ウクライナ南部を舞台にした反攻作戦、両軍が繰り広げる消耗戦の中身
https://grandfleet.info/european-region/contents-of-the-war-of-attrition-between-the-two-armies/#comment_headline
『英国王立防衛安全保障研究所のジャック・ワトリング氏は「徐々にウクライナ軍が南部戦線の優勢性を獲得しつつある」と指摘し、両軍が繰り広げている「消耗戦の中身」について興味深い説明を披露している。
参考:Stakes are high as Ukraine’s offensive starts to secure a military advantage
ウクライナ南部で勝利を手にするのは「相手に強いる消耗度合い」を維持できた方
ジャック・ワトリング氏は英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)のシニア研究員で、ウクライナ軍が実施している反攻作戦の推移や課題、今後の見通しを予測しており、これが事実かどうかは分からないが「これまで目にした反攻作戦の分析の中で最も具体的で分かりやすいものだ」と感じており、ワトリング氏の説明を要約すると以下のようになる。
出典:Генеральний штаб ЗСУ
ロシア軍がザポリージャからドネツクにかけて構築した3重の防衛ラインは「スロヴィキン・ライン」と呼ばれており、各塹壕は密集した地雷原、対戦車溝、対戦車障害物、鉄条網で守られ、その周囲を対戦車地雷と対人地雷で強化した陣地で固め、さらに「新たしい戦術」を用意して南下してくるウクライナ軍を待ち構えていたらしい。
ロシア軍が用意していた新しい戦術とはウクライナ軍の機械化部隊を地雷原に誘い込み、戦車や対戦車ミサイルによる側面攻撃で装甲車輌を動けなくし、迫撃砲や大砲で降車してきたウクライナ軍兵士に砲弾を浴びせ、地雷原を突破して陣地にウクライナ軍兵士が侵入すると「事前に用意していた爆弾」を起爆、陣地ごとウクライナ軍兵士をふっ飛ばして「攻撃の波を消滅させる」というもので、ワトリング氏は「この戦術でウクライナ軍は大損害を被った」と指摘している。
出典:Telegram経由
ウクライナ軍も直ぐに戦術を変更して適応し、突破を試みる前に少数の歩兵で敵陣地を混乱させ、正面からではなく側面からの攻撃に切り替えたお陰で「前進に要求される犠牲と損失」は大幅に減ったものの、この攻撃アプローチは複雑で時間を要するため「敵にも体制を立て直す時間」を与えることになったが、集中的に敵の対砲兵レーダーを破壊したことで「戦場の優位性」は徐々にウクライナ軍側に傾いてきた。
ロシア軍は多くの対砲兵レーダーを失ったため「発砲するウクライナ軍砲兵部隊の位置」を特定するのが困難になり、ワトリング氏は「この戦争で初めてウクライナ軍は敵陣地に対する持続的な砲撃が可能になった」と指摘、要するに敵の対砲兵レーダーが機能している戦場では射撃と射点変更を繰り返す必要があるが、これが減少もしくは消滅したため「射点に留まれる時間が増えた=1回あたりの投射火力量が増加した」という意味だ。
出典:Сухопутні війська ЗС України
砲兵戦で優位性を失ったロシア軍の砲兵部隊は効果的な火力支援が出来なくなり、地雷原や側面攻撃で車輌を破壊しても「降車したウクライナ軍兵士の生存性」が向上、その影響で陣地を巡る戦いでも優位性を失いかけているため戦車や歩兵戦闘車を前に出すしかなく、これをウクライナ軍に大砲やドローンで破壊され消耗を強いられているらしい。
ワトリング氏は「ウクライナ軍にとって敵の重装備を消耗させることは戦術的にも作戦的にも重要だ。ストーム・シャドウによる兵站攻撃の影響もあってロシア軍の支援火力は低下してきた」と指摘しているが、同時にロシア軍も必死の抵抗を見せているためウクライナ軍側の損失も大きく、特に前線の低空域をカバーする防空システムの圏外=前線から8km~10km離れた場所に陣取る攻撃ヘリに「ウクライナ軍は苦しめられている」とも述べ、この戦いで勝利を収めるのは「相手に強いる消耗度合いを維持できた方だ」と主張した。
出典:Генеральний штаб ЗСУ
さらに「南部戦線をカバーするロシア軍の第58軍は常に1/4が戦闘状態で、ローテーションのことを考えると予備戦力が殆ど残されておらず、一方のウクライナ軍は新たに第10軍団を南部戦線に投入したため南部戦線の戦力密度は偏りを見せ始めている。ウクライナでは11月初旬まで乾燥した時期が続くため、ある時点で歩兵の数が手薄になり、装甲車輌や砲兵の支援が不十分だと防衛ラインが崩れるかもしれない。ウクライナ軍はスロヴィキン・ラインを突破すれば広大な領土を解放でき、逆にロシア軍は戦線の穴を塞ぐため訓練が不十分な部隊を予備戦力として投入しなければならなくなる」と指摘。
