軍事分析者の Shashank Joshi が未来戦場を予想している。

軍事分析者の Shashank Joshi が未来戦場を予想している。
https://st2019.site/?p=21370

『2023-8-8記事「The shape of wars to come Shashank Joshi on what military analysts have learned in Ukraine and what the conflict foreshadows for the future of warfare」。
   軍事分析者の Shashank Joshi が未来戦場を予想している。『The Economist』と露語メディアの『Meduza』に載った彼の意見の要旨は以下の如し。

 西側はすっかり忘れていた。過去20年、西側軍隊が遠征した先の敵軍は弱小すぎた。それらの敵はこっちの本国を脅威できなかった。またこっちの軍需工業のキャパを不安にさせるようなこともなかったのだ。

 ロシアは改めて思い出させてくれた。敵の番付が上がるとどうなるのかを。

 ウクライナ戦争とそっくりの戦争を過去に探すなら、それは1980年代の「イランvs.イラク戦争」である。激しい膠着的な陸戦と同時並行で、互いの大都市に地対地ミサイルを落としまくった。そんな消耗戦を10年続けたのだ。

 近過去の戦争とウクライナ戦争の違いは、砲兵戦闘の情報処理が著しく進化したことと、それに偵察UAVがあたりまえのように結びついた。またスマホとコンピュータが普通に結合されている。ウクライナには「Palantir」社などが協力している。
 使われている大砲じたいは数十年前のモデルだが。

 ウクライナ軍砲兵は「Kropiva」というコンピュータシステムで砲兵戦をマネージしている。
 だが露軍も「Strelets」というコンピュータシステムを用い、複数のUAVからの情報を効率的に縫い合わせている。

 ロシアはテクノロジーの要素は持っている。ロシアの欠点は、そのテクノロジーを、機能する現実のシステムとして組織に普及させるスピードで後れを取ることだ。

 たとえばロシアの陸軍は、無線通信を暗号化する方法は前から知っていた。しかしそれに必要な機材は部隊にちっとも行き渡っておらず、ウクライナ侵攻の緒戦で手の内をぜんぶ読まれている。
 彼らは部隊間通信に市販品のスマホを重用するに至り、刻々の位置を把握され、そこに地対地ミサイルを撃ち込まれている。

 露軍は決心の処理が遅い。前線部隊が、敵有力部隊の位置を偵知して報告するところまでは早い。ところがその報告はいちいちモスクワまで上げられる。そこから、攻撃命令が降りてくるまで、前線部隊では、何もできない。砲撃命令が届いたときには、宇軍部隊はとっくに移動し去っているのである。

 末端がいくら有能でも、それは中央がボンクラであるために、報われない。この官僚組織文化は、末端の部下をして、おのれの労力をせいぜい節約しようというネガティヴ・インセンティヴを生む。たとえば事前偵察情報を一回、データベースに入力したら、それをあとから更新しようとしない。そうした末端のイニシアチブは、報われないからである。そのため、10年前の地図情報を、侵攻部隊が持たされるということになる。侵攻部隊は道が変わっているので、前に進めず、その場合どうするかという自主判断を認められていないので、座して自滅を待つ。

 宇軍の米式新編部隊は、反対攻勢を発起するや、たちどころに頓挫した。理由は、味方の他部隊との連携訓練をする暇がなかったからである。具体的には、機甲部隊が前進するときには、ドンピシャのタイミングで、それを邪魔しそうな敵の砲兵、ならびに伏撃を試みるであろう敵のATGM部隊を、制圧できなくてはいけない。広い範囲で、同時に制圧しつつ同時に前進するのである。そこに初めて「ショック力」が生じる。それは機甲部隊の固有の火力だけでできる仕事ではない。前進部隊を脇から支援する砲兵部隊や航空部隊、UAV部隊と、一段、高いレベルで協働する必要があるのだ。その協働はさらに、大規模でありながら、なおかつ、秒単位で整合しないといけない。そのような演練は、平時でないとできるものではない。戦時にはそのような大規模訓練を積む暇が、宇軍には、ありはしないのである。そんなことは最初から知れきっているのに、西側某国の階級の高いゴマスリ有能者たちが、そのリアリティを、無視することに決めたのである。

 NATOはこれまで、航空優勢のない戦争というものを、体験したことも、考えたこともない。だから、リアリティを把握し損ねてしまったのであろう。

 この戦争の救いはウクライナ軍将兵の戦意の高さにあるが、それがまたNATO高官の判断を誤らせた。宇人には意欲はある。が、高度な統合軍事作戦に関しては露人と変わらず無能である。そこを冷厳に認定するのを避けて、ウクライナ人の「熱い思い」に迎合してしまった。

 ひとつ言えること。UAVとAIの結合は、平時の西側では、よほど慎重に進めるしかない。だが今、ウクライナでは、それを乱暴に結合して即、実戦投入することが許される。これは戦時だけに許され、また必要とされる、プロセスの省略なのである。細けぇことはいいから、西側はその技術を与えるべし。

 記者は1ヵ月前、フランス軍の幕僚長と会った。彼は言っていた。フランス軍もスターリンクのようなものがほしい、と。フランス軍すら渇望しながらおいそれと手に入らない、LEO衛星群を利用する軍用通信環境を、宇軍はタダで与えられている。これはとてつもないアドバンテージ。露軍にはとうぶん、同質対抗不能。だったらフル活用しない手はないだろう。

 ウクライナは今、ドローンとEWの結合を誰でも試せる、実験場になっている。あなたがドローンとEWの実験を、平時にあなたの国の中でやったら、とんでもないことになる。民間の電波が攪乱され、民航機が堕ちて死人が出たり、多額の損害賠償訴訟を起こされる蓋然性がある。しかし今のウクライナ戦線なら、それを好きなだけ実験できるのである。チャンスは今しかない。』