に分割するとロシアが有利すぎて、西側は言い方はあれですが何の価値もない地域を押し付けられることになる
チェルノブイリがあるのは親欧米地域、価値のある農業地帯や工業地帯は親露地域にあります 』