逆に「もしウクライナ軍がスロヴィキン・ラインの突破に失敗すれば、ロシア軍は余裕をもって十分に準備が整った予備戦力を手に入れることができ、再び戦いの主導権を取り戻すことができるだろう」と予測し、秋頃までには南部戦線の大勢が判明すると断言している。
出典:Генеральний штаб ЗСУ
繰り返しになるが、これまで目にした反攻作戦の分析の中で最も具体的で分かりやすい内容だが、これが事実かどうかは分からないので参考程度に受け取って置くのが良いだろう。
追記:ウクライナのマリャル国防次官は4日「一部の南部地域で敵の防衛ラインを突破することに成功した」と発表、ただし具体的にどこで防衛ラインを突破したのは分からない。
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※アイキャッチ画像の出典:Генеральний штаб ЗСУ
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投稿者: 航空万能論GF管理人 欧州関連 コメント: 23 』
『 XYZ
2023年 8月 05日
返信 引用
偵察・攻撃型ドローンが飛びまくり、航空戦力による支援が受けられず、地雷と砲兵だらけの陣地に攻め込むという条件で今のウクライナ軍より速く戦果を挙げる事ができる軍隊を持つ国家はほとんど無いはずです。
それなのに最近はNATO式の戦術ではないから遅いだの批判が出てきています。
NATO式では対応できる状況ではありません。
前提条件を満たせていないのですから当然です。
今の戦いはこれまでに無く、今後主流になる戦いになっています。
各国の軍備や戦略に大きな変更があるでしょう。
今のウクライナ軍の状況を少しでも打開するにはロシア軍の攻撃ヘリを撃墜可能な射程10キロ程度ある機甲部隊に随伴可能な機動力を持つSHORADを提供する事ですが、西側で該当して提供できるだけの数がある装備が無い事が残念です。
35
n
2023年 8月 05日
返信 引用
NATO式の戦術ってただの弱いものいじめですからね
コソボ、アフガニスタン、イラクのような空軍力の低い地域を世界最強の空軍が一方的に蹂躙
陸軍は航空支援を受けながら死傷者の少ない戦い方をできましたという真似できない戦い方
ロシア相手では米軍でも無理ですよ
西側先進国って消耗戦をしないっていうより世論が許さないから消耗戦できないんですよね
米国世論が耐えられず撤退したイラク戦争 多国籍軍 4,807人、アフガニスタン紛争 国際治安支援部隊 3,600人の被害
米国が敗北した例とされるベトナム戦争でも北ベトナムの976,700人に対し1/4以下の225,000人でありながら世論が耐えられず撤退
だから空軍を筆頭に高額なハイテク兵器頼みの戦い方で死傷者を減らすわけですが、ウクライナにそんな戦力はない
ウクライナの保有する兵器であればNATO式なんかより
冬戦争、大祖国戦争、朝鮮戦争、ベトナム戦争、中越戦争、チェチェン紛争、アフガニスタン紛争(ソ連)、イラク戦争、アフガニスタン紛争(米国)
このあたりのほうが戦訓として役立つと思いますね
甚大な被害に屈しないことが勝利に繋がった事例も多いし、ウクライナの前身が関わってる戦争が多いからウクライナ軍としては参考にしやすいでしょう
ロシアにも同じ戦訓があるってのが厳しいところではありますが絶対に真似できないNATO式よりはいいでしょう
26
2023年 8月 05日
返信 引用
ロシア軍航空戦力の大部分が健在なのに、何故ロシア軍は大規模な航空攻撃&支援をしないのか。
ウクライナ上空が無人機だらけなのに、戦闘機や爆撃機を使った大規模攻撃なんて全くしてないし。
NATO軍のAWACSやウクライナの対空戦力がかなり効いているか、余裕がないんだと思う。
【ロシア相手では米軍でも無理】ではなく【米軍やNATO含め西側諸国全部相手ではロシア軍でも無理】なんだと思う。米軍相手に余裕綽々なら、極東地域の航空戦力全部ウクライナ方面に回してるよ。余裕はないと思う。
やっぱり戦争で攻めに行く方が余裕♪なんて言うのは米軍ぐらいだわw
1 』
『
ななし
2023年 8月 05日
返信 引用
ロシア側の塹壕に対人地雷を仕掛けられててウクライナ兵が塹壕に入ってきたら爆発する動画がありました
自衛隊はこういうのに関して対策を考えてるんでしょうか?
