ウクライナ 難航する反転攻勢

ウクライナ 難航する反転攻勢 蔓延する徴兵逃れと汚職 冷めるアメリカ世論の支援熱 – 孤帆の遠影碧空に尽き
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『 【難航する反転攻勢】
ウクライナの反転攻勢が進展しているのかどうか・・・よくわかりませんが、6月段階でゼレンスキー大統領が「ハリウッド映画とは違う」と過度の期待を戒めているように【6月22日 読売】、その後もロシア軍の強い抵抗にあってウクライナ及び支援国が期待していたよりは難航しているのは間違いないようです。

****反転攻勢「非常に困難」 ゼレンスキー氏「後退はしない」****

ロシアの侵攻を受けるウクライナのゼレンスキー大統領は8日、領土奪還に向けた反転攻勢について「望んでいたよりも遅く、全てが非常に難しい」との見解を示した。その上で「後退はしない。主導権はウクライナが握っている」とも述べた。地元メディアが報じた。

米CNNテレビは8日、今後数週間でウクライナ軍が劇的に局面を好転させる可能性は非常に低いとの欧米高官の見立てを伝えた。外交官の一人は「ロシア軍は多くの防衛線を築いている。(ウクライナ軍は)第1防衛線を突破していない」とした。

ウクライナ軍高官は地元メディアに対し、南部ザポロジエ州の拠点メリトポリ方面とアゾフ海に面するベルジャンスク方面で攻撃を続け、既に第1防衛線に到達したと主張。前進を続けているものの地雷の影響や戦闘機不足により、進軍が遅れていると説明した。(後略)【8月9日 共同】

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****ウクライナ軍、反転攻勢は「一定の成功」…ロシア軍精鋭部隊の一部は撤退か****

ウクライナの国防次官は14日、ロシア軍への大規模な反転攻勢を展開しているウクライナ軍が南部ザポリージャ州一帯の戦線で「一定の成功を収めている」と述べ、進展を強調した。米紙ニューヨーク・タイムズも12日、ウクライナ軍が南部の二つの戦線で「戦術的に重要な前進を果たした」と評した。

ウクライナの国防次官は記者会見で、アゾフ海に面した港湾都市マリウポリやベルジャンシク奪還への足がかりとなるドネツク州南西部ウロジャイネ周辺での戦果に触れた。

ウロジャイネは、反攻の起点ベリカノボシルカから約10キロ・メートル南方にあり、露軍が地雷原や塹壕ざんごうなどで強固な防御陣地を構築している。露側幹部は13日、集落の北側を奪還されたことを認めた。

露軍の補給拠点メリトポリを目的地とするザポリージャ州西部の戦線でも起点のオリヒウから約13キロ・メートル南にあるロボティネから露軍精鋭部隊の一部が撤退したとの情報がある。

ウクライナ軍南部方面部隊の報道官は13日、地元テレビで、露軍が占領している南部ヘルソン州ドニプロ川東岸コザチラヘリ一帯で拠点確保に向けた作戦を実施したことを明らかにした。

ただ、ウクライナ軍が奪還を目指す拠点都市に年内到達するのは困難との見方が出ている。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは13日、ウクライナ軍の進軍ペースが遅いため、米欧諸国が来年春の反攻に向けた支援策の検討を開始したと報じた。

ニューヨーク・タイムズは最近、ウクライナ軍兵士の死傷者数が15万人を超えたとの推計を伝えており、ウクライナ側の人的犠牲も膨らんでいる。【8月14日 読売】

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なかなか厳しい状況が感じられます。

【蔓延する徴兵逃れと汚職】

そうしたなかで膨らみ続けるのが兵士の損耗。上記記事では“ウクライナ軍兵士の死傷者数が15万人を超えた”とありますが、ウクライナにしても、ロシアにしても“士気”にかかわるこういう数字はあまり発表しないので、正確なところはわかりません。

多く見積もる数字では“退役米陸軍大佐のダグラス・マグレガー氏は、ウクライナ軍の累積戦死者数を約30万~35万人、戦傷者等を合わせた損耗は約60万~80万人に達したと見積もっている。”【8月3日 矢野 義昭氏 JBpress】といった数字も。少し多すぎるような気もしますが・・・。