日露戦争で旅順要塞に突撃した際に濠に落ちて進むことも引くこともできなくなったところを
機関銃で一掃されたのと似たようなやられ方なんですが
4
ido
2023年 8月 05日
返信 引用
自衛隊は考えてるのでしょうか?と言うか世界のどの軍も考えれてないのではないでしょうか。そもそも日本で塹壕戦が起こる事自体起こりづらいのであまり重要視はされていないと思います。素人考えの簡単な対応策は塹壕に先に手榴弾を投げて誘爆させる事くらいでしょうかね。
9
TKT
2023年 8月 05日
返信 引用
そもそも本来の浸透戦術というのは、前哨陣地の塹壕を
「素通り」
する作戦であり、前哨陣地の塹壕の占領を目的としない戦術なのです。その点で、今のウクライナ軍の攻撃のやり方は浸透戦術とは言えません。
第一次世界大戦の東部戦線におけるブルシロフ攻勢、イタリア戦線のカポレットなどは、敵の前哨陣地の塹壕を素通り、迂回、突破して、後方の司令部や補給路を占領し、前哨の敵兵を孤立させる戦法でした。
別に敵が掘った塹壕をいちいちわざわざ占領して使う必要はないし、自分たちで別の場所、要所、敵の後方に塹壕を掘ればいいという話なのです。
1940年のドイツ軍の電撃戦もそうであり、ロンメルはマジノ線を占領しようとしたわけではありません。1944年のソ連軍や、米軍のパットンもそうです。
しかし前哨陣地の塹壕を素通り、迂回するには、装甲車や自走砲などを使った機動力、航空支援、制空権の確保など、色々な前提条件が必要となります。そういう前提条件がないと、塹壕を素通りしている間に砲撃や、爆撃でやられるわけです。今のウクライナ軍の敗因はむしろそこです。
10
ななし
2023年 8月 05日
返信 引用
全般前哨や戦闘前哨を素通りできても主陣地を突破しないと後方司令部や補給路へはたどり着けません。
そして主陣地はそう簡単に素通り出来ないよう間隙を閉塞してるのが通常です。
5 』
『 ポンポコ
2023年 8月 05日
返信 引用
この記事で最も興味深いのは、ウクライナ軍が対砲兵レーダーの破壊に専念したため、ロシア軍の砲撃優位が崩れたという主張である。これは重要なポイントをついている。
なぜなら、現実は、ロシア軍は航空優勢と火力優勢の両方で、ウクライナ軍の人海戦術をしのいできた。
そのロシア軍の火力優勢が崩されたのであれば、ロシア軍は困難に直面する。
その結果、もし、損害比率に大差がない消耗戦になれば、現状では兵士の数と供給力の両方で優勢なウクライナ軍の勝利は確実になる。
ロシア軍の防衛線は崩れ、兵力温存のためにロシア軍は退却せざるをえなくなるだろう。
問題は、それが本当かどうか、継続できるかどうかである。
つまり、実際にロシア軍の砲撃の優位が崩れたのか、それとも差が少し小さくなっただけなのか。
本当なら、対砲兵レーダーの損失対策をロシア軍は早急にやるはずだが、それが機能するかどうか。
13
NHG
2023年 8月 05日
返信 引用
最近増えてる露ドローンによるウ榴弾砲の破壊報告は、今の状況に適応したものだと思う
露は対砲レーダー減少により即時反撃しにくくなったからドローンによる索敵・攻撃を強化
ウ軍側も同じ場所にとどまって火力投射するから見つかりやすくなってるみたいな状況かなって気がする
13
平八郎
2023年 8月 05日
返信 引用
思えばこの前辞めさせられたロシアのポポフ少将も「我が軍には対砲兵レーダーが不足してる」と訴えてましたよね。
戦車が足りない砲弾が足りないミサイルが足りないとは言わないのにそういう不満が表面化したということは対砲兵レーダーはよほど補充が難しいんでしょうね。
おそらくレーダーの生産には特殊な半導体が必要でそれが規制で手に入らなくなってるんじゃないですかね。
9 』
『
理想はこの翼では届かない
2023年 8月 05日
返信 引用
素朴な疑問として対砲兵レーダーをそんな簡単に破壊できるのであれば、なぜもっと前から集中的に実施しなかったのでしょう?
それとも何らかの要因があって対砲兵レーダーを潰せるようになったのでしょうか?
4
匿名11号
2023年 8月 05日
返信 引用
硫黄島やサイパンで本邦守備隊の火砲が艦砲射撃でつぶされたのは、発砲することで位置を露見したからだから、似たような話では。総反攻前ではロシア軍も対砲兵レーダーの使用を控えるでしょうからねえ。
4
おわふ
2023年 8月 05日
返信 引用
効果が出るまで数を減らすには長い時間がかかったのでは。
6
ななし
2023年 8月 05日
返信 引用
ここ半年ほどでウクライナ軍が自走砲や対砲レーダーを撃破するのにGMLRS弾を使用する動画が多数投稿されるようになっています。
それまではHIMARSをもっぱら後方の兵站を潰すのに専念させていたことを考えると、砲兵、レーダー狩りに回せるほどGMLRS弾の供給量が増えたのではないかと見ています。
昨秋ロッキード・マーティンが生産ラインの強化をしているので、その効果が出始めているのでは。
通常の大砲でカウンター砲撃をすると自分も察知されて敵の反撃に晒されますが、GMLRS弾でアウトレンジするならその恐れも無いですし。
6 』