いずれにしても多大な犠牲者が出ているのは間違いありません。
ウクライナ国民については「祖国防衛」「領土奪還」に向けた強い意思がよく報じられていますが、これだけ死傷者が増えれば、自分の命について真剣に考え、戦争へのためらいが出ても何ら不思議ではありません。(出ない方が不思議でしょう)

****偽装離婚や子供の水増し…ウクライナ“徴兵逃れ”の実態 前線の女性兵士が語る決意【報道1930】****

第2次世界大戦後、最大の戦争となったウクライナ戦争。ロシア、ウクライナ両国の死傷者の合計は35万人を超えたとも伝えられる。そんな中、両国内で徴兵逃れが後を絶たない。大義の無い戦争に強制動員されるロシア国民が海外へ脱出するなど徴兵を逃れようとする動きは去年からあった。だが今急増しているのはウクライナの徴兵逃れだ。1年経った現実を見た。

「父子家庭も動員の対象外なので、偽装離婚して…」

去年2月24日、ロシアの侵攻を受けてウクライナでは総動員令が発せられ18歳から60歳までの男性の出国を禁じた。この時、ウクライナの男性の多くが自ら入隊を志願した。一方的に攻め込まれた国の男たちは“祖国を守る”という大義に燃え、士気は大いに高かった。去年3月の映像を遡ってみると、リビウで志願する男性たちで先が見えないほどの行列ができていた。

ところが、1年が過ぎ状況はずいぶん変わったようだ。
ウクライナの民間シンクタンク、戦争研究所の所長に実態を聞いた。現在志願兵は殆どいない。この半年の動員は事実上強制的な動員。一方で“徴兵逃れ”は後を絶たず、召喚状を出した内およそ1割が何らかの方法で徴兵を逃れようとしているという。

ウクライナ戦争研究所 ルスラン・ボルトニク所長

「(徴兵逃れのため)軍務に従事できないという偽の証明書を手に入れようとするケースが非常に多い。健康診断の結果“不良”という偽証明書、身体障碍者の証明書の作成などがある。18歳未満の子育て中の父子家庭も動員の対象外なので、偽装離婚して子供を一人で育てているふりをする場合も…」

他にも子供が3人以上いれば動員されないので、それを証明する書類を偽造するやり方もある。
これら書類を偽造したり国外逃亡を手助けしたりするブローカーにも番組は直接接触した。話によると徴兵免除の証明書の作成で約80万円というケースもあった。また、モルドバ経由でヨーロッパへ逃亡するのを手配して約67万円という例もあるという。

「前線ではなく後方で死ぬんだ」

徴兵逃れが増えた要因の一つに今年になって変更された給与体系がある。前線の兵士の給料を上げた代わりに後方支援の軍務担当者の給与が半減したという。しかし…。

ウクライナ戦争研究所 ルスラン・ボルトニク所長

「ウクライナに“後方”はない。すべての地域が攻撃される。訓練センターやインフラ施設警備中に死亡した人も多い。前線ではなく後方で死ぬんだ。それなのに給与半減では軍に入るモチベーションに影響が出る」

しかし、徴兵逃れが増えているのは給料の問題ではないというのが大方の見方だ。

神戸学院大学経済学部 岡部芳彦教授

「戦争が1年以上続いて、意識の変化というのは男性だけでなく、国民全体にある。世論調査で“ウクライナが勝つと信じているか”を問えばいまだに9割を超える人が“そうだ”と答えるんですが実際に戦争に行くってなるとプレッシャーであることは間違いない」
防衛研究所 兵頭慎治研究幹事

「戦争の長期化に加えて死傷者の数が増えてる。ロシア側は20万人以上、ウクライナ側も10万人以上が死傷していますから、やはり動員されて戦場に送られた場合は自分の命もなくなるんじゃないかって心配する。当然ですけど…」

ボルトニク所長によれば徴兵逃れは50万人にのぼるとも言われる。取り締まりを厳しくしても無理に動員された兵士の士気は上がらないだろう。これはロシア同様だろうが、その一方でウクライナには急増している兵士もいた…。

「明日生きていられるのかわからない」

男性の志願兵は姿を消したウクライナで急増しているのが、女性の兵士だ。ロシアの軍事侵攻前、ウクライナには3万2000人の女性兵士(21年12月)がいたが、今年3月時点で4万3000人に増えている。34%増だ。(中略)

キーウ市会議員 イリナ・ニコラク氏

「ウクライナの女性たちは固定観念を壊したのです。軍で女性が男性と同様に有能であることを証明したのです。(中略)こうした女性たち(軍に志願した)の選択を尊敬しています。他のウクライナ人のために自分の命を懸けて軍で働く彼女たちを誇りに思っています」

戦争まで女性活躍の場が広がることの虚無。プーチン氏が侵攻を止める決断を早くすることを祈るしかない。(BS-TBS『報道1930』4月13日放送より)【4月18日 TBS NEWS DIG】
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弾が飛んでこない所に身を置く者としては、こうした“徴兵逃れ”の是非を云々するつもりはありませんが、当局としてはこの事態を放置しては戦争遂行ができませんので、対策に乗り出しています。

****ウクライナ全国で徴兵逃れを支援した関係者を摘発****

ウクライナの法執行機関は、総動員期間中に動員対象者の金銭授受による徴兵逃れを支援するキーウ市や他10州の汚職スキームを摘発していると発表した。検事総局広報室が公表した。

発表には、徴兵逃れの組織により、刑事捜査が行われているとし、捜査の一環でキーウ市、オデーサ州、ザカルパッチャ州、キーウ州、ポルタヴァ州、ヴィンニツャ州、チェルカーシ州、チェルニヒウ州、リヴィウ州、ジトーミル州、イヴァノ=フランキウシク州にて約100件の家宅捜索が行われたと書かれている。

法執行機関は、捜査の際に医療関係の文書を摘発・押収しているとし、捜査班が、徴兵を行う地域雇用社会支援センターの職員が軍・医療委員会の委員とともに、第三者の仲介を通じて、動員対象の男性を健康状態により軍役に適さないと判断する証明書を発行し、それら男性を動員対象者登録から除外していたことを判明させたと伝えた。

そのような「サービス」は、平均で6000米ドルかかっていたという。そして、徴兵を逃れようとする男性たちは、その軍役不適切の証明書を出国のために利用していたという。

また、ウクライナ保安庁(SBU)広報室は、本件につき、ビルホロド=ドニストロウシキー軍事委員会と地元軍・医療委員会の幹部が、犯罪集団の中で活動し、同違法行為の組織に関与していたと伝えた。

これらの人物は、兵役逃れを希望する人物を探すために、「仲介者」ネットワークを組織し、その仲介者が前述の地域で関連「サービス」を提案していたという。

偽の「証明書」が発行された後は、これら容疑者が兵役逃れ希望者に対して国外脱出ルートを提示していたという。オデーサ州では、国境検問地点「スタロコザチェ」を通じて出国が行われていたと報告された。

本件の捜査は継続中とのこと。【8月2日 UKRINFORM】

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****ウクライナ、徴兵逃れほう助で軍関係者拘束****

ウクライナの汚職対策当局は3日、金銭を受け取った見返りに徴兵年齢の男性の国外逃亡をほう助した疑いで、軍関係者を拘束したと発表した。

ウクライナは昨年、ロシアの新興を受けて戒厳令を発令。18〜60歳の男性についてはいつでも徴兵される可能性があるとして、出国を禁止した。

国家捜査局によると、キーウ市当局の陸軍部門トップだった容疑者は、依頼者を兵役不適格とする虚偽の書類を発行していた。この書類を携行する男性は例外的に出国することができる。

虚偽書類の発行は1通1万ドル(約140万円)で請け負っていたという。容疑者は3人に書類を渡していたところを現行犯逮捕された。

侵攻が2年目に突入する中、ウクライナは損耗した兵力の穴埋めを徴兵に頼りながら反転攻勢を続けている。

ウクライナ、ロシアの両国では侵攻開始前から徴兵逃れが横行していた。
ウクライナ当局は今年1月、徴兵年齢の男性の国外流出を阻止するため、公務員や重要部門で働く民間労働者の兵役を免除する措置を導入した。 【8月4日 AFP】AFPBB News

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こうした事態に、ゼレンスキー大統領はすべての州の軍事委員会のトップを解任するという“大ナタ”をふるうことに。それだけ事態は深刻で全国に拡散しているということでしょう。

****ウクライナで全州の徴兵責任者を解任 徴兵逃れに絡む 汚職が相次ぐ****

ウクライナでは徴兵逃れに絡んだ汚職が相次ぎ、すべての州の軍事委員会のトップが解任されました。

ウクライナのゼレンスキー大統領は11日、国家安全保障国防会議を開き、徴兵の責任者である軍事委員会のトップをすべての州で解任したと発表しました。

ウクライナでは軍事委員会の幹部らが徴兵逃れに絡んで賄賂を受け取る汚職が相次ぎ、112件の刑事手続きが進められているということです。

ゼレンスキー大統領は後任について「最前線で負傷しながらも尊厳を保っている勇敢な兵士」を据えたとしています。(後略)【8月12日 テレ朝news】

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解任には疑惑と関係のない軍事委員会トップも含まれていますが、招集を担う軍の地方機関の汚職疑惑に国民の反発は強く、汚職対策を重視するゼレンスキー大統領は国民にアピールできる強い措置を選択せざるを得なかったとみられます。

【アメリカで冷めるウクライナ支援熱】
ウクライナにとって国内に蔓延する徴兵逃れや厭戦気分も重大ですが、支援国、特にアメリカの世論動向は気になるところでしょう。

****ウクライナ追加支援、米国55%「反対」 世論調査、共和党で強まる孤立主義****
ロシアに対する反攻作戦を進めるウクライナへの支援に関する米国内の世論調査で「議会は追加支援を認めるべきではない」との回答が55%に上ることが今月、明らかになり、衝撃を広げている。

特に共和党支持者は71%が追加支援に「反対」しており、「賛成」が62%だった民主党支持者との意識の差が鮮明となった。

調査はCNNテレビなどが実施し4日に公表した。ロシアの軍事行動を阻止するために「米国はもっとするべきことがあると思うか」との問いでは、民主支持者の61%が「そう思う」としたのに対し、共和支持者の59%が「もう十分だ」と回答。より積極的な役割を支持する人は全体で48%にとどまった。

ウクライナ侵攻が始まった直後の昨年2月に行われた調査では、同じ質問に全体の62%が「そう思う」と答えており、この約1年半で世論に大きな変化が生じたことが示された。

ロシアの侵略が国際秩序の原則を大きく揺るがす中、民主党のバイデン政権はウクライナに「必要な限りの支援を行う」として国際社会をリード。米議会もその方針をおおむね超党派で支持してきた。

しかし共和党では、2024年大統領選に向けた候補者指名争いで首位を独走するトランプ前大統領が、プーチン露大統領を「天才」「頭がいい」などと称賛してきたほか、最近ではロシアによるウクライナ東・南部の占領固定化につながりかねない「即時停戦」を主張。これを受けてトランプ氏に近い同党の保守強硬派が勢いづき、ウクライナ追加支援への反対論を強めている。

同党で反トランプ派のキンジンガー前下院議員はCNN(電子版)への寄稿で、反攻作戦が難航していることへのいらだちに加え、ウクライナの主権や国際秩序を軽視する「トランプ効果」が支持者の心情に影響していると分析した。

20年大統領選の敗北を覆すために公的手続きを妨害したなどとして今月1日に3度目の起訴を受けたトランプ氏は、自身を「政治迫害」の被害者と主張し、民主党との全面対決を演出することに終始している。南部フロリダ州のデサンティス知事ら他の候補も同様の傾向が強い。

指名争いでは今後、党派的な論争が先行し、外交・安全保障面では孤立主義的な議論が優勢となる懸念が高まっている。【8月9日 産経】

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ゼレンスキー大統領としても、アメリカのこうした動向が気がかりなだけに反転攻勢を急ぎ、その成果を出そうとしているところですが、現実は冒頭のように難航しています。

反転攻勢が大きな成果を出せず、国内で徴兵逃れのような事態が無視できない状況となり、頼みの綱であるアメリカの支援にもかげりが・・・となると、何らかの「出口」を探さない訳にもいかない・・・ということにもなります。

難しい立場のゼレンスキー大統領です